25時限目【迫る期末試験】

 ◆◆◆◆◆

 夏休み前に立ちはだかる最後の難関、期末試験!

 天使達を襲う恐怖の期末試験!

 天使部のメンバーは無事に試験を乗り越えて、夏休みを満喫出来るのだろうか?

 ◆◆◆◆◆


 迫る期末試験。

 因みに俺は天使学の先生だ。


 死ぬ気で勉強した悪魔学とは全く逆、というわけでもなく、


 魔界の悪魔学、天界の天使学はどちらも天界魔界の特殊授業のような位置付けで、それぞれの歴史等を学んだり悪魔としての心得だとか、天使の奇跡を起こす力の使い方や限度等を教養する科目だ。つまりは、系統は似ている。


 一般的な教育に加え、このような授業が存在するのは天界や魔界ならでは、と言えるだろう。


 それを無理矢理、頭に叩き込み、その上生徒達に教えるという高難易度ミッションを今のところ遂行出来ちゃってる俺ってばやはり、天才、じゃね?

 因みに1年2組の担任、サハクィエル先生は理科の先生である。


 それはそうと、期末試験が近いのもあり部活は休み。天使部も勿論、試験前はお休みである。

 だが、この部に関してはいつも休みみたいなものだからあまり変わらないのだが。


 噛まれた箇所の治療のため、保健室経由で寮の部屋まで着いた俺は、玄関のドアを開ける。


 誰も居ない。

 小さなテーブルの上の置き手紙に気付いた俺は、それを手に取り中身を確認した。

 手紙にはこう書かれている。


 ☆先生、今日は皆んなで試験勉強っすから部活はお休みっす! ロリエルちゃん家のカフェで集まるっす!☆


 ラッキー! こりゃ今日はゆっくり出来そうだ!


 と、もう1枚あるな。これは、ガブリエルの文字だな。きったねー字だな、もう……


 ☆それじゃあ待ってるの! 来なけりゃ明日噛み付くの〜!☆


 何だとぉぉっ!? あのやろ、少しは丸くなったかと思ったが何にも変わってねーっ!



 ☆☆☆☆☆


 結局、来てしまったわけだが……


 試験勉強という名の女子会が開かれているlow Leeds café店内。テーブルの上には、

 はい、パフェ。全く勉強してませんね。


「このパフェ美味しい〜! あまり見た事ない果物だね〜」


 モコエルが頬に手を当てる。


「うん、美味しいっす! これ、いったい何て果物っすか? ロリエルちゃん?」


 モコエルとマールが瞳を煌めかせていると、奥から特大メロンソーダを運んで来たメイド服姿のロリエルが言った。


「季節限定の新メニューで、エデンの果実を使った今年の自信作なの。はい、特大メロンソーダ」


 と、言ってガブリエルに特大メロンソーダを差し出すロリエル。この2人が仲良くなったのはいいことだな、うん。


「ありがとうなの〜! メロンソーダ美味しいの、ちゅーなの〜」


 ガブリエル2世は嬉しそうにメロンソーダを飲んでいる。ちゅーなの〜じゃねーよ。普通に飲めってんだ、全く。


「ロリエルちゃん? エ、エデンの果実って、そ、そんな簡単に手に入る物、とは思えないのですがっ?」プルプル


「ふっふっふ……そこは企業秘密だよ」


 ロリエルがドヤ顔を決めたのはこの際おいておくとして、そろそろ勉強を始めてもらわねば。


「おーい、そろそろ試験勉強はじめようか」


 俺の言葉によって女子会は一時中断、やっとのことで真剣に勉強を始めた5人。

 天使学の試験は筆記と実技がある。

 彼女達は意外と頭は悪くなく筆記は問題なさそうだ。やはり、懸念されるのは実技だな。


「フォルネウス〜、どうやったらもっと力を抑えられるのか教えるの〜! 教えないと噛み付くの〜! さっさと教えろなの〜」


 ガブリエル2世は力のコントロールが苦手だ。

 大天使の娘だけあり、天使力ルミナスはクラスで1番強い。しかし、それを上手くコントロールするのは至難の業だ。

 悪魔も魔力の強い者ほど、制御に骨を折るものだ。その点も光か闇かの違いで大差はないか。


 天使が奇跡を起こす時、その奇跡を想像するのだが、力を使い過ぎるとそれは上手くいかない。しっかり心を落ち着かせる事が大事なのだ。


 説明してやると5人は食い入るようにその話を聞いている。こうやってちゃんと真面目に聞いてくれると悪い気はしないな。




 やがて日も落ち暗くなり始めた。


 今日の試験勉強はこれでおしまいだ。


 俺は伝票に目を通す。そして心の中で泣いた。


 ——


 カフェを後にした俺はロリエルの家から近いクロエルとモコエルを先に送り帰し、ついでに親御さんにも遅くなったことの説明と謝罪をしておいた。


 次はガブリエル2世を豪邸に送り届け、マールと2人きりで夜道を歩くことに。


 この街は夜になると、街灯が綺麗だな。

 前を歩くマールの赤いリボンはぴょこぴょこと揺れている。


 確か学校を過ぎた先に、マールの家がある、はずなんだが。


「先生、ここで大丈夫っす! 先生も疲れてるのにいつもありがとうっす!」


 マールは数歩走りクルリと俺の方に身体を向け笑顔を見せた。

 相変わらず、眩しい笑顔だ。しかし、どこか儚げに見えたのは気のせいだろうか。


「いや、夜道は危ないし家まで送ってくよ」


「心配には及ばないっす! そんなに距離もないっすから、拙者のことは気にしないでいいっすよ!」


「そうは言ってもな」


 マールは俺の目の前までぴょんぴょんと跳ねてくる。そして、俺を見上げる。

 吸い込まれるように大きな青い瞳と宿る花びらが、これ以上は、と何かを訴えかけてくるようだった。この感覚は……


「さよならっす! また、明日っす! とうっ!」


 そう言ってマールは凄い勢いで走り去ってしまった。俺はこれ以上呼び止めてはいけない気がした。


 見えなくなるまで見送り自室へと帰った。



 そして遂に、運命の期末試験が始まる。











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