第3話 過激な幼なじみ

「おっきろー!」


 ポニーテールの少女が、大きな声と共に俺の掛け布団を一気に引き剥がす。


「ぅおおい、キッちゃん! それはダメだって!」


 とっさに自分の体をかばうように丸まる俺。


「だったらわたしが来る前に起きなよ、寝坊助ねぼすけさん」


 そう言ったポニーテールの少女は、俺の家の隣に住む幼なじみの戸塚とつかきく。誕生日が一緒の同級生で、小さい頃から一緒に遊んでいる幼なじみだ。


「起こすにしたって他にやり方があるだろ?」

「優しくしてたら時間かかるだけだよ。それともなに? ちゅーでもすれば起きられるの?」

「そうじゃなくてさ、こっちにだっていろいろあるんだよ」

「ん? 三回に二回くらいはなってるアレ? 今さらじゃん」

「マジで!?」


 いやいや、何か、お互いに誤解をしているのかもしれない。


「何か勘違いしてない? 俺がなんの話をしてるのか言ってみなよ」


 キクは、両手の握り拳を縦に重ねる。


「これくらいの……」

「あーーー! 聞きたくない!」


 俺は耳を押さえてうずくまる。

 彼女はあきれ顔だ。


「ちっさいころは一緒に風呂だって入ってたんだし、どってこと……ないだろ」


 そこでなんで顔を赤くするんですかね?


「そんな小学校にも入ってないころのこと、覚えてねーよ」


 そのころはお風呂でも遊ぶのに夢中で、他人の体なんて気にしてない。


 とはいえ、キクは今でも小学生にも間違われるくらい小柄で幼く見える。んで、体つきもストーンとしていて、もしかして当時とあまり変わらない体型なのでは? なんとなく当時のかすかな記憶とキクが重なる。


「バカケル、なに考えてんの?」

「別に?」


 バカケルとは、狩場かりばかけるとバカを掛けた悪口だ。って説明させんな。


「もう目は覚めただろ。下にいるから、早く着替えろよ」


 なんだか慌てるように言って部屋を出ていく。


 なんなんだ、いったい。


 入れかわるように、黒猫のレスが入ってきた。すり寄ってきたので頭を撫でてやる。


 俺はゆっくりとベッドからおり、クローゼットの制服を取り出した。





 一緒に朝食を食べたあと、学校へと向かう。だいたい十五分を歩いて通う。


 せっかくなら彼女のナギと一緒に行きたいところだけど、残念ながら家が学校の向こう側なので、途中で待ち合わせが精一杯。


「彼女の家まで迎えに行ってあげればいいのに」

「そんな早起きができれば、お前に起こされてねーよ」

「欠点をなぜ自慢げに話すのか」


 ならキッちゃんが一時間早く起こしてくれよと言いかけたが、それがどれだけ情けないことかと気づいて止める。


「そういえば、今日新しい転入生が来るってね」


 キクが、普通の感じで話す。

 キクは俺と二人きりのときはサバサバした感じで話すのに、そうじゃないときは普通な感じなのだ。いまは登校中で、周りに他の人もいるから、普通。この普通の感じを客観的にみると、意外と可愛く見える、みたい。


「転入生? 変なタイミングだね」


 俺とキクは同じクラス。ナギは残念ながら隣のクラスだ。


 そんなことを話しながら前を見ていると、なんだか変な感じの人影を見かけた。


 後ろ姿の女子生徒なんだけど、頭になんだか、猫耳みたいなものが付いているのだ。さすがに学校に行くのに猫耳アクセサリーはないだろうから、派手な寝癖だろうか? それの方がないか。


「なあ、アレなんだろうな?」

「どれどれ? なんにも見えないけど」

「目が悪くなってるんじゃないか? 背のせいじゃないと思うけど」

「悪くないですー。カケルこそその伊達メガネが歪んでるんじゃないの?」


 俺はいま度の入っていない黒縁のメガネをかけている。ナギから「カケルを守る御守りだから」ってプレゼントされたものだ。


「天野さんも心配なのはわかるけど、そこまでしなくてもねぇ」

「なんのこと?」


 キクが横目でこっちを見る。


「他の女がカケルに惚れないように、ワザとダサくしてるのよ」

「そうなの? そういう御守り? 必要ないだろ」

「どうだろうね」


 意味深げに言っても事実は変わらないよ。

 そんなこと言ってる間に、猫耳(仮)を見失ってしまった。


「見間違いじゃない?」

「そうなのかな? まあ、別にいいんだけど」


 そのあとキクとは別れて、俺はナギとの待ち合わせ場所へ向かうのだった。

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