38時限目【降臨!大天使ガブリエル!】

 

 ◆◆◆◆◆

 2学期の始まりに毎年行われる行事、三者面談!

 フォルネウスのクラスには、あの大天使ガブリエルの愛娘がいる!

 大天使との面談を無事に乗り越えることが出来るのか!? 頑張れフォルネウス!

 お前ならきっとやれる!

 ◆◆◆◆◆




 授業参観。遂にこの日が来てしまった。


 憔悴しょうすいしきった表情を鏡に移す俺。堪らずため息をついているとサハクィエル先生が声をかけてきた。

 朝、その笑顔を見るだけで少し気分が晴れた俺は1年1組の教室へと足を運んだ。

 廊下には既に誰かの保護者らしき正天使に正天翔達が並んでいて、それぞれ世間話に花をさかせている。


 天の川中等女子学院の授業参観は1時限目のみで、そのクラスの担任の授業を見学することになっている。つまりうちは天使学の授業である。


 大天使の前で天使学の授業。緊張で魂を抜かれそうになりながら震える手で教室のドアを開ける。


 今日はやけに静かだな。


 ○○エル達は全員が全員、後ろにいる何者かを見て静まり返る。

 そう、既にそこには、


 大天使ガブリエルが降臨していた。


 大天使ガブリエルは○○エル達に優しく微笑みかけている。その姿は想像とは全く違った。


 大天使ガブリエル、

 正に大天使と呼ぶに相応しい神々しさ、そして何より美しい。銀色の髪は娘と違って綺麗に手入れされていて覗けば顔が映るのではないかという錯覚すらおぼえる。


 なだらかな撫で肩に均整の取れた手足、鏡のような綺麗な銀色の髪を下の方で束ねた姿は正に完璧と言うしかあるまい。

 だがしかし、どことなくガブリエル2世に似ているようにも見える。


 まさか……アイツ成長したらこうなるのか? いやいやそれはないよな。


 ガブリエル2世は久しぶりに母親に会えて嬉しいのかとても上機嫌な様子だ。

 天使達はその優しい眼差しに安心したのか大天使ガブリエルに群がり我れ先にと質問を投げつける。

 大天使ガブリエルはそんな質問に1つ1つ丁寧に答えている。


 しかし、父親の大神官ライナスの姿が見えないようだ。

 そんな事を思って佇んでいると俺に気付いた大天使ガブリエルが軽く会釈をしてきた。俺が合わせて頭を下げると、子供達を優しく諭しては、まるで浮いているのかと思わせるスムーズな歩みで教壇にいる俺に近付いてきた。


 最近は慣れたと思っていたがこの眩しさは規格外だ。これが、大天使なのか。


 そんな思考を巡らせる俺を見て優しく微笑んだ大天使ガブリエルが口を開いた。



 ガブ……



 …………え?



 俺の小指に噛み付いた大天使ガブリエル。



「ふふ、いつも娘がお世話になっております。たまに帰ると貴方の話を良く聞かせてくれるのですよ? とても楽しそうに話すので是非一度、お会いしたいと思っておりました。

 父ライナスは外せない仕事が入ってしまい来ることがかないませんでしたが、このような母親で良ければ、宜しくお願い致します。挨拶代わりに一噛み、させて頂きました」


 とても丁寧でゆったりとした、それでいて心地良い声で大天使ガブリエルは言った。


 噛まれた小指には傷1つない。痛いというより何か不思議な感覚だった。


 教室の○○エル達はとても驚いた表情で俺を見ている。後で知った事だが、大天使ガブリエルに一噛みされるというのはこの上なく光栄なことらしい。


 噛まれた者は誰もが幸せになれるとかなれないとか。


 そうこうしている内に他の保護者も教室へと入ってくる。勿論保護者の人達も大天使ガブリエルにしっかり挨拶をして緊張した面持ちで並んで後ろに立っている。


 チャイムが鳴る。


 天使学の授業が始まり、俺は緊張しながらもそつなくそれをこなしていく。


 順調に授業も進み各自の得意な所を指名したりしながら天使達にも見せ場を与える。

 ガブリエル2世も得意な天使力ルミナスの高め方を披露し得意げに小さな胸を張る。そして少し照れながら席に戻る。


 マールは、両親が来れていないのが少し残念ではあるが得意な天使力ルミナスの制御という難しい分野をしっかりと成功させた。

 大天使ガブリエルはニコニコと笑顔で頷いている。マールはそれを見て満点の笑顔を返すのだった。顔見知り、なのか?



 こうして無事に天使学の授業を終えた俺は一旦職員室へと戻って来た。

 そこには校長の姿が。


「フォルネウス先生、中々いい授業だったわ! もう惚れ惚れしちゃうっ、あ、それはそうと次は三者面談よ? 今の感じなら問題はないと思うわよ? マールエルちゃんだけど、面談の間は保健室にいてもらう事にするわね? あそこならメタトロン先生もいるし、退屈しないで済むでしょうから。それじゃ、頑張って、ね?」


 校長はズレそうな頭の髪を気にしながらその場を後にした。俺はデスクの椅子に腰掛け先程買ったコーヒーを一口飲んだ。

 一息ついて各生徒の成長記録をまとめたノートをパラパラと開きながら面談の予習をする。そこには1年1組の生徒全員の成長記録が事細かく記載されている。


 こう見えて俺は真面目な悪魔である。


 軽く予習を済ませた俺はコーヒーを飲み干し立ち上がる。隣のサハクィエル先生も立ち上がりフォルネウスに微笑みかける。


「フォルネウス先生、三者面談って凄く緊張しますよね。私もドキドキしてきましたよ。お互い頑張りましょうね?」


「はい、思ったより話しやすい方でしたし何とかなりそうですよ。サハクィエル先生も頑張って下さいね」


 俺達はそれぞれの教室へと向かった。


 ◆◆◆◆◆

 次回! 三者面談!

 大天使ガブリエルにガブリされたフォルネウスは無事にミッションを遂行出来るのか!?

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