72時限目【忠誠のチュウ】
◆◆◆◆◆
ラウル・フォルネウスの手によるルシフェル暗殺を阻止したメイド長カルナ!
そんな彼女とルシフェルは幼少期にフォルネウスが使っていた隠し通路を抜け身を潜めることに。
依然、危険な状況には変わりない。
2人は地上へ繋がる出口へと向かうことにした!
今回は神の視点で彼等の逃避行を追う!
◆◆◆◆◆
カルナは手慣れた様子で迷路のような通路を進んでいく。ルシフェルはそんな彼女に問いかけた。
「ちょっと待ってくれ……! 先に君にかけられた暗示を解く。今の君にはまだ僕のことがアビス・フォルネウスに見えている筈だ……助けてもらった上、素顔も見せないのは」
「いえ、暗示はかけたままにして下さい。……あくまで私はアビス様のメイドです。だから、その姿のままで私に接して下さい。それと……名前も聞きませんから」
カルナは振り返りルシフェルを見上げ、表情を崩さず言い切る。
「わ、分かった。ごめん、巻き込んで……」
「気にしないで下さい。貴方にはやるべきこもがあるんですよね? なら、絶対にそれを成し遂げて下さいね。そして……それが終わったら……」
「終わったら……」
「いえ、何でもありません……ここから外に出られます! 少し外を確認するので待ってて下さい」
カルナは目の前の隠し扉を開け外の様子を伺う。外には誰もいないようだ。赤い髪のメイドはコクリと頷きルシフェルに合図を出す。
2人は外に出て人気のない場所に身を隠した。
外は既に暗くなっている。
地下に何時間いたのかすらもはや把握出来ない状態の2人は街が完全に静まりかえるのを待つことにした。
そして深夜、
街を歩く一般人(悪魔達)の姿が見えなくなったのを確認した2人は闇に紛れ屋敷から出来るだけ離れるべく走る。
「どうやら追っ手はまいたようですね。ひとまずは安心出来そうです」
疲弊しその場に座り込んでしまうカルナ。ルシフェルにはかける言葉が見つからなかった。
自分の目的の為に突っ走ってきたその裏で、どれだけの人を巻き込んで来たのか。
それを考えると心が折れそうになる。勿論、フォルネウス2世に対してもそうだ。彼の人生を狂わしたのは紛れもなくルシフェルだ。そして彼女、
アビスに忠誠を誓ったメイド、カルナも…
……
沈黙が続く。
暗い路地裏で2人は小さくなり身体を休めている。
そんな2人を刺さるような眩しい光が照らした。
追っ手だ。
2人は慌てて立ち上がったが、その瞬間、魔弾が後方の塀を撃ち砕いた。
「きゃぁっ」
「……次は当てる。観念しろ、天界からのスパイめ!」
先程の黒ずくめの男達が2人を完全に包囲している。その手には
魔弾で撃ち抜かれた塀は砕け無残に崩れ落ちる。
まともに喰らってはひとたまりもないだろう。
完全に身動きを封じられた2人の前に、あの男が姿を現す。ラウル・フォルネウス。
「残念だが、これでゲームオーバーだ。この私に暗示をかけ、その上1年以上も魔界に滞在した天界の犬め。泳がせておけば何かしでかすかと思うたが、特に動きもない。貴様の目的は何だ? 答えろ」
その全てを見透かしているかのような鋭い眼光がルシフェルに向けられる。
「……くっ……ラウル……フォルネウス……!」
「答えぬか? まぁ良かろう。ならば、この場で処刑するのみ。まずは裏切り者を、殺せ」
ラウルの指示を受け男はカルナの髪を乱暴に引っ張り地面に押し付けた。
抵抗も出来ずに足蹴にされその頭に銃口が突き付けられる。カルナは覚悟を決めたかのように目を瞑り歯を食いしばる。その身体は恐怖で震えている。
「や、やめろぉっ! その子は何も悪くない! やるならこの僕だけにしろっ!」
「貴様……自分の置かれた状況を理解しているのか? 貴様に意見する権利などない。そして、貴様を匿ったこの女は立派な犯罪者だ。
……そうだ、貴様が巻き込んだ所為で、この女は無様にその小さな脳みそをぶちまけることになるのだ。貴様さえ、来なければ、カルナは死ぬことはなかったのだよ、小僧」
男は
カルナの息が荒れる。絶対的な死を目前に、なす術なくその瞬間を待つ恐怖は計り知れないだろう。
(殺される……僕が巻き込んでしまったから、カルナが……死ぬ? それでハニエルを救って……
……どうなると言うんだ?)
ルシフェルの耳にこびりつくカルナの息遣い。
銃の引き金を引く音が夜空に小さく響く。
「やめろぉぉぉっ! おおぉぉぉぉっ!」
ルシフェルは無意識にルミナスを解放する。
魔界でのルミナス解放はリスクがある。魔界の瘴気をまともに受けることになるのだ。
しかし今の彼にはこうする他なかった。巻き込んだ彼女を、見殺しにしたくないという傲慢、ただそれだけで力を解放した。
ルシフェル、その白き髪に背中の白銀の翼。
大天使級の天翔はルミナスを全開まで解放し神速の速さでカルナに銃口を突きつけた男を蹴り飛ばし、彼女を抱き上げ空へ舞った。
間髪入れず無数の光の矢をラウルと男達に向け放つ。目にも留まらぬ神速の矢は取り巻きを次々と無力化していく。
「ふん、役立たずが……」
難無く矢を弾き飛ばしたラウルは
身体に黒き瘴気をまとったラウル・フォルネウスは鬼神の形相で堕天翔ルシフェルに迫る。ルシフェルはカルナを抱きながら全力で魔界の空を突っ切る。しかし、
(くっ……な、何て奴だっ!? 全開の僕のスピードより遥かに速いだとっ!?)
距離が縮まる。
72柱の悪魔が迫る、
(くそっ、くそっ、くそっ、もっと速く! はやく! くっそぉぉぉっ!!!!)
「わ、私を捨てて……逃げて……!」
ルシフェルに抱かれたカルナは小さく呟く。
「そ、そんなことっ、出来る訳ないだろっ!」
「馬鹿ですか!? ここで2人とも捕まる、いえ、殺されたらっ……誰が、その子を救うんですか!? このままじゃ追いつかれちゃいます……貴方は逃げて、やり遂げて!」
伯爵級の悪魔が目の前まで迫る。
「逃げろって……」
瞬間、彼の言葉は遮られた。
「……この想い、この気持ち、あの人に……伝えて……」
ルシフェルの唇をカルナの唇が奪った。
カルナはルシフェルの腕を振り解き、ラウルと対峙する。
「カルナァァーーッ!」
「逃げてぇっ! そしてあの人に……! アビス様に伝えて! 私はっ……」
カルナは真っ赤なオーラに身を纏いバリアを張る。それを破壊せんとラウル・フォルネウスが力を溜める。
(くそっ! くそっ! 馬鹿だ! 僕はなんて愚かなんだ! 身勝手にも……)
「行けぇぇーーっ、お、お前の顔なんかっ、見たくない! 帰れぇぇぇっ!!」
「ゔぉぉぁぁぁぁぁっ!」
ルシフェルは振り返らず、全速力で魔界の空を突っ切っていく。
「くぅっ!!!!」
砕けるバリア、
(や、やっぱりこんなんじゃ駄目……無理よね。最期に、名前くらい聞いとけば良かったな……
……
……アビス様……)
「君は馬鹿だよカルナ……」
「申し訳、ありま……」
……
……
……
ルシフェルは飛んだ。
始まりの場所まで。
そして、ゲートを開き飛び込んだ。
ゲートは、閉じる。
◆◆◆◆◆
次回、天界へ
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