33時限目【パワースポット】

 ◆◆◆◆◆

 夏休みも折り返しに差し掛かった頃、天使部の一行は予定していたパワースポットでのキャンプに出かけていた!

 今回は神の視点で天使達のキャンプを覗いてみるとしよう。

 ◆◆◆◆◆





 マールのいうところのちょうど良い山、——それは山というより、丘といったレベルの小さな裏山である。


 天使達がその山を少し登ると、そこには既に立派なキャンプ場が設営されていた。


 恐らく昨日の夜から朝にかけてガブリエル邸の執事達が犠牲になったのだろう。

 ご愁傷様です。そしてありがとうございます。

 更にバーベキューの肉焼き係まで残されていた。


 そんな影の苦労も知らず天使達は予め用意されていたバーベキューセットでバーベキューを楽しむ。勿論焼き手は執事である。


 ひとしきり食べたあと、ガブリエルに帰れと言われコンロをそそくさと片付け去る執事の背中は何ともシュールであった。


 それはさておき、お昼も済ませて大満足の天使達はいよいよ山を登りパワースポットを目指すのであった。



 ☆☆☆☆☆


「け、結構登るんですね〜」


「ちょ、ちょっと疲れてきたのですがっ……」


 律儀に歩いて登るモコエルとクロエル。


「もう少しっす! この階段を登り切れば到着っすよ!」


 そう言って笑顔を見せたマールの目の前には、長い階段が立ちはだかる。額に汗を滲ませ笑顔を放つマールを見た2人は絶句。


「こ、ここに来て階段っ……」チーン


 頑張っていたロリエルの体力も底を尽きそうだ。ついに弱音を吐いてしまう。


 そんな真面目な天使達の横をフワフワと悠長に飛んでいくガブリエル2世は汗だくの3人を見下す。


「何してるの〜飛べばいいの〜、マールは体力馬鹿だからついていけないの〜。街の中じゃなければ見つからないし問題ないの」ドヤァ!


 3人は同時に思ったことだろう。


 あんたはいつでもどこでも飛んでるじゃないか、と。しかしここはガブリエルの言う通りである。


 マールの底なし体力について行くため、仕方なくフワフワと階段を登る天使部の部員達であった。


 そして遂に階段を徒歩で登り切った(マールのみ)天使部一行。


「こ、ここが、パワースポット!」


 ロリエルは周囲を見渡した。しかしそこは寂れた公園にしか見えなかった。


 そう、ここは以前フォルネウスが訪れた街から少しだけ離れた小山の頂上付近に位置する公園であった。意外と近いじゃないかというのはまだ中学1年生なのでご愛嬌。


「ここはあまり知られていない天使力ルミナスのパワースポットっす! 拙者、たまに来て街を眺めているっすよ! ガブリンにも教えたことのない秘密の場所っす!」


「マール! これはただの公園なのーっ!」プンプン


「違うっすよ、ほらこの木の下とか結構いい感じっす! 皆んな来てみるっすよ!」


 激おこのガブリエルを無視して笑顔で木の下へ誘うマール。そんな彼女を見て天使部の部員達はとりあえずその陰に入ってみる。


 すると驚いた事に今の今まであんなに息が上がっていたというのに身体が楽になったばかりか天使力ルミナスが活性化しているのが分かる。


「す、凄い!」


 ロリエルは心底驚いた表情でマールを見た。


「ここでなら天使力ルミナスの枯渇を気にせず練習出来そうだね〜」


「た、確かにっ……し、試験をここでやりたいくらいなんですがっ!?」プルプル!!


「おぉ〜凄いの〜!」


 ガブリエル2世の身体を光が包み込む。


「ガブリン、力を落ち着かせるっす! さ、皆んなここで修行っす!」


 天使達は気合いを入れ、各々で修行を開始するのであった。



 ☆☆☆☆☆


 夢中で修行すること数時間。いつのまにか夜になってしまっていた。あれだけ天使力ルミナスを行使していた天使達に疲れは殆ど蓄積されていないようだ。


 登って来た道をゆっくり歩きながらキャンプ場へ戻ると再び招集された執事達が汗だくで夕飯の用意に明け暮れていた。本当にご苦労様でございます。


 執事達は、夕飯は出来上がっていますよ、と修行から帰って来た天使達に椅子を配る。


 食事を済ませ夜の丘の上で満点の星空を見上げる○○エル達。

 勿論、執事は帰宅した。


 すると、思いたったかのようにマールが立ち上がった。真っ赤なリボンも激しく揺れる。


「さぁ、今夜のメインイベントを始めるっす! ちょうど暗くなっていい感じっすよ!」


「ま、まさかっ! きき、肝試しっ!?」プルプル……


「コースは何処なの〜?」


「それはあのパワースポットへの道のりっす!」


 え、また登るの?

 誰もがそう思ったことであろう。


「それじゃあまずは順番を決めるっす! このクジを引いて欲しいっす!」


 マールは丁寧に作ってきたクジを取り出し皆んなの前に差し出した。

 天使達は恐る恐るクジを引く。


 トップバッターは……


 クロエルで決まりだぁ!



「ちょっ……でで、出来過ぎだと思うんですがっ!?」プルプルプルプル!!!!


「それじゃ、行ってらぁ! 公園でブランコに乗って、3回揺れて、それで帰って来るっす! 疲れたら飛んでも構わないっす!」


「行ってらっしゃ〜い、ここで待ってるから〜安心してね〜?」


 モコエルは笑顔で半泣きのクロエルの頭を撫でる。


「クロエル頑張るの〜! ファイトおーなの〜!」


 どことなく楽しそうなガブリエル。いつも頬をつままれている仕返しと言わんばかりに。


「大丈夫、デビレンがついてるよ!」


 もはやロリエルのそれは、ロリエルにしか通用しない励ましである。



 仲間の声援を受け天使部一の臆病者、クロエルが夜の階段へ足を踏み入れた。



 それを見たマールは残った皆んなに振り返り口元を緩める。皆も同じようにニヤリと口角を上げた。闇夜のその姿は、もう天使というより悪魔である。



 ◆◆◆◆◆

 肝試しトップバッターはクロエル!

 しかし、これには奴らの陰謀が!!

 頑張れクロエル! 無事にブランコに乗って帰って来るのだ!

 次回もこのまま、神の視点でお送りするぞ!

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