26時限目【夏休み突入なの〜】

 


 期末試験最終日、生徒達の精神的ダメージはピークに達してした。最終日の難関、天使学の実技をようやく終えた彼女達は机に項垂れたり、解放された喜びで飛び回ったり、ビームを撃ったり。

 まぁとにかく、お疲れ様。


 これで夏休みの間は平和な日々を過ごせる!


 この休みのうちに何とか俺の魔界手帳エビルブックを見つけ出さないとな。

 いつまでもこうしている訳にはいかんし。


「ーんせ? 先生?」


 お、マールか。考え込む俺の顔を覗き込むようにして笑うマール。それはそれは、眩しい笑顔だ。


 いや、しかし……ここに来た頃に比べればこの眩しさにもだいぶ慣れてきてしまったようだ。

 まだ直視は辛いが、不思議と苦痛は感じなくなっている。


「あ、あぁ悪い悪い……それじゃホームルームを始めるぞ」


 ☆☆☆☆☆


「えー明日からは夏休みだが、皆んなくれぐれもハメを外さないようにな。先生からはこれくらいだ。他に質問がなければ解散するが?」


 天使達からの質問は特にないようだ。


「よし、なら解散。また夏休み後には皆んな元気な顔で登校するようにな」


 そんなお決まりのセリフで締めくくり、1学期が終わりを迎えたのだった。

 2学期が始まる頃、俺はまだこの学校にいるのだろうか? 天界に迷い込む前の記憶に、フィルターがかかった感覚。はじめは気付かなかった、しかし、時間が経つにつれ、違和感を感じ始めた。


 俺は、何者かにエビルブックを奪われた。それだけは恐らく、確実だろうな……




 生徒達も下校した頃、俺は近くのコンビニへ向かった。基本的に昼食と夕飯はコンビニで済ませている。もはやこのコンビニの常連である。


「いらっしゃいませー!」


 こりゃまた眩しい笑顔だ。

 高校生くらいに見える少女はいつもここで働いている。金髪の綺麗な髪の少女はレジで商品を陳列している。しかし何だろうか、この子を見ていると、誰かを思い出す。誰かに似ているような。


 俺は適当な弁当と、水をレジに持っていく。


「780ルミーです! いつもありがとうございます!」


「あ、どうも」


 手際よく会計を済ませる少女に俺は気の抜けた返事をして商品を受け取った。


「……ふふっ、お兄さんは何処から来たんですかぁ? 最近ですよね、よく来てくれるようになったのは?」


 なっ? 何処からって……それは……


「お兄さんって、なんか、こう、変わってますよね? あ、悪い意味じゃなくて、ほら、魔流ドラマなんかに出てきそうな〜っていうか? 目がキッてなってて、悪魔っぽいっていうか? 流行ってますもんね〜!」


 ま、まさか、俺が悪魔だと気付いたのか?


「あ、あのっ……すみませんっ……馴れ馴れしかったですか?」


 少女が少し申し訳なさそうにしているのを見て俺は慌てて言葉を返した。


「あ、いや……ちょっとボーっとしててさ。ありがとう、また来るよ」


 俺はお釣りを受け取りコンビニを後にした。





 天の川中等女子学院の寮の一室、

 1人買ってきた弁当を食べる。


 何やら落ち着かない。喉を詰まらせ水を一気に飲み干す。


 俺は……魔界から来た。


 なんてこと、言えねーわな。



 ◆◆◆◆◆

 フォルネウスよ、もう諦めて天界の住人になってしまえば良いのでは?

 ◆◆◆◆◆


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