77時限目【雷鳴】

 ◆◆◆◆◆

 メタトロンの部屋で眠っていたルシフェルが目を覚ました。しかし、そこにはメタトロンが!

 ペットの猫かとツッコミたくなるようなコンパクト大天使に少し戸惑いながらも落ち着いたルシフェルは時計を見上げる。

 今回も神視点だぞ!

 ◆◆◆◆◆





(メタトロン……そうか、僕は眠ってしまって)


 時計の針は午後9時半を過ぎたところだ。2人がこの部屋に来て既に6時間以上経過している。


(まさかずっと治療を? す、凄い熱だ……)


 ルシフェルの胸に顔を埋めて眠るメタトロンの小さな身体は熱く、息は少し荒い。ルシフェルはそんな大天使の額に手のひらをあててみる。

 額には汗が滲む。


「……メタトロン……?」


 呼びかけてみるが眉をしかめて苦しそうに息をするだけのメタトロン。彼はそんな幼女の身体を抱き上げ、後ろのぬいぐるみ達の待つベッドに寝かせた。

 ルシフェルは、自分にかけられていた肌触りの良い毛布をそっとメタトロンにかける。


 沈黙が続く。


 ルシフェルはテーブルの上のオムライスを見る。身体は正直で空腹を訴えるかのように腹の虫が鳴く。



 ☆☆☆☆☆

 一方こちらはキャンプ場、○○エル達は食事を済ませ花火を楽しんでいた。

 バチバチと火花を散らしては儚く地面に落ちる線香花火を見て、ロリエルは少し哀しげな表情を浮かべる。


 バシュバシュン!!


 ガブリエル2世は2本の打ち上げ花火に火をつけて、当然のように悪魔に撃ち込む。


「ぬぐぁっ!? 馬鹿やろっ人に向けるなっての! どわちっ!」メラメラ!


 ガブリエル2世は楽しそうにフォルネウスを追う。頭をメラつかせながら逃げ惑うフォルネウス。


「ガブリエルちゃんはほんとに先生が好きだね〜」


「そ、そうですねっ……あんなに楽しそうにしてるし!」プルプル


「そうっすね! 拙者も先生は大好きっす!」


 マールは笑顔で言ったが、それなら今すぐ助けてやってくれと切に思う。


「うん、私も〜!」


「せ、先生は優しいしっ……うん!」プルプル!


「ロリエルちゃんはどうっすか?」ぴょこん!


「……っ? え、あっ……えっと何だっけ?」


 ビクッと身体を震わせ目を丸くしたロリエル。


「フォルネウス先生っすよ! ロリエルちゃんは好きっすか?」


「す、すす好きって!? そ、そんなっ……でもまぁ、好きか嫌いかで言ったら……好き、かな」


 ロリエルは頬を赤らめながら照れ臭そうに言った。少女達は顔を見合わせてクスクスと笑い合い、再び花火に火をつける。


 ——



「……微笑ましいな、生徒にあれだけ好かれる先生はそうはいないぞ? ん?」


 そんな姿を見て口元が緩むラジエルは隣の異変に気付く。


「……」


 サンダルフォンが気持ち良さそうに居眠りをしていた。しかも座りながらだ。


「……なっ」

 ラジエルはやれやれと頭をかき再びキャンプ場の方へ目をや……

 ——————————!!!!




 そこには真っ黒な瞳が、




「…っ!?」



 真っ黒な瞳と、立派なまつ毛が風を切っていた。



 その瞳の主はマナエルだった。

 マナエルは羽ばたけば飛べるのではないかと思わせる立派なまつ毛をパタパタさせながら青髪の大天使を見据えて言葉を放つ。


「……む、少し散歩していたら人に出くわすとは。……ふむふむ、こんなところで何をしているんですか?」


「い、いや……別に……」


「……そうですか。用もなく、こんなところで寝ていると」


(な、何だこの威圧感……! あの目は危険だ……直視は避けなければ……!)


「……ふーむ、あ、通信が」ゴニョゴニョ


(くっ、コイツは只者ではない……サンダルフォンを連れて一旦ここを離れた方が良さそうだ)


 いつもの謎通信が始まった。

 ラジエルはその姿をただ呆然と見ていた。すると向こうからマナエルを呼ぶ声が聞こえてくる。


 マナエルは通信を中断して振り返った。

 ラジエルはその一瞬の隙で眠るサンダルフォンの首根っこを掴み、出来るだけ遠くへ転移した。


 振り返るマナエル、


「はて? 居なくなってしまいましたね」

 マナエルは首を傾げ大きな瞳をパチクリさせる。


「マナちゃーん! あ、こんなところにいたんすね? 今から皆んなでデザートを食べるっす! 一緒に食べるっすよ!」


 捜しに来たのは天使部部長マールだ。

 マールは眩しい笑顔で言っては小さな手のひらをマナエルに差し出した。


 マナエルはその手を握り、少し不器用な笑顔をマールにお返しするのだった。

 ——

 

 キャンプ場からかなり離れた場所まで全速力で逃げてきたラジエルは眠るサンダルフォンを起こそうと声を荒げる。


「おい! 起きろっ……いつまで寝ているんだっ!」


 身体を揺さぶるが一向に起きる気配がないサンダルフォン。ラジエルは周囲に気配を感じ眠るサンダルフォンを抱き上げその場を離れようと天使力ルミナスを解放する。しかし、


「無駄で御座いますよ? ラジエルさん。その子はマナエルの力で眠らせていますから」


「ほんとーはこんなことしたくないんだぞ? でも、やり過ぎた子には、お仕置きが必要だからな?」


 ラジエルの目線の先には、


「……大天使……ラファエル……ウリエル……」


 人気のない山中に現れたのは四大天使の水を司るラファエル。そして雷を司るウリエルだった。


「ラジエル、これから君を反逆の容疑で拘束するんだぞ? 抵抗はやめて、大人しく……」


 金色に輝く髪に身を包みながら宙を舞う小さな大天使が言い切る前にラジエルは蒼と朱の両翼から無数の粒子砲を放つ。

 不意に放たれた粒子砲は金色のウリエルを捉えたかに見えたが、


「あらあら、いきなり攻撃するなんて礼儀をしりませんの? そんな子は……」


 粒子砲を全て搔き消したラファエルはルミナスを解放、周囲を水の壁で覆い逃げ道を塞ぐ。


「くっ……」


「ちょっと待った! やられたままじゃ気が済まないだろ? ラジエルは私がやるのだ!」


 金色に輝くウリエルはルミナスを解放する。

 身体を包み込んでいた長い髪はまるで無数の翼のように広がり背中には雷を帯びた青白色の翼が展開された。


 電撃が周囲の壁に流れ込み、完全なる牢獄が完成する。


「さぁ、お仕置きの時間だぞ?」


「くそっ……」

(四大天使2人……勝率はゼロに近い……サンダルフォンが起きていれば可能性はあるが……それに、メタトロンにも連絡が出来……)

「なっ……まさかその為にサンダルフォンをっ!? ……あのマナエルとかいう少女は何なんだ……サンダルフォンを眠らせる程の力があんな少女にある訳……」


 ウリエルは目を泳がせるラジエルを見下しながら細い腰に両手を当てる。


「お前がアルビナの覚醒を抑制していることは既に調べがついているのだ。四大天使をあまりナメてかかると駄目なのだ!」


 更にラファエルが言葉を繋ぐ。


「マナエルはこちらで用意したフィルター解除係ですの。そしてその作業ももう少しで終わる。白天使アルビナの覚醒はもう目前で御座います。世界の為に、覚醒は止めるわけにはいかないので御座います」



「フィルターを解除……まさか……あんな少女、に、だと?」


「お前らは泳がされてただけなのだ。罪は重いぞ? 覚醒者の隠ぺい、そして魔界の住人との接触、堕天の擁護……流石に見過ごせないのだ。

 それで直々お仕置きに来たのだ!」


「安心して下さいね? あちらも今頃同じことになっている筈ですから。ふふっ」


 2人の大天使は反逆者ラジエルを空中から見下している。ラジエルは蒼朱の翼を広げ果敢に立ち向かう。しかし、余裕の表情でその全ての攻撃をいなした金色のウリエルは、次の瞬間、ラジエルの背後に回り背中に小さな手を当てる。


「……なっ!?」



 バチィッ



 激しい電撃音と共に蒼朱の翼が舞う。否、舞い散る。翼は弾け飛び、ラジエルは力無く地面に叩きつけられた。

 フィールドは解除され、周囲の景色は静かな森へと戻る。地面に降り立ったウリエルは少し難しい表情でラファエルを見上げる。


「……仕方ないのです。ウリエル? とりあえずこの2人を聖域で拘束します」


「わ、わかったのだ……」


「ウリエル、貴女は優しいわね」


「これも、神の意志だから、仕方ないのだ……」


 ◆◆◆◆◆

 偵察に出ていたサンダルフォンとラジエルが四大天使の2人、ウリエルとラファエルにより捕らえられてしまった!

 事情を知らないメタトロンとルシフェルの元に、あの2人が迫る!?

 ◆◆◆◆◆






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