45時限目【決着!体育祭!】
まだだ!
まだ勝負が決まった訳ではない!
一旦席に戻ったかめさんチームは次の種目、騎馬戦に向けて再び気合いを入れなおす。見たところ、皆の士気も回復しているようだ。どうやらマールが上手くまとめてくれたみたいだな。
だが、状況が芳しくないのは変わらない。何とか次の騎馬戦で勝ち最後のリレーに繋げたい。
「この点差をひっくり返すには次の騎馬戦で少しでもリードして最終のリレーに繋ぐしかない。皆んな、ここが踏ん張りどころだぞ? まさか、諦めた奴なんていないだろうな?」
1組から3組の天使達が熱い視線を送りつけてくる。熱すぎて俺が怯むほどの眼光だ。彼女達もまだ、諦めてはいないようだ。ならば、
「皆んな、最後まで頑張ろう!」
サハクィエル先生もそう言って拳を空に向かって振り上げた。その時、立派なナニが死ぬほどバインと跳ね、天使達の視線もそれを追うように跳ねる。勿論、俺の視線も跳ねたが、それは秘密だ。
俺は横目で見ただけだからセーフだ。それはさておき、○○エル達は、その爆乳天使の掛け声に、おーっ! と声を大にして応えるのだった。
そうこうしていると、1年生の騎馬戦の時間が迫る。皆の顔から笑顔が消えた瞬間だった。
天使、こわい。
そして遂に、始まりの笛が鳴った。
グラウンドでは○○エル達の天使とは思えないほど過激なぶつかり合いが始まる。
次々とタスキを取られて崩れていく天使達。
想像を逸していた。
これは戦争だ。可愛い天使達が、今の俺には魔界の軍馬に跨る魔界騎士に見える。
どれ、あれはクロエルだな。
「あわわ……な、なななんで私が上なのっ!? 一番小さな子が上の方がっいいと思うのですがっ!?」プルプルプル!!
マールが真ん中、左右にちびっ子天使ガブリエル2世とロリエルの騎馬にクロエルが騎手で乗っかってプルプルしている。
プルプルするクロエルに構わず出撃したマール達は戦況を確認しながら前に進む。
因みにモコエルは騎馬戦には向かないので選抜から外れている。
「クロエちゃん! あの時を思い出すっす! さぁ! 無双するっすよ!」
「えっ! ちょ……っまま待っ!? ひぃー!」プルプルプル!!
クロエルを乗せた騎馬が敵陣に突っ込んでいく。だ、大丈夫なのか? クロエルで?
「ひぃ〜えぇっ!!!!」プルプルポコポコ!!
ドンガラガッシャーーン!
「きゃぁぁーっ!!!!」プルプルポコポコ!!
チュドーーン!
「もう嫌なんですがーー!!!!」ボコバキ!!
ズドドドドドドドドドドドド!!
うん、なんだろうか、
戦場は正に、クロエル無双だった。と、しか言えん暴れっぷりだ。クロエルがあそこまで攻撃力特化だったとは、知らなんだ。
かなりの敵兵を討ち取ったクロエルはうさぎさんチームのリーダー格の騎馬に狙いを定める。
マールは一気に距離を詰めていく。
「ひぃっ!? あのごつさには勝てないっ!」プルプルプルプル!!!!
重量級の○○エル号がこちらに気付き突撃してくる。あのデカさは流石にキツいか!?
「嫌です嫌っ! 止まってほしいんですがぁぁっ!! ペシャンコにされちゃうのですがーーーー!?」プルプルプル!!
「クロエルちゃんっ!
ロリエルが怯えるクロエルに言った。いや、アレ呼ばわりはいかんよロリエル?
「なのっ?」
「ガブリエルちゃんの頬っぺを好きなだけ!!」プルプルプルプルプルプル!
お、なんだ? クロエルの超振動が!?
「それなら俄然負けられないんですがぁっ!」
勝負は一瞬であった。
敵将、討ち取ったり!
こうしてクロエルの一騎当千の活躍で騎馬戦で勝利を収めることが出来た。それにより、かめさんチームは最期の闘い、チーム対抗リレーに望みを繋げられたわけだ。
リレーは各チームから6名の選抜を選び順番に走っていく一般的なスタイルで行われる。
因みに第5走者は先生枠になっており代表が走る事になっている。その役目は勿論俺だ。
サハクィエル先生は間違いなく走るのに向いてないだろうし、ルマちゃんは運動無理だろうし、俺が走るのが妥当だ。それに、タブリスの野郎との勝負があるのだからな。
俺はリレーの代表達を連れ、正真正銘最後の戦いの舞台へ上がる。
第1走者が位置につく。
スタート。
第1走者は両チーム譲らずで、そのまま第2走者にバトンを渡す。
走る走る! 抜かれ抜き返しを繰り返す第2走者も僅差で第3走者へバトンを渡した。
と、その時、地面にバトンが跳ねる!
そう、バトンを受け取る際、手を滑らせバトンを落としてしまったのだ。
しかもそれはかめさんチームだ。
慌ててバトンを拾い3組の子が必死に走るがその差はかなりひらいた。
うさぎさんチームの第4走者は既にバトンを受け取り走り出している。しかし、
かめさんチームの第4走者は陸上部カマエルだ。相手チームの走者が四分の一を走り切ったところでカマエルにバトンがわたる。
「よっしゃぁぁーー、いっくぞぉぉーー!!」
速いっ! その速さは正に神速! 一気に距離を詰めていくカマエル! これは予想以上だ。
褐色の少女はグラウンドの砂を蹴りまるで狩をするチーターのようにうさぎさんチームの第4走者を追い詰める!
「ぬあぁっ! センッセー!」
「ゔおおおお! カーマエーール!」
カマエルからバトンを受け取った時にはその差はほぼ埋まっていた。
勿論、相手は黒マッチョのタブリスだ!
◆悪魔フォルネウス二世vs黒光り天翔タブリス◆
直接対決だ!
走る! 走る! はしるっ! 見るからに暑苦しいがなりふり構ってられるか! 第1コーナーを曲がった所でタブリスに並んだ!
くはっ、息が、苦しいっ!!!!
「ぬがぁっ!? 若造がぁっ!」
タブリスが速度を上げた。くそっ、なんで奴だ。負けられるかーー!!
「うおおぉっ!」
俺は歯を食いしばりすぐに距離を詰めてやる。
「小賢しいっ!」
再びタブリスがリードを奪う!
「まーけーるーかぁっ!」
激しい攻防に観客席がこの上なく盛り上がりを見せる。しかし、俺はそれどころじゃねー!!
最後のマールにこのまま繋げば勝ち目はある! この黒光りは俺より間違いなく速いっ!
悔しいがそれが現実だ! なら俺は!
せめて距離を保って最後に託す!!!!
「行けっ! マール! お前で決めてくれぇっ!」
バトンは俺からアンカー、マールに渡る。
マールはバトンを受け取るなり物凄い速さでグラウンドを駆けて行った。相手チームのアンカーもかなり速いが、ぐんぐん距離を詰めている。
俺は勢いあまって地面を滑りながらマールに願いを託した。情けないが、後は祈るしかない。
「負ける訳には行かないっす!」
マールは最終コーナーを抜けた所でラストスパートをかける。かなり速い。一気に追い抜き距離があいた。このまま走り切れば逆転勝利だ。
その時、
マールは勢いあまって足を滑らせる。
マールの体勢が崩れたその隙にうさぎさんチームのアンカーが抜き去ろうとスパートをかけた。
「まずい!? マール!!」
俺の声が届いたのかどうかはわからないが、マールは器用に体勢を整え、思いっ切り砂を蹴り抜き去ろうとするうさぎさんチームを突き放した!
もはや、——誰にも追いつけない!!
最期はぶっち切りでゴールテープに飛び込んだマールだった。
歓声がこれでもかと上がる。
ゴールしたマールにかめさんチームの皆んなが駆け付ける。喜び合う○○エル達の瞳は嬉しさからか潤んでいるように見えた。
その光景は、とても綺麗で輝いている。しかし、眩しくても、悪い気はしないな。
地面にひれ伏せたまま逆転勝利を喜ぶ俺に差しのべられた手があった。
それはタブリスの黒光った分厚い掌。俺は少し驚いたがその手を取り立ち上がり、どうも、と頭を下げた。タブリスは俺の背中をバシバシ叩きながら言った。痛いから!
「はっはっはっ! 完敗だ! こんな清々しい敗北は今まで経験した事がないぞ若造! いや、フォルネウスよ! はっはっはっ!」
「いや……俺は何にもしてませんよ。勝ったのはあの子達ですよ……」
するとサハクィエル先生が砂まみれの俺を気遣って爆乳をこれでもかと揺らし駆け付けてきた。眼福だが、ちょっと迫力ありすぎですよ?
「はぁ、はぁ……フォルネウス先生! や、やりましたね!」
目が合い、思わず笑った。
タブリスはそんな俺達に背を向け言った。
「約束通り、手を引かせてもらう。フォルネウスよ、彼女を泣かせるんじゃないぞ? はーっはっはっはっはー! 愉快愉快!」
そう言ってタブリスはうさぎさんチームの方へと去ったのだった。いったいなんだったのだ?
そ、それはさておき、そう、勝ったのだ!
「うおおぉぉーーーー! サハクィエル先生とデート、キターーーーーー!!!!」
思わず叫ぶ俺に教え子達が群がり揉みくちゃにされた。勿論、ガブリされたが今の俺には多少の流血なぞ効かぬ!
その後、閉会式が行われ1年生から3年生それぞれの勝者を称え激闘の体育祭は幕を降ろしたのだった。
やがて○○エル達は帰宅し俺は寮で死んだように眠りについた。
◆◆◆◆◆
見事、ジンクスを打ち破り勝利をおさめたかめさんチーム! まずはおめでとう!
しかし、フォルネウスは気付いていない。
とても大事な事を見過ごしていることに!
天界の空は今日も満点の星空。天使達も今夜は良く眠れるであろう。ひとまず、お疲れ様だ。
◆◆◆◆◆
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