59時限目【後輩天使マナエル】

 ◆◆◆◆◆

 まつ毛の上に鉛筆でも乗るのではないかと思わせる、そんな羨ましい限りのまつ毛が特徴的な天使部の新入部員、その名もマナエル!

 少しばかり変わったタイプの後輩も、のほほんとした先輩達に囲まれてすぐに打ち解けた。依頼も受けながら平和な時が過ぎる。今回はそんな彼女達を神の視点で追ってみるとしよう。因みに、フォルネウスは保健室で会議中である。

 ◆◆◆◆◆


 

 不思議な電波系マナエルは今日も元気に部室へやってきた。

「先輩、おはようございます」


「ういっすマナちゃん!」


「う、ういっすー……!」


 マナエルはマールの真似をした。しかしテンションが違い過ぎてしっくりこないみたいだ。

 困った顔のマナエルにモコエルが微笑みかける。


「マナちゃん? 別に無理して〜、合わせなくてもいいんだよ〜?」


「マ、マールちゃんは基本……ハ、ハイテンションですからっ……」プルプル


 モコエルとクロエルが言うと、納得した表情で手を叩きいつもの謎交信が挟む。この謎の交信は何なのか? 先輩達は大きな瞳を瞬かせた。

 交信は数秒で終わりマナエルは口が開く。


「ういっす(棒読み)。お気遣いありがとうございます。そういえば……今日はロリエル先輩の姿が見えないようですね?」


「ロリエルは今日はお店の日なの〜! これから皆んなで行くから後輩も一緒に来るの〜! 拒否権はないの〜先輩の言うことは——」

「あ、マスコットちゃん。ほらおいで? お膝に座っても、いいよ?」


 マナエルはそう言って膝に手をやる。


「ガブはペットじゃないの〜!」プンプン!


「ふふっ……冗談ですよガブリン先輩?」


「む〜、仕方ないからそれで許してやるの。皆んな揃ったしそろそろ行くの〜!」プンスカ!


 こうしてフォルネウス寮の窓を突き破り外に出た天使部一行はロリエルのカフェに向かうのだった。


 道中楽しく会話しながら歩く事15分、視線の先にお洒落な外装が特徴的なlow Leeds caféが見えてきた。かなりの不定期営業だが店をあけるとそれなりのお客さんが訪れる。


 マールが入り口のドアを開けると、カランコロンとベルの音が鳴る。

 するとその音に反応して奥にいたメイド姿のロリエルが顔を出した。


「あら、早かったわね。今日はあまりお客さん来なさそうだし適当な所に座って?」


「ういっす! じゃあいつもの端っこの方に行くっすよ!」


「う、ういっす。分かりました、マール先輩っ!」


 マールにべったりな後輩マナエルはマールの後を金魚のフンのようについていく。

 ロリエルはマナエルにメニューを手渡した。


 マナエルは一度、謎交信を挟み言った。


「水出しコーヒー、ブラックで」


 先輩○○エル達、唖然。


「……え、どうかしましたか、先輩?」


「な、何でもないっす! ブラックとか飲めるんすね! 拙者、まだ苦くて飲めないっすよ!」ぴょこん


「すごいね〜、私も甘いのしか飲めないよ〜」


 感動する2人に大きなジト目を向けたマナエルは、瞬き1つで風を起こしそうなまつ毛を羽ばたかせる。


「自分は甘い物があまり得意じゃなくて。でもコーヒーは好きです」


 マナエルはクスッと笑いロリエルを見あげる。


「分かったわ。水出しコーヒーブラックね? うちのコーヒー、結構人気なんだよ? それじゃ少し待っててね」


 白き天使はそう言って奥の厨房へ歩いていった。

 そんな中、ガブリエル2世が美味しそうにメロンソーダを飲んでいるのを見て首を傾げたマナエル。


「その、緑色の液体は何ですか、ガブリン先輩?」


「メロンソーダ知らないの〜?」


「ふむ、飲んだことありませんね」


 ガブリエル2世はマナエルにメロンソーダを差し出した。

 それを少し口に含んだマナエルはブルっと細い肩を震わせた。


「シュワシュワーってする……」ブルブル


「あれ、マナちゃん炭酸を飲んだことがないっすか?」


「炭酸。そうかこれが炭酸ですか。中々刺激的ですね。ガブリン先輩、やりますね!」グッ!


 何故か少し興奮気味に言ったマナエルはメロンソーダをガブリエル2世に返す。


「当たり前なの〜! 後輩はお子ちゃまだからまだ早いの!」ドヤァ!


「ガブリエルちゃん〜、間違いなくブラックを飲める方が大人だよ〜」

 モコエルの適切なツッコミには耳を傾けないガブリエル2世はドヤ顔でメロンソーダを飲む。


 そうこうしているうちにロリエルが水出しコーヒーを運んできた。ミルクと砂糖も用意したがマナエルはそのままそれを口にし、落ち着いた表情で言った。


「聖竜山の天然水に地元天の川産のコーヒー豆を使用。口当たりが滑らかで、しっかり味わい深い天の川産のコーヒー豆のクセを、最後に聖竜山の天然水がリセット、中和してくれる。

 しかも氷も天然水を使用する商品への徹底した拘り……素晴らしい」


 先輩○○エル達呆然。


「よ、よく分かったわね!? 全部合ってるわ」

(このコーヒーはお兄ちゃんの拘りが詰まったコーヒーだから美味しいって言ってもらえるとやっぱり嬉しいな)


 ☆☆☆☆☆


 

 そして帰り道、皆と別れたマールとマナエルは家が同じ方向ということで共に帰路についた。


 空は今日も雲一つない。

 赤く染まる空が、今日1日の終わりを告げているようだ。平和な日常がまた明日も、明後日も、



 ずっと続くと皆がそう思って疑わない。



 









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る