第33話 保健室なクラスメイト

 午後の授業中、眠気をこらえながら先生の話を聞いている。


 あれから数日経つが、特に変化や進展はなかった。時々キクが目を細めながらこっちを見ているのが気になるくらいで。


 どうやら断片的に覚えているみたいなんだけど、なにを覚えているのかは聞いていない。っていうか、話してくれない。曖昧なイメージすぎるんだそうだ。だから夢でも見たんじゃないかってことで押し通している。

 きっと夢で見たものの裏付けを探しているんだろうから、墓穴を掘ってバレないよう気をつけないと。


 そんなことを考えていると、隣からメモ用紙が回されてきた。倉臼さんからだ。なんだろう、珍しいな。なになに?


『今日のほうかご あいてる?』


 今日か。別に用事はないな。


『あいてるよ』


 先生が後ろを向いたタイミングでさっと渡す。

 倉臼さんがさらになにかを書き込んで、戻してくる。


『あってほしい人がいるんだけど いっしょにいってくれる?』


 ん、誰のことだ?


『だれ?』


『異世界かんけいの人』


 それは、会わないわけにはいかないな。





 そして放課後、倉臼さんについて校舎一階の廊下を歩く。


「どこへ行くんだ?」

「この先だよ」


 学校の中なのか。この先?


「先生なの?」

「近いね」


 そして到着したのは、保健室。


「あ、最初さ、メガネ外して入って」

「見た目が変わるってこと?」


 言われた通りメガネを外すが、倉臼さんは質問には答えず、保健室の扉をノックして開けた。


「失礼します」


 中に入ると、ご年配の保健室の先生がいた。


「いらっしゃい、倉臼さん。その人なのね」

「狩場くんです。どうですか、慈乃しの先生」


 保健室の先生の名前は確か、村雨むらさめ慈乃しの先生だ。


「詳しくみてみましょうかね」


 いったいなんの話をしているんだ?


「あ、狩場くん、メガネかけてみてよ。びっくりするよ」


 じゃあかけてみるか。すると、いつもの猫耳倉臼さんと、二十代半ばくらいの若い女性がいた。


 村雨先生が若返ってる! ってことは、ホントは若いのに年寄りの姿をしてるってことか。というか、まあ確かにびっくりはしたけど、猫耳に比べたら普通だな。銀色のスーツを着た宇宙人や、ゴリラにでも変わったなら、素晴らしいリアクションがとれたんだけど。


「すっごい美人でしょ。あたしもびっくりしちゃった」


 若くなった村雨先生は、一言で表すなら。


 巨乳。


 美人でスリムで巨乳だ。白衣とあいまって、やたらエロい。確かにこれは隠さないといろいろ大変かもしれない。


「慈乃先生はね、異世界では聖女って呼ばれてたんだって。もうずいぶん前からこっちに来てるんだよ」


 その『聖女』村雨先生が俺に声をかける。


「狩場君、だっけ。ちょっとこっちへきな」


 なんだかちょっとぶっきらぼうな感じだが、なぜかそれが似合っている。俺は導かれるまま椅子に座った。


「そのままじっとしてて」


 村雨先生が手を俺の額にをかざしてなにかに集中している。


「間違いない。まさかこんなに近くにあったなんて」

「やっぱり!」

「しかもかなり溜まってるみたいだね」


 溜まる? ストレス、とかだろうか?


「流れも悪いし、気分が悪くなったりしたんではないかな?」

「あー、確かに、寝つきが悪かったり、めまいがしたりはします」

「少し抜いておくか。こっちへ来な」


 先生がベッドへうながす。上履きを脱いで横になる。抜くとかなんだろう? ストレスを抜くためにマッサージでもするのだろうか? ドキドキ。


「なにをするんですか?」

「セイを抜くんだよ」

「……はい?」


 セイとな? 生? 背? 声? もしくは精? Say yes! それともなにかの聞き間違いだろうか?


「すみません、なにを抜きますって?」

「セイキとも言うね」


 精気ならまだわかる。生気だと命に関わる。まさかの性器なら将来に関わる。抜かれてたまるか!


「いずれにしても、ちょっと心の準備をいただけませんかね?」

「無駄。倉臼、そっちを押さえなさい」

「はい先生!」


 倉臼さんが俺の肩とお腹を押さえる。その細身のどこにそんな力があるのか、全く抗えない。


「出口がどこかにあるかの? ……口と……右手の平から少し……だけか。そりゃ流れも悪なるわ」


 いったいなんのことなのか全くわからん。


「悪いようにはせんよ。気楽にしとりな」


 その直後、俺は意識を失った。





 気がついた俺は、意識以外のなにかを失っていないか、自分の体を確認する。

 多少乱れてはいるが、服は着ている。手で顔や体を触ってみるが、特に痛くもなんともない。あえて言えば、少し気だるいくらいか。先生と倉臼さんは、デスクの方でなにかしている。


「まさかこんなに濃いセイが抜けるなんてな」

「三本作ってまだ余裕があるなんて、本当に本物なんだ」

「なにが本物なんですか?」


 俺が声をかけると、倉臼さんが嬉しそうな笑顔で振り向いた。


「あたしと先生の探してたものが見つかったんですよ!」


 先生が、なにか投げてよこす。あわてて受けとめると、それは液体の入った小瓶だった。


「なんですかコレ?」


 中の液体が、ふんわりと光って見える。


「キミの聖水だよ」


 せい? 俺は思わず取り落としそうになる。


「浄化や祝福をこえて、一気に聖水だよ! しかも三本も!」


 なんのことなのかさっぱりわからない。


「我らはな、対魔族用のアイテムを探していたんだ。ずっとね」


 先生もなにやら嬉しそうだ。


「キミは、聖剣の転生体なんだよ」


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