73時限目【幼女と堕天翔】

 


 ◆◆◆◆◆

 ルシフェルは飛んだ!

 身体中に激痛が走る!

 しかし痛む身体など気にもならなかった。

 自分勝手な男の為に、命を懸けたカルナの痛みに比べれば、なんてことなかった!

 ルシフェルは歯を食いしばり天界へのゲートを解放、そのまま墜落するようにそのゲートに飛び込んで行くのだった……

 今回の神の視点で運命の再会を追う!

 ◆◆◆◆◆




 たった1年、しかし共に過ごした少女の覚悟を無駄には出来ない。ルシフェルは悔しさを噛み締める。

 そして今の自分の力ではあの悪魔には間違いなく勝てない、それどころか足元にも及ばないことを改めて思い知る。

 ソロモン72柱の悪魔、

 その一悪魔の実力を目の当たりにしたルシフェルに残された道は、



 ただ、逃げる、それしかなかった。



 ☆☆☆☆☆



 ギィィ……ギィィ……


 夕暮れ時の寂れた公園には小さな錆びたブランコがポツリと存在する。

 その小さなブランコに乗り真っ赤な空を見上げる幼女がいた。

 大天使メタトロンだ。


 彼女はこの場所に良く足を運ぶ。

 ここは昔、サンダルフォンやハニエル、そしてルシフェルと共に天使力ルミナスの鍛錬をした思い出深い場所なのだ。

 もはや言うまでもないだろう。メタトロンはルシフェルに恋をしていた。一方的な片想いだった。

 ルシフェルにはハニエルがいた、それを邪魔するつもりもなかった。

 ただ密かに、彼を見ているだけで良かったのだ。


(ここに来ると昔を思い出すな。ハニエルが白天使アルビナ覚醒して魂納の儀にかけられて百年近くの年月が過ぎた……いや、違う。

 あの時、アルビナ覚醒したのは……)


 保健室の大天使メタトロンは立ち上がり公園を後にしようと歩き出した。その時だった。

 揺れる白いポニーテールの背後に只ならぬ気配を感じた身長130センチの大天使は咄嗟に振り返る。


 瞬間、空間が避ける。


 ソレは一気に拡がり、そこから何者かが勢いよく飛び出した。そして意表を突かれ目を丸くする大天使メタトロンを地面に押し倒す。


 そして、そのまま気を失ったのか幼女の胸に顔を埋めるのだった。


 激しく頭を打ち付けたメタトロン。

 大の男にのしかかられて身動きの取れない幼女は首をあげ自分の小さな胸で気を失う何者かを確認した。


 当然、メタトロンはすぐに気付く。

 今、自分の胸の中にいるのは紛れもなくルシフェルである。しかしその身体は疲弊し切っているように見える。動けないメタトロンの心拍数は急激に上がる。頬は真っ赤に染まる。


「お、おい……ルシフェル……?」


 返事はない。

 完全に気を失っているようだ。


「むぅ……どうしたものか……」

(この身体……恐らくあちら側で何か問題があったようだの……ルミナスを全解放したことで魔界の瘴気を体内に取り込んだ。そんな所か……? と、とと、とにかく……)


 メタトロンは胸元の男を見つめる。

 この状況が急に恥ずかしくなったメタトロンは目を背けた。


「……な、何を今更……」

(しかし此奴を1人でなんとかするのはキツイの……無駄にデカいしの)


 大天使メタトロンは双子の妹であるサンダルフォンに意識を繋げる。

 サンダルフォンからはすぐに応答があった。

 メタトロンは簡潔に告げる。


「ルシフェルが帰還した」と。


 …………

 ……



 保健室のベッドで横になり未だ意識の戻らないルシフェル。

 そんな幼馴染の姿を心配そうに見つめるメタトロンとサンダルフォン、そして選定者ラジエル。


 サンダルフォンは俯き考え込む姉に言った。


「お姉ちゃん……ルッシーは……」


「……心配いらん。私が必ず助ける。……しかしこの症状はかなり難解だの……魔界の瘴気を体内に取り込んだ上、何者かに刻印を刻まれておる……」


「刻印……?」


「うむ」


 メタトロンは首を傾げ困った表情を見せる。

 そんなメタトロンを見たラジエルが口を開く。


「魔界の悪魔の中には、触れずして相手に刻印を刻むことの出来る悪魔がいると聞いた事がある。……その効果は多種多様、恐らくこの刻印は呪い……しかもかなり上級のものだ」


 そう言ってメタトロンの前で屈みその真っ赤な瞳でメタトロンの翡翠色の瞳をじっと見つめる。


「……今この中で、この刻印を破れるのはメタトロン、お前だけだ。……やれるか?」


「無論だ! このままルシフェルを死なせる訳にはいかん。天使力ルミナス解放……!」


 メタトロンの背中には光輝く翼、天使の輪はその形を変え神々しく光を帯びる。

 彼女は眠るルシフェルの胸に両手をあて治療を始める。癒しの大天使メタトロン、

 彼女はただ祈った。


「お姉ちゃん……」


「今はメタトロンを信じるしかない……」



(ルシフェル……絶対助ける……!)



 メタトロンはその小さな身体を震わせながら治療を続ける。

 ルシフェルの身体を光が優しく包み込む。



 ————


 ラウルの施したであろう刻印は想像以上に難解で解除には丸1日を費やした。


「こ……れで……大……丈夫……」


 メタトロンはそう言ってベッドにもたれかかる。


「はっ! お姉ちゃんっ!?」


 サンダルフォンが駆け寄ろうとするとそれをラジエルが制し言った。


「サンダルフォン、今はそっとしておいてやれ。これを……」

 ラジエルはサンダルフォンに毛布を手渡した。

 その受け取った毛布をメタトロンの小さな身体にかけてやり後ろから優しく抱きしめるサンダルフォンであった。


「お疲れ様……お姉ちゃん……」



 ◆◆◆◆◆

 ついに帰還したルシフェル!

 しかし、その状態は一刻を争う重症だった!

 ラウルの施した刻印の力を弱めることに成功したメタトロンは少し目を瞑るのであった。

 次回、ルシフェルが目覚める?

 ◆◆◆◆◆



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