42時限目【猛特訓】
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天の川中等女子学院の体育祭開催まで残り1週間を切った。毎日のように秘密のパワースポットへ赴き主に大縄跳びと騎馬戦の練習をこなす1年1組の○○エル達!
ガブリエル邸の執事達もしっかり招集され、毎晩○○エル達の夕食を作らされている!
勿論、フォルネウスも一緒である! さぁ、決戦の時は近いぞ! 気合いを入れるのだ!
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「こら〜早く作るの〜っ! 皆んなお腹空いてるの〜!」
ガブリエル2世が召集した執事軍団にゲキを飛ばす。執事達は更に作業速度を上げていく。
「はっ、はい、しかしお嬢様、数が数でして」
「言い訳するななの! とっとと作るの〜! じゃないと噛みつくの〜っ!」ガブリ!
執事達は流血しながら急いで夕飯の支度をするのであった。かわいそうに。
「ちょ、ちょっとかわいそうだよ」
ロリエルはその様を見て執事達に同情している。それはさておき、ガブリエル邸の執事達は本当にタフである。と、いうかタフじゃないと務まらないのだろうが、本当によく我慢するよな。
☆☆☆☆☆
ようやく完成した夕飯を皆んなで囲む○○エル達。俺もありがたくいただいたが、普通に絶品だった。ま、サハクィエル先生の手料理には及ばないが、シェフの腕前は確かなようだ。
こうして一致団結して特訓をしてみてわかったのは、やはり、大縄跳びが鬼門だということ。
これだけはクラス全員の息をぴったり合わせるしか回数を伸ばす術が無い。
大縄跳びの競技はクラスごとで行われる。2組と3組も飛ぶので計3チームの合計を争うわけだ。
サハクィエル先生によると2組と3組の平均は30回が限界だとか。因みにうさぎさんチームの平均は50回以上。さすがに強いな。
だが、例年の統計から推測するに、大縄跳びを制する者が勝利するという方程式が存在するらしいし、ここは負けられないよな。
食事をしながらお互いの意見を言い合うクラスの皆んなを見ていると、何だか少し微笑ましく感じた。コイツらも入学当初では考えられないくらいに打ち解けたな。
☆☆☆☆☆
それからも毎日のように猛特訓は続き、遂に体育祭前日の放課後がやって来た。
「よし、皆んな。やれることはやった! 後は明日、その成果を出すだけだ! お前達ならやれるっ!」
なんとなく、勝てる気がする。
何故ならこの数日で大縄跳びの平均は飛躍的に伸び、クラスの団結力もかなり固まり、更に生徒達の顔にも自信が満ちている。
見てやがれよ……黒マッチョ!! 最後はこの俺がリレーで引導を渡してやる!
悪魔を舐めてくれるなよ!!
——
と、まぁ、それはさておき、
ホームルームを終え、天使部の5人も荷物をまとめて教室を後にした。俺はそんな5人を見送り自らも教室を出ようとしたが、その時、
ガタンと音を立てて教室のドアに何かがぶつかったような音が聞こえた。外からだ。
何事かと外に出てみると、そこには倒れ込んだマールの姿があった。
糸の切れた操り人形のように廊下にへたり込むマールをガブリエル達が心配そうに支えている。
俺は慌てて駆け寄りどこか虚ろな目をするマールに声をかける。
「おいっ? どうしたマール? 大丈夫かっ? 今、保健室にっ!」
「だ、大丈……夫っすよ、せん、せ。ちょ、ちょっと立ち眩みしただけっすから」
マールはそう言って立ち上がり笑顔を見せる。だがその笑顔にはいつもの破壊力はないように見える。連日の特訓で疲れてしまったのだろうか。
「マール?」
ガブリエル2世は心配そうにマールを見上げる。そんな彼女に笑いかけ、その手を引くマール。
「あ、おい本当に大丈夫なのか? 体調が悪いなら明日は……」
「大丈夫っすよ! 先生っ、明日は絶対に勝つっすよ! 先生のためにも、黒マッチョを倒すっす!」
赤いリボンがフワリと揺れた。マールが笑えば、リボンも揺れる。しかし、そのリボンもどことなく元気がないような、そんな錯覚をおぼえた。
「あ、あぁ……そうだな。この1ヶ月、皆んなで頑張って来たんだからな。絶対に勝とうぜ!」
俺は無理して笑うマールの頭を撫でる。マールはくすぐったいといった表情を見せ頬を赤らめた。どうやら熱があるわけではなさそうだ。
少し、疲れただけなら良いが。
「マールはガブが執事を呼び出して家まで一緒に行くの〜、フォルネウスは自分の心配をしろなの〜。明日、負けたらサハクィエルがNTRなの〜!」
「ちょ、馬鹿なことを言うなって! そ、それはそうと、マールを頼むぞ?」
俺は流れのままにガブリエル2世の頭を撫でる。銀色の髪は艶やかで、それでいて指通りが最高に滑らか。
「なの?」
ちゃんと手入れをすれば、大天使ガブリエルのような鏡を思わせる髪になるのかも知れないな。
そうか、つまりは、コイツが大人になれば、やはり美人になるのか?
「なの〜?」
いやいや、さすがにそれはないよな〜
「なのなのなのなのなの……」プルプル
ガブ
「ぐ……すまんがマールを頼む……俺は保健室へ直行せねばならん……」ぴゅー!
「任せておけなの〜!」
こうして彼女達も下校し、保健室で噛まれた指を治療した俺は寮に戻る前にいつものコンビニで、いつもは買わないスタミナモリモリ弁当を買って帰る。明日の為に食わねばな。
今日もいつもの女の子は元気に働いている。本当によく働く子だな。
寮に戻ろうと校庭を歩いていると花壇の花に水をやるサハクィエル先生を見つけた。
彼女は俺に気付きゆっくりと立ち上がり、そして振り返ると、透き通るような眩しい笑顔で言った。
「いよいよ明日、ですね」
「そ、そうですね」
真っ赤な夕日に照らされ暫し無言で対峙する。
沈黙を破ったのはサハクィエル先生だ。
「私は、ラミール大公園でピクニックをして、それから夜にはルミナタワーに登って夜景が見たいです」
頬を赤らめながらもまっすぐ悪魔である俺の目を見て話す天使サハクィエル。
その姿はとても綺麗だ。
誰にも、渡したくないな。
「それはとても楽しそうですね、サハクィエル先生。明日は必ず勝ちます」
「約束ですよ?」
「約束です!」
小指を絡め合い、やがて固く結びつく。
その時、
気のせいだろうか。校舎の一室のカーテンが閉まったように思えた。
◆◆◆◆◆
いよいよ明日、体育祭開幕だ!
これまで必死に特訓した成果を、今こそ!
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