第23話 水着くらべな喫茶店

 あの巨乳の人以外にも、可愛い系やセクシー系、スクール水着の人もいる。


「それを聞いてどうするの?」

「当然、次に買う水着の参考にするのよ」


 ぶほっと、飲みかけていた水を吹き出すところだった。


「俺の意見で決めるの!?」

「せっかくなら、喜んで欲しいし」

「もし、めっちゃキワドイやつとか言ったらどうするの?」

「着るわよ? もちろん」

「却下です」


 なぜ俺が却下しているのか。


「だったらほら、よく見てよ」


 ナギがうながすが、ファッションセンスのない俺が見てどうしろと?


 一応、女の子たちを見比べてみるわけだけど、見るべきがデザインなのか、スタイルなのか、水着なのか、露出具合なのか、人物像なのか。時々ナギと見比べてみたりもするのだが、どうしてもしっくりこない。もういっそ、スク水が学生らしくて一番無難なんじゃないかと思えてくる。


「それは却下」

「心を読むなよ」

「顔でわかるわよ」


 どんな顔だよ。


「お待たせしました、チョコミントパフェです」


 ナギの注文の品を運んできたのは、あの巨乳の人だった。目の前にくると、さすがに直視出来ない。


「おっきいですね、じろじろ見られたりしません?」


 ナギが無遠慮にもたずねていく。


「ははっ。見られるね。なんならそのためにいるからね」


 お姉さん、意外なフレンドリーさで答えた。


「見られたいんですか?」

「見てもいいってだけ。ここで仕事してる間はね。普段は、ここでするような格好出来ないからね」

「お待たせしました、浮き輪ドーナツセットです」


 続いて俺の注文の品を持ってきたのは、スク水の人だ。首にゴーグルをかけている。ずいぶん幼い感じの人で、ある意味一番自然にも見える。


「少しくらい世間話をするのもいいよ。でも、プライベートなことを聞いたりしたらダメだからね」


 スク水の人がナギに迫って言う。


「万が一、タッチなんてしたら、一発で通報だからね。気を付けて」

「あははは、やだな~しませんよ」


 多分、ナギに向かって言ったのは、体裁のためかな。俺や他の男性客が直接注意されたら居づらくなるもんな。


「ごゆっくりどうぞ」


 そう言って、スク水の人は戻っていった。


「しっかりしてるね、あの人。高校生?」


 ナギが巨乳の人(この呼び方もどうかと思うが)に聞く。


「あー見えて、成人してるんだよ」

「ホントに!? 最悪年下かと思ってた」


 俺もだ。まだ中学生で通じるキクと並べて同級生だと言っても、誰も疑問に思わないだろう。


 巨乳のお姉さんは手を振って仕事に戻っていった。


「いろんな人がいるもんだね。まあいいや。食べよ」


 ナギが長いスプーンを持ってパフェに乗ったチョコミントアイスをすくう。俺もおしぼりで手を拭いてから、二つあるドーナツのうちの一つをつまむ。セットのドリンクはフルーツミックスのようだけど、底に粒々つぶつぶが沈んでいる。タピオカだろうか?

 ドーナツは浮き輪のようなしましま模様で、ふんわりとしていた。甘さ控えめだ。


「うーん、このチョコミント、バランスがちょうどいいわ。冷たい刺激のあとに、甘いチョコの粒々が口に残るのがいいのよね。やっぱチョコミントはアイスだわ」


 ナギはチョコミントにこだわりがあるようだ。

 俺は口の中の水分を補うために、ジュースを飲む。


「あっっま!!」


 激甘だった。ジュースもそうだが、一緒に口に入るタピオカもかなり甘い。


「一口ちょうだい」


 ナギがジュースを吸う。


「あはは! 笑っちゃうくらい甘いね!」


 そう言って、チョコミントアイスをスプーンで差し出してくる。それを口で受けると、ミントの爽やかさが残った甘さをぬぐっていく。

 そのあとお互いに料理を分け合いながら雑談していく。


「海で映えないからスク水はなし。どうせならもっとセクシーなのにしよっか」

「俺は正直、それを見知らぬ誰かに見られたくないなぁ」

「じゃあカケルにだけ見せたげる」

「じゃあ俺もセクシー水着用意しなきゃ」

「えぇ!? カケルは別にいいよ、普通で」

「じゃあ俺も普通でいいよ」

「ぶー。それじゃあさあ、ビキニくらいならいいでしょ?」


 そう言って、倉臼さんを見る。彼女は他のお客さんの相手をしていた。


「どう思うの、彼女のこと?」

「どうって、似合ってると思うけど、そのままナギに似合うかって言うとどうだろう?」

「ふーん、可愛いって思うんだ」

「え? そうなんじゃないの?」


 ナギは、ほとんどなくなったパフェの底をスプーンでかき混ぜている。

 なら、俺の次のセリフはこうだ。


「まぁ、ナギほどじゃないけどね」

「知ってる」


 少しは機嫌がなおったようだ。


「でもビキニは止めとこ。比べられるとかなわないとこあるし」


 そんなことを言っていると、その倉臼さんがこっちへやってきた。


「あ、ほとんど食べてる。ミックスジュース、甘くにゃかった?」

「すっごく甘かったわ。夏向けなら爽やか系の方がいいんじゃない?」


 ナギの疑問に、倉臼さんはちょっと考えて答えた。


「店長は、『アバンチュールを味わいたい? これでも食らいな!』って、まるで呪いでもかけそうな勢いで作ってたけど」


 店長さん、夏にどんな恨みが?


「美味しくないわけじゃないよ。ごちそうさま」

「じゃあ、そろそろ行きましょっか」


 ナギが席を立つ。倉臼さんが伝票を持ってレジに向かった。

 ナギが先に会計を済ませ、外に出た。続いて俺の会計。ちなみに、ナギは理由もなく俺がおごるのを許可しない。


「カケルくん、気づいた?」


 そう言って、倉臼さんが猫耳をパタパタする。


「それなんだったの?」

「秘密のアピールだよ」


 秘密なの? アピールなの? どっち?


「あと、お尻も見たでしょ。やーらしーんだ」

「そうそう、尻尾ってやらしいとこなの?」

「なんで尻尾にゃの!?」


 そう言ってクスクス笑う。

 尻尾がやらしい部位でないなら今度触らせてもらおうと思ってたのは、秘密にしておこう。アピールしすぎない。


「ありがとうございます。また来てねー」


 倉臼さんと、たまたま目が合った巨乳とスク水のお姉さんたちに見送られて店を出ると、傘をさしたナギの背中が見えた。


「お待たせ」

「雨、やまないね」


 ナギが振り返る。


「水着なら、傘ささなくてもいいのかな」

「風邪引くよ」


 俺が傘をさそうとすると、ナギが腕を引っ張った。

 相合い傘だ。


「どうしたの?」

「別に。ちょっと寒いし、こっちの方が暖かいでしょ」


 今日はこのまま、少し遠回りして帰ることになるのだが、なんだか様子の違うナギに、もやもやしたものが残ってしまった。

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