第5話

「ゴブリンっ、、、ロード」


それは、今までのゴブリンより一際大きく、イカれた様な赤い瞳をゆがませ、こちらを睨む。

そして、エリスはなにかに気がついたような顔をすると、より震え出した。


「そっそんな、ゴブリンロードにつのなんてっ」


そう、そのゴブリンロードは、ふつうのものよりも赤く、角が生えていた。


『ヴぉ”ぉ”お”おおおお”っ』


すると突然、ゴブリンロードは2人へ襲いかかった。


「やばっとりあえず逃げるぞっ!!」


そうして、普通とは違う赤っぽいゴブリンロードが、雄叫びをあげながら2人を襲う。


ここで戦闘しても無駄。

それは、2人ともわかっている事だった。

そこで、2人共全力で逃げているわけだが、、


『ブウォォォオオオ』


突然、逃げている2人の前方に火が立った。


「うそっですよね?普通のゴブリンロードは魔法なんて使えないのに、、、まさかあれ、オーガとのハーフ!?」


エリスは驚いた顔でそう言った。


「なんだよそれっ聞いてないんですけどー!

っつかそれよりこの状況だろ!とりあえず俺が引きつけるから、その隙にエリスは見つからなさそうな所へ逃げろ!」


――またあの凄い魔法がエリスに撃てたらいいんだが、、いやっあれに期待したらだめだ

また何か打開策を考えないと、、


あと数メートルで2人はゴブリンロードに追いつかれる。


やばいやばいやばいやばいやばいっ!

どうする!?もうなにも、、、


『ズンッズンッズンッ』


2人のもとまであと2、3歩――


もう何かを考える暇なんてない。

俺は1度死んだ身だ。ならば俺が取るべき最前の選択は、、、、、


「エリスを守るッ!!『魔族収集』っ!!!!」


大声で叫び、健介はゴブリンロードを引き寄せながら全力で走り出した。


「えっ!?ケンスケさんっ!?」


エリスはもちろん驚く。


「わるいなエリス!幸せに生きろっ!逃げるんだ!!」


――後、僕の役割はこいつからエリスを逃がすことだけ。ここからは本気だ。


「はぁぁぁぁあああああっ!!」


『ヴォォォォォォォォォォオオオオ!!!!』


日本にいた頃、こんなにも全力で走ったことはあっただろうか?

人は死にそうになったとき、本当の本気を出すと聞いたが、あれは迷信じゃなかったらしい。



森はもう、ゴブリンロードの炎で大きな火事になっている。



そんなことを考えながら、俺は異世界で命懸けの鬼ごっこを始めた。




――――――――――――――――――――


ケンスケさんに置いていかれた。

いや、置いていかれたわけじゃない。

私を守って、走っていったんだ。

そんなの、いけないのに。

せっかくの命なのに。

私はここで逃げるような奴になんてなりたくたい。

ケンスケさんに助けて貰って、、、ケンスケさんに頂いた命、ケンスケさんに使う!まだ会ってちょっとだけれども。私はあの優しくてお人好しなケンスケさんに一生を捧げる!


「『身体強化・小』!!」


――『身体強化・小』。身体強化魔法の中でも、一番下に属する魔法だ。使ってもあまり効果がないため、ほとんどの人達は魔力の無駄と言い、使用しない。

しかし、エリスはこれを全身の、まさに骨の髄まで使用して、『小』でも使いこなした。


こんな魔法しか使えないけれど、それでも私はっ!!

そう言ってエリスは、赤く燃え上がっている森の中、走り出した。



――――――――――――――――――――


「はぁっはぁっ」


もう大分長いこと走った。

走ることにあまり疲れはなかったが、所々できた傷や、火傷が痛む。


もうそろそろ限界か?


すると、、、


「ケンスケさんっ!!」


「なっ!?エリスなのか?なんで来たんだ!」


「そんなのっケンスケさんと一緒にいたいからに決まってるじゃないですかっ!

まだ、本当に会って少しだけど、ケンスケさんは私の恩人です!死ぬなら私も一緒に死にます!!!」


「だめだっそんなのエリスの未来が――――


こんなに若いのに。可愛いのに。まだまだ未来はあるのに。

そんな言葉を、言おうとした。


しかし、、、、、


『ヴア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ア”ッッッ!!!!!』


――ドゴォォオオオン


ゴブリンロードが、いつのまにか手に持っていた、炎を纏った大剣を、俺とエリスの間に振り下ろした。


その上、、、


『ヴガガァ”ァ”ア”ア”ッッ!!!!』


こちらもいつ出したか分からない、大きく、炎を纏った槍を、エリスの方に投げていた。



「エェリスゥゥゥウウウ!!!!!」


もう、助けることはできない、のかっ。


「ケンスケさんっ、、、、ありがとうございました。」


そういってエリスは、健介に届かないような、泣きながら、か細く、消え入りそうな声でそういうと、目を閉じた。





『ドゴォォオオオン!!!!』




――槍が落ちた、のか?

やっぱり僕はただの無能で、なにも出来ないただのゴミだったんだよ。


「くっそおおおおおおお!!!」





『スパァンっ』


『ドササッッ』



―――「なんか泣き叫んでやんの!ウケるわ‪w

だっせぇキモっ」


えっ?


そう言って手に先程ゴブリンロードが投げた槍を持ち、真っ二つに切られ地面に倒れてるゴブリンロードと泣きながら目を瞑っているエリスをバックに健介を罵倒しながら歩いて来た男は、、、、、


「な、お前は、、」


健介を絶望させ、健介がここ異世界に転生してくるきっかけともなった男、、、、、、、



神崎魁斗だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る