40時限目【迫る体育祭】

 ◆◆◆◆◆

 授業参観も終わり2学期の一大イベント、体育祭が迫る。次第に○○エル達の士気も上がりはじめ、校内は体育祭ムード一色に染まりつつあった!

 そんな中、生徒達以外の者達の士気もじわじわと上がりはじめる。

 ◆◆◆◆◆



 体育祭か。

 女同士のガチンコ対決。

 毎年天の川中等女子学院の体育祭は他校の生徒達も観にくる程エキサイトする一大イベントのようだ。2年生、3年生の先輩達もかなり気合いが入っているようで、部活を終えたあとも、リレーや大縄跳び、更には騎馬戦といった競技の練習に明け暮れている。


 勿論、1年生も負けてはいない。

 天の川中等女子学院の体育祭は1組から3組、対して4組から6組の2チームに分かれて争われる。


 1組は俺、2組担任がサハクィエル先生。

 そして3組というと……ルマエル先生である。


 ルマエル先生。

 彼女は眼鏡の似合う数学教師で淡い紫色のショートヘアが特徴的である。ここだけの話、歳は今年で132歳になるが見た目は全くそんな風には見えない。

 悪魔もそうだが、天使恐るべしだな。


 俺達は職員室の窓から下校時間になってもまだ練習に明け暮れる生徒達を見ながら話す。


「体育祭って結構本格的にやるんですね」


 あまりにも皆が真剣だから、つい言葉が漏れてしまった。すると、ルマエル先生が眼鏡を光らせる。


「そうだね。天使×青春=体育祭、だからね。うんうん」


 ルマエル先生は勝手に1人で納得して頷いているが、とりあえず、意味がわからない。


「去年も凄かったんですよ? 騎馬戦で乱闘騒ぎに……保護者達まで興奮してしまって止めるの大変だったんですよ〜、ふふっ」


 ふふっ、て、笑い事じゃないような気もしますよ、サハクィエル先生?


「こ、ここ……一応女子校ですよね? まぁ、俺達1組から3組はチームですし、お互い頑張りましょう」


「そうですね。2組と3組の子は運動に向かないタイプの子が多くて少し心配ですが……フォルネウス先生の1組はかなり活発な子が多いですから、そこに期待しましょう!」


 サハクィエル先生に続き、頷いたのはルマエル先生だ。


「うんうん。うちのクラス×運動=出来ない。だからね。うん、やっぱり君のクラスにかかっているようだよ」


 さいですか、ルマちゃん。意味は不明だよ。


 俺達がそんなことを話していると、後ろから鼓膜が破れる程大きな声がした。男の声だ。


 振り返るとそこには黒光った身体をこれでもかと鍛えあげた強固な肉体を持つ1年4組の担任、


 黒光りマッチョ正天翔、タブリスがいた。


 タブリスは体育の先生で、この体育祭にかける思いは人一番強い。


「やぁ、君達。体育祭ではうちのチームが勝たせてもらうぞ? はっはっはー!」


 そう言いながら大胸筋をピクピクさせるタブリスは俺の肩を鉛でも仕込んでいるのかと思わせる質量の掌でバシバシ叩く。

 身体に電撃が走る。痛いからやめれ!


「天翔×黒光り=五月蝿い……てね。うん、しっしっ、暑苦しい」


 ルマちゃん、めちゃくちゃ嫌ってますよね?


「はっはっは! 何とでも言いな! 1組も中々の素材が揃っているようだが、まぁ、うちの敵ではないな! 元気なだけではうちのアスリーーーートチィーッムには敵わぬ! はっはっはっはー!」


 黒い塊が白い歯を見せつけるように声高らかに笑う。コイツは魔界側じゃね?

 それはそうと、俺はこの男があまり好きじゃない。ゴリゴリ系は苦手なのだ。


「お、お言葉ですがタブリス先生? うちの子達をあまり見くびらない方がいいですよ?」


 生徒を馬鹿にされて腹が立った。俺らしくもないが、ここは少し抵抗させてもらう。


「ほぅ、若造? 俺と勝負するってかぁ? 面白いじゃないか!」


「望むところですよ……!」


 喰らえ! 悪魔の眼光!


「ぐっ……中々いい目をする……! ならばこうしよう! 勝った方がサハクィエル先生とデートをする! どうだ!」


 白い歯を光らせ、巨漢が馬鹿なことを言い出す。


「ちょ、な、何でそうなるんですかぁっ!? 絶対嫌ですっ! 絶対絶対嫌ですし、無理ですからねっ!?」


 サハクィエル先生、全力否定じゃない……


「黒光り×サハクィエル先生=無い無い、うんうん……」


「ふっはっは、ルマエル先生には運動はキツいですもんなー! 何せ133歳ともなれば……」


「若造、——コロスヨ??」


「あ……すんません……」


 馬鹿めタブリス! 彼女は132歳だ。女性の歳を声を大にして吠えたばかりか、1歳上に間違えるとは、そりゃ、コロサレルよ? ざまぁ!


 それはさておき、——さておいて良いのかは別として、ひとまずさておき、

 こんな提案、普段の俺なら乗らないが、だがしかし、勝てばサハクィエル先生とデートが出来るとあらば、男、いや、漢として引くわけには。

 心なしか眉毛もうずくぜ。


「いいですよっ! 受けて立ちますよ、その勝負!」


 黒光りマッチョと睨み合う。


 それを見て肩を落とすサハクィエル先生。

 タブリスは好敵手を見つけ気分良さそうに職員室を後にした。

 そんなタブリスが居なくなったのを確認したサハクィエル先生がようやく口を開く。


「もう……フォルネウス先生ったら……何であんな勝負受けちゃうんですかぁ〜……」


 頬を真っ赤にして涙目で俺を見上げるサハクィエル先生。


「タブリスはサハクィエル先生を狙っているからね。サハクィエル先生が新任だった去年なんて凄い猛アタックされてたしね。うんうん。あれはキモかった、キモかったね」


 ルマちゃんマジで嫌いなのね。いや、しかし気が合うね。それはそうと、サハクィエル先生を狙っているだと? 


「えっ!? あの黒光りに? そりゃ大変ですね。こうなったら何が何でも勝ちましょう! サハクィエル先生、ルマエル先生っ! そ、そして……その勝ったら、お、俺とデートして下さい、サハクィエル先生!」


 あんな黒光りにサハクィエル先生を渡せるか!

 何が何でも勝つ、それしかあるまい!


 サハクィエル先生はキョトンとした表情で少し戸惑いながらも頬を赤らめ、


「っあっ! は、はいっ! よよよろこんで!」


 と、強烈な笑顔で頬を赤らめる。


 よろこんでーーーーーー!

 タブリス、ぶちのめす!!


「フォルネウス先生×サハクィエル先生=いい感じ。うんうん、既に答えは出てるね」


「よっしゃぁっ! 約束ですよっ!」


 恐らく喜色満面の俺を見て、クスクスと笑うサハクィエル先生は綺麗だ。

 この戦い、絶対に負ける訳にはいかない!


 ◆◆◆◆◆

 4組の担任、黒光りマッチョタブリスに、サハクィエルをかけた勝負を持ちかけられたフォルネウス2世はなんとその勝負を受けた!

 しかし相手チームは運動能力が極めて高いゴリゴリ女子の集まったチームだぞ!?

 大丈夫なのか、フォルネウスよ!!

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