80時限目【マナエルのこと】

 

 ◆◆◆◆◆

 キャンプの翌日、

 白き天使ロリエルはお店を閉めて自室でのんびり過ごすことにしたようだ。

 今回はそんな彼女のことを神の視点で追っていこうと思う!

 ◆◆◆◆◆




 窓の外から鳥達の囀りが聞こえる。

 ロリエルはベランダのシャインバードの巣を覗き込む。雛達はもうすっかり大きくなり巣立ちも近いだろう。

 小さく微笑んだロリエルはそっと部屋へ戻り自作のパフェを一口食べる。


「うん! 我ながら美味っ」


 その時、ふと机の引き出しが気になったロリエル。彼女はフラフラと何かに導かれるように引き出しを引いた。


 そこには1冊のノートがあった。

 ロリエルはそれを手に取り大きく書かれた自由研究の文字を見て、首を傾げた。


「……自由……研究?」


 そこにはベランダのシャインバードのことが色々と書き記されている。自分の書いた字に戸惑いを隠せない。記憶に無いのだ。

 これは誰の字だろうと疑問に思ったロリエルは更にページをめくる。



 ——モッヒーのお墓を作ったよ——

 ——その日は、二人で泣いてしまいました——



(2人? もう1人は、誰……? モッヒーって?)



 ロリエルの頭に時計の針の音が鳴り響く。

 それは次第に大きくなり、

 ——————「ロリエルや、お昼ご飯じゃぞ?」


「きゃっ!?」びくんっ


 声をかけたのは爺さんだった。どうやら昼食の準備が出来たようだ。

 激しく驚くロリエルを見た爺さんは言った。


「どうしたんじゃ? そんなにびっくりせんでも」


「ちょ、お爺ちゃん……年頃の乙女の部屋をノックもせずに開けないでよ! す、すぐ行くから向こう行ってて!」


 ロリエルは爺さんを部屋から押し出し一旦ドアを閉める。そしてノートをテーブルに置いてパジャマから私服に着替え部屋を後にしたのであった。


(あのノート……何か大切な、大事なことを忘れているような。でも、それが何か分からない?)


 食事中、ロリエルの頭からあのノートが離れない。


「ロリエルや、箸が進んでおらんが、体調でも悪いかね?」


 婆さんはうわの空のロリエルを気遣い額に手をあてる。


「はて? 熱はないようじゃが?」


「あ、ごめんお婆ちゃん……ちょっと食欲なくて……部屋に戻るね!」


 ロリエルは急いで部屋へ戻りテーブルの上のノートを再び開く。


 途中で自由研究は途切れている。

 ふと、ページをめくるロリエルは最後のページで知らない字で書かれた文字を目にする。


「……っ!!」


 再びロリエルの頭の中が針の音で掻き乱される。頭を抱えながらその文字をじっと見つめるロリエル。


「……マナ……ちゃん……そうだ、マナちゃん」


 自然に漏れたその名前、


「マナちゃん……自由、研究……!」


 ロリエルの脳にマナエルとの思い出がフィードバックする。


「はうぅっ!?」

(……私、何で忘れてたの……?)


「そう、今日は一緒に自由研究の続きをしようって……約束した筈なのに」


 ロリエルはノート片手に部屋を飛び出した。

 向かった先は学校だ。部室に行けば誰かいるかも知れない。そう思ってとにかく走った。


 校門を抜け一目散にフォルネウスの部屋へ。ロリエルはノックもせずにドアを開ける。

 しかし、そこには昼過ぎだというのに気持ち良さそうに眠るフォルネウスしかいなかった。


 白き天使ロリエルはテクテクとフォルネウスの元へ歩み寄り気持ち良さそうに眠る悪魔の頬をペチペチと叩く。

 数発平手打ちを喰らったフォルネウスは堪らず起床。寝ぼけ眼で目の前のロリエルを見て言った。


「ロ、ロリエルッ!? ……どしたの、いきなり平手打ちは酷いぞ……いてて……」


「はっ! つ、つい強打してしまったわ。そ、それより先生! ……マナちゃん見なかった?」


 ロリエルの質問に首を傾げるフォルネウス。


「……マナ……ちゃん? 誰だそれ?」


「だ、だからっ……んー、えいっ!」


 パシコォォ〜ン!


「いでぇっ! な、なんでまたビンタすんのっ! しかもさっきより強く!」ヒリヒリ


「目が覚めまた? マナちゃんよ、マナエルちゃん!」


「……う……いや、だからそんな子知らないんだけど……何年生?」


「む……一生寝てろっ!」ボコ!


 ロリエルは悪魔の顔面に強烈なストレートをぶち込み部屋を後にした。


 パリィィーーン!


「だから窓から出るなっての! ……てか何をあんなに怒ってるんだロリエルの奴」ぴゅーっ




(おかしい……おかしいおかしい! 思いっ切り殴っちゃったけどもしかしたら先生も私と同じように、おかしいおかしい……何かがおかしいよ!

 ……とにかく、皆んなに聞いてみないと!)



 ロリエルは学校を後にして他の天使部の元へ向かう。全力疾走中のロリエル。

 商店街の筋を少し入った所に位置するクロエル家を発見。どうやら丁度妹達と出掛けるところのようだ。4人の妹達に揉みくちゃにされるクロエルに汗だくのロリエルが声をかける。


「ク、クロエル……ちゃんっ……はぁ、はっ……マ、マナちゃんっ……はぁはぁ……」


「ロリエルちゃん……? ……と、とりあえず息を整えてから話した方がいいんですがっ?」プルプル


「あ、ロリエルじゃん!」

「ロリエルお姉ちゃんこんにちは!」

「うおーくらえっ!」

「……ロ〜リ、ロ〜リ……!」


 騒ぐ妹達。ロリエルは大きく深呼吸をして妹達に、こんにちは、と笑いかける。そしてクロエルにもう一度問いかけた。


「マナちゃん見なかった? 今日、自由研究の約束してたんだけど」


「マナちゃん?」プルプル


(……クロエルちゃんも……!?)


「あ、あのっ、マナちゃんって? そ、それに自由研究はうちの学校にはないんですが……?」プルプル!


「あ、そ、そんなに震えなくても大丈夫だよっ! ……ありがとうっ! またお祭りの日!」


 ロリエルは5人に手を振りその場を後にした。


(クロエルちゃんまで……そ、それなら次はモコちゃんに! そんな筈ないよね? 皆んな何で知らないの? 私達の初めての後輩なのにっ!)


 白き天使ロリエルは再び息を切らしながら走る。クロエルの家からモコエルの家はそう遠くはない。


 少し走ると目の前にモコエル家が見えてくる。

 ロリエルは玄関の外で一息ついて意を決してチャイムを鳴らす。


 しかし結果は同じだった。

 モコエルも彼女のことを知らないと言う。


 ロリエルは諦めず公園で遊んでいたマールとガブリエル2世を見つけ、同じくマナエルを見なかったかと問いかけた。


 2人は首を傾げて口を揃えて言った。


 マナちゃんって、誰? と。


「そんな……マールちゃんまで……」


 ロリエルを激しい頭痛が襲う。頭を抱えて蹲るロリエルを見た2人は慌ててふためいた。


「だ、大丈夫っすかロリエルちゃん!? 頭が痛いっすか?」ぴょこん!


「た、大変なの〜っ! だ、誰かいないの〜?」あたふた


 慌てふためく2人にゆっくりと立ち上がったロリエルは言った。


「だ、大丈夫……ちょっと目眩がしただけだから……じゃ、私は行くわ! またお祭りでね!」

(皆んな忘れてる! おかしいよ……! 絶対おかしいって……マナちゃんは存在する……! だって私の中にこんなに思い出が残ってるんだから……)



「絶対に見つけて見せる!」

(待ってて、マナちゃん! 私は貴女を忘れてないよ!)



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 事件発生まで、あと、2日

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