63時限目【天使部顧問フォルネウス】

 ◆◆◆◆◆

 遂に行方を眩ませた桃色天使モコエル!

 マナエル含む天使部のメンバー達は皆で行った秘密の寂れた公園、マールの言うパワースポットへと向かうのであった!

 引き続き神視点でいくぞ!

 ◆◆◆◆◆


 

「と、飛んじゃってるんですが?」プルプル


「今は緊急時っす! だから問題ないっす!」


「ふむ、緊急時なら問題ない。マール先輩が言うなら問題ない」

 マナエルはマールの後をぴったり付いていく。


「マナちゃん1年生なのに凄い……あんなに速く飛べるなんて! こっちは必死なのにっ!」


 ロリエルやクロエルからすればマールの飛行スピードはかなり速い。それが故に徐々に遅れてはなされてしまう。

 それを見たガブリエル2世は2人の間に入り手を握る。


「ガブリエルちゃんっ!?」プルプル!?


「放したら駄目なの〜! それじゃ、行くの〜!」


 ガブリエル2世は一気に速度を上げマールの後ろについた。ロリエルとクロエルはその手を放さぬように強く握った。


 満天の星空の下、パワースポットのあるあの丘を目指す天使部一行。天使力ルミナスを解放してまだまだ小さな羽根で飛ぶ天使達は去年の夏にキャンプをした場所まで辿り着いた。

 しかしそこにはモコエルの姿はない。


「……む、通信……ほうほう。どうやらここにはいないようですね」

 マナエルはそう言って困った顔をした。


「やっぱりパワースポットにいるっすよ。根拠はないけど……いるような気がするっす! 皆んな!」


 マールは天使部全員の顔を見る。皆は頷き、再び天使力を解放する。


「走ってなんていれないの〜! 一気に飛んでくの〜!」


「うん……! 行こう、マールちゃん!」


「い、行くしかないんですがっ!」プルプル!


「先輩達が行くなら、自分も付いて行きます!」


 心を一つにした天使部一行は肝試しエリアを飛び越え一気に丘の上の寂れた公園を目指すのであった。



 ☆☆☆☆☆


 その頃、モコエル家では、


「ただいま〜」


「あ、貴方お帰りなさい〜……今日もお仕事お疲れ様です」


 モコ父は仕事着をハンガーにかけリビングの椅子に腰掛けた。仕事が忙しかったのか少し疲れた表情だ。


「モコエルは……まだ帰ってないのかい?」


「そ、それが……」


 モコ母は夕方に部活の友達が来たことと、モコエルがまだ帰っていない事実を伝えた。

 モコ父は難しい顔をしながら少し考え立ち上がる。


「貴方?」


「……探しに行く。こんな遅くまで外にいるのは良くないからね」


 モコ父がそう言って玄関のドアを開けると、そこには悪魔がいた。


 悪魔は言った。


「探しに行く必要はありませんよ? モコエルならあの子達が必ず連れて帰るでしょうから」


「き、君は確か……」


「はい、2年1組担任、そして天使部顧問、アビス・フォルネウス二世です」




 ☆☆☆☆☆



 ……


「モコちゃーーん!」


「モコエルせんぱーい……!」


 ……


 ——



 ギィィ……ギィィ……


 街灯一つの薄暗い公園の錆びたブランコに桃色天使はいた。何をするでもなく、1人ブランコに揺られるモコエルの表情は魂が抜けたかのように虚ろで、その視線は地面の石ころをただ見つめるように下を向いている。


 ギィィ……


 ……ゃーーん!


「……ふぇ?」


 ……コちゃーーん!


 名前を呼ぶ声が聞こえる。

 モコエルが空を見上げると、そこにはマール達天使部の皆がいた。飛ぶのは原則禁止なのもお構いなしで、ルミナス全開で飛んで来た天使部一行はモコエルの前に着地した。


「……み、皆んな、はぅ」


 気まずそうに視線を逸らしたモコエルにマールが言った。


「はぅ、じゃないっす! さ、モコちゃん帰るっすよ!」ぴょこん!


「はぅぅ……帰りたくないよ〜」


「モコちゃん、話はお母さんから聞いたっすよ」


「……そう……なんだ〜……あ、あはは、私、もう部活辞めないと……だからね、皆んなとも……」


「部活辞めたら、もう友達じゃない……なんて言わないよね?」

 ロリエルはモコエルの言葉を遮るように言った。


「そ、そうなんですがっ!? ぶ、ぶぶ部活辞めたとしてもっ……と、友達なのは変わらないんですが!」プルプルプルプル!!


「というかそもそも辞めさせないの〜! こんな物はガブが食べちゃうの〜!」


 ガブリエル2世は退部届けを封筒ごと噛みちぎって捨ててしまった。見事に噛みちぎられた紙切れは風に吹かれハラハラと宙を舞い何処かへ消えてしまった。


 モコエルは豆鉄砲で額を撃ち抜かれたみたいな、そんな表情で呆然とそれを見上げた。


「退部届けは今消えたっす! さ、帰ってモコちゃんのお父さんを説得するっすよ! 皆んなで謝れば……何とかなるっす!」


「で、でも〜……許してくれないよ〜。父さん優しいけど……決めたことは曲げない人だから」


 それを聞いたロリエルは白い髪を風になびかせ言った。その顔に謎の自信が垣間見える。


「それなら問題ないわ。いつだってヒーローは遅れてやって来るって決まってるんだから。ね、ガブリエルちゃん?」


「ん? そ、そうなの〜! モコエル〜大丈夫なの〜! 信じて帰るの〜!」


 マナエルはそんな2年生達を見て1人悟ったように頷き時計を見る。

「……先輩、時間が……!」


「あ、もうこんな時間に! 皆んな、もうひとっ飛びするっすよ!」


 マールはモコエルの手を握り夜だというのに目が眩むほどの最高の笑顔を見せる。

 モコエルはその握られた手を強く握り返し、涙で真っ赤に腫れた瞳でいつもの優しい笑顔を見せ立ち上がり、天使力ルミナスを解放した。


 モコエルの身体をピンク色の綺麗な光が包み込み周囲の皆の体力を少し、ほんの少しだけ回復させる。癒しの属性をもつ天使の力の片鱗だ。


「わぁ! いつ見ても綺麗っすね! モコエルちゃんの光! これならまだ飛べるっすよ!」


 マールはルミナス全開で光を放つ。金色の綺麗な光とピンク色の光が混ざり合って幻想的だ。

 それぞれの光をまとった天使部一行は空へ舞い、凄いスピードでモコエル家を目指すのであった。



 ————————☆☆


 ……


 数分後、天使力ルミナス枯渇!


 天使達は仕方なく走ってモコエル家を目指す。体力を使い過ぎフラフラになりながらも走る○○エル達。夜は肌寒いというのに額に汗を滲ませながら必死に走ること数分、遂にモコエル家のすぐ側にまで帰って来たわけだが、


 ……話し声が聞こえる。

 男の声だ。


 曲がり角からそれを覗き込むと、モコエル家の玄関で、


 盛大に土下座をかます悪魔の姿が。



 天使部顧問フォルネウスはモコエルの父を前に土下座をしてモコエルを辞めさせないでくれと何度も何度も繰り返す。


「せ、せんせ!」

 モコエルはそんなフォルネウスの元へ走った。


「モコエル!?」


 モコ父が目を丸くして声を荒げる。


「と、父さん……ご、ごめんなさい〜、先生は悪くないの。だから怒らないであげて?」


 父を見上げて涙を浮かべるモコエル。そんな娘を見てモコ父は口を開いた。


「モコエル……無事で良かった〜。怒ってなんかいないんだ。でもね、この先生、ずっと頼むんだよ。モコエルを辞めさせないでくれって」


 モコ父は困った顔で言った。


「うちの部にはモコエルが必要なんです! 皆んなを癒して和ませてくれるモコエルが」


 フォルネウスは頭を上げない。何が何でも父の許可を得るつもりのようだ。


「あ、頭を上げて下さい、フォルネウス先生〜……わ、わかりましたから〜、部活、続けていいですからどうか……頭を上げてください」


「ほ、本当ですかっ!?」


 フォルネウスは頭を上げる。

 すると天使部の○○エル達が遅れて駆けつけてきた。


「やったっす! さっすが顧問っすね!」ぴょこ!


「フォルネウスにしては良くやったの〜!」


「し、信じてたんですが!」プルプル!


「な、中々の漢っぷりね。……デビパープルには負けるけど、見直したわ」


「これにて一件落着ですね。先輩」


 天使部メンバーは疲れた表情で最高の笑顔を見せる。それを見たモコ父は優しく笑った。


「こんなに良い友達がいるなら、辞めるのは勿体ないね〜、モコエル? ごめんよ〜父さんも少し強く言い過ぎたよ」


「と、父さんっ!」


 モコエルは父の胸に飛び込んで喜びの涙を流した。そんな娘の頭を優しく撫でながらモコ父が言った。


「フォルネウス先生、娘をこれからもよろしくお願いしますね〜」


「はい! 任せて下さい! このアビス・フォルネウス2世、責任を持って娘さんを預からせていただきます!」


 そんな姿を後ろで見ていたモコ母は安堵の表情を浮かべた。


 夜も遅いのでそれぞれを送り届け親御さんに頭を下げて回ったフォルネウス。


 最後はいつものようにマールと2人夜道を歩く。

 本当は送って行ってあげたいが、敢えてここでお別れである。


 校門の前で振り返って笑顔を見せるマールを街灯が照らす。


(この子は、今からまた一人になるのか)


 フォルネウスは痛む心を抑え込み笑顔でまた明日、と手を振る。するとマールが言った。


「先生、明日はお休みっすよ?」


「あ、そうか?」


「そうっすよ! せ、先生、信じてたっすよ、先生は絶対に説得に来てくれてるって!」


「当たり前だ。天使部は皆んな揃ってこそだろ? それにモコエルがいないと騒がしい奴しか残らないしな。花は必要だろ」


「ふふ、ありがとうっす!」


 眩しいのは街灯ではなく目の前の天使だろう。こんなに眩しい光を放つ天使の親はいったい何処に行ったのだろうか。


 こうしてマールを見送ったフォルネウスは、見えなくなったのを確認して寮へ帰るのであった。


 何はともあれ一件落着。

 天使部はこれからも6人だ。


 空は満天の星空、透き通った夜空には雲一つ見当たらない。


 雲一つない、いつもの、空。


 そんな天界の夜であった。

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