69時限目【儚きモノ】
◆◆◆◆◆
夏休みの天使部行事として、今年から新たに加えられた自由研究に挑むロリエルとマナエル! 2人はロリエルの部屋のベランダに毎年巣をつくるシャインバードの雛が巣立つまでの記録をとることにしたのだが……?
今回も白い天使ロリエル視点で話を進めよう!
◆◆◆◆◆
「……せ、先輩……」
「どうかしたのマナちゃん?」
あのドキドキくら数日後のこと、昨日はプールで泳ぎ疲れたけれど、自由研究のため私の家にやって来たマナちゃん。
基本的に無表情な顔なんだけど、少しばかり慌てた物言いで少し驚いた。
午前中はお店を開けておきたかった私は、下の階のカフェにいたんだけれど、その間マナちゃんには私の部屋に居てもらったってわけ。
「先輩、雛が行方不明です!」
「ゆ、行方不明っ?」
「はい……3羽いたはずの雛のうち、1羽が見当たらないのですよ……つい30分前にはまだいたのですが」
「ど、どうゆう事なの……? と、とにかくお店を閉めて上がるからマナちゃんはもう一度ベランダに落ちちゃったりしてないか確認を!」
「は、はいっ! すぐにっ」
マナちゃんはまつ毛を羽ばたかせ慌てて2階へ駆け上がっていった。
私はお客さんの居なくなったカフェを閉め、すぐにあとを追って2階の自室へ走った。
ドアを開けすぐにベランダの方へと向かった私はシャインバードの巣を確認する。……確かに1羽少ない。頭の産毛がモヒカンっぽい特徴的な1羽、
「モッヒーがいない……」
私はマナちゃんに視線を向けた。マナちゃんも見つけられなかったようで首を横に振り俯いてしまったわ。
「……す、すみません……自分がもっとちゃんと見ていれば……」
「マ、マナちゃんの所為じゃないよ! モッヒー……もしかしたら巣から落ちてしまったのかな……私、下を見てくる」
マナちゃんも一緒に行くと言って2人で外へ出る。見つかってほしい気持ちとそうでない気持ちが私の小さな胸を騒つかせる。マナちゃんはそんな頼りない先輩の後ろを心配そうについて来ている。
私がしっかりしなきゃ……
恐る恐るベランダの下を覗いてみると、そこには脚を怪我して地面を這うモッヒーの姿が。
「モッヒー!」
すぐに駆けつけ傷付いたモッヒーを小さな手の平の上に。モッヒーはピーピーと母親を呼ぶように鳴いているけれど、その声に力がない……
「た、大変です……! だ、誰か癒しの力がある人を探さないと……!」
「ど、どうしよう……私じゃ癒しの力は……」
「モコ先輩は?」
「モコエルちゃんは今日と明日、家族で旅行に行ってるからいないんだよ……」
手の平で徐々に声が小さくなるシャインバードの雛、モッヒーを見て今にも泣き出しそうになる。
このままじゃモッヒーが……
「先輩……こうなったらメタトロン先生に……! あ、あの人なら……!」
「……はっ! う、うん! 行こう……! こうしている内にもこの子は……すぐに学校へ!」
立ち上がりモッヒーが落ちないように優しく手の平で包み込む。
私達は雲一つない晴天の下、夏休み中の天の川中等女子学院へ向かって全力で走った。
私とマナちゃんは夏休み中の学校へ走った。小さな胸には少しずつ冷たくなるシャインバードの雛、モッヒーがいる。
暫く走ると天の川中等女子学院が視界に入ってきた。校門にはコンビニの袋を片手に歩くフォルネウス先生。先生は凄い勢いで走って来る私達に気付き声をかけてきたんだけど……
「よう、ロリエルじゃねーか」
ビューン!!
とりあえず無視! 今は先生の相手をしている暇はないわ!
下駄箱を通り過ぎ1階の廊下を走る。途中、黒光り先生タブリスに注意されちゃってこわかったけれど安定の無視! 一目散に保健室へ向かったわ!
もうすぐに着く。これでモッヒーが助かる!
私はついつい保健室のドアをノックもせずに開けた。保健室にはいつものようにメタトロン先生の姿があった。
メタトロン先生は急にドアが開いてビクッと小さな身体を震わせ何事だと振り返る。可愛いなぁ。
大きな瞳をパチクリさせていたメタトロン先生は肩で息をする私達に言った。
「ど、どうした? そんな汗だくになってからに……」
息を落ち着かせる。説明、しないと。
「先生っ……この子を助けてあげてくださいっ!」
小さな手の平に既に声を出さなくなったモッヒーを乗せて先生に差し出した。
「ふむ、シャインバードの雛だの……」
「怪我をしていて……っ!? ……か、身体が冷たく……?」
身体が硬直し冷たくなってピクリとも動かない。
メタトロン先生はその雛に左手で触れ目を閉じる。暫く沈黙が続いた。
それを裂くように先生が口を開いた。
「……少し、遅かったようだの……」
「…ぁ…」
言葉を失ってしまった。
「いくら私でもな……死んでしまった者は生き返らせん……ロリエル、すまんが私の力ではこの子は救えそうにない」
メタトロン先生は出来るだけ優しく諭してくれようとしている。その優しさが、私の胸を更にキュッとして、つらいよ。
無言で頷き、もう助からないことを認める。
そして手の平の上で息を引き取ったモッヒーのモヒカンを優しく撫でた。
「……もうすぐで飛べたんだよ……? どうして……」
「……ぅ……先輩……」
「マナちゃん……少しだけ付き合ってくれるかな? モッヒーを……」
「はい、先輩。お墓を作らなきゃですね」
「……ありがと、マナちゃん」
お礼を言って保健室を出る。
振り返ってドアを閉める際、マナちゃんが保健室の大天使メタトロン先生に言った。
「この件に関してはありがとうございます。それでは……」
——
こうして学校の花壇にモッヒーの亡骸を埋めて小さなお墓を作った私達は一度家に帰ることにした。
私達は部屋で自由研究のデータをまとめながら窓の外に目をやる。
ベランダからは小鳥の囀りが聞こえる。
既に空は星の光る綺麗な夜。
私達はベランダに出て巣を見上げた。親鳥が餌を取りに再び飛び立ち残された2羽の雛はピーピーと鳴いている。
……哀しくて涙が溢れた。
そこには新しい卵が1つ、産み足されていた。
そんなの……哀し過ぎるよ……
涙を流す私を見てマナちゃんが言った。
「儚い……ですね」
「モッヒーの代わりなんていないはずなのに」
「泣いて……いるんですか? 先輩?」
「哀しいから泣いてるんだよ。……マナちゃんだって……泣いてるじゃない」
「……あ……」
頬を伝う一筋の涙が、外の街灯に照らされキラリと光る。それは、とても綺麗な涙。
マナちゃんは驚いた表情で涙を拭うけれど、次から次へと流れて止まらない。そんな姿もやがて自分の涙で見えなくなっちゃった。
また、抱きしめてくれた。優しいんだね、マナちゃん。1人じゃなくて、ほんとに良かった……
……
その夜、眠れなくて1人天井を見つめた。
時計の針の音はやけに大きく聞こえる。
まるで自分の身体が時計になったかのような錯覚に陥る。
モッヒーを数えてみる。
モッヒーが1羽、
モッヒーが2羽……
モッヒーが3……わ……
また涙が溢れてきてしまった。
その日の夜は殆ど眠れなかったわ。弱いね、私。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
事件発生まで、あと、10日
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
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命の儚さと尊さを識った夏休みであった。
次回!
遂に魔界サイドを覗く!
堕天翔ルシフェルの視点で話を進めるぞ!
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