珍兵器歓談・航空潜母『剣崎』
昭和一八年六月。
再建なった米国艦隊がハワイ真珠湾を出航したとの情報が中立国の情報網から入り、連合艦隊もトラック諸島で出撃の準備を整える。第二次西太平洋海戦の勃発は必至な情勢である。
フィリピンが既に日本の占領下にあり、米艦隊は第一次海戦のように日本領の東端マーシャル諸島を迂回してフィリピン救援に直行するのではなく、これを占領し、時間を掛けて島伝いに西進する道を選ぶであろう。
二十日早朝、そのマーシャル諸島からは、潜水艦隊たる第六艦隊が艦隊主力に先立って出撃した。
護衛として麾下に入った水雷戦隊を引き連れ、第一から第三の潜水戦隊が朝日に向けて進む、その中心には、旗艦たる軽巡洋艦『大淀』と、潜水母艦『剣崎』の姿があった。
しかし『剣崎』のその姿は、竣工時とは大きく異なっていた。巨大な構造物前端の艦橋がその最上部を解体され、中央部の煙突――実際はダミーに過ぎなかったが――も消えている。そして構造物の上面には甲板が張られて平坦となり、前後に張り出した個所は柱に支えられている。
その姿は、空母そのものだった。
この形に至るまでには、いくつかの曲折があった。
元はと言えば潜水艦隊に確実な接敵をもたらすため、後に『大淀』と命名される旗艦用の軽巡洋艦と、同級でのみ運用される十四試高速水上偵察機が企画された。
しかし洋上での回収を繰り返しながらの索敵は損耗の危険が大きい事などを踏まえ、軽巡洋艦を飛行甲板を有する航空巡洋艦とし、十四試高速偵察機も艦上偵察機に変更する事が検討された。
だが当初の予定よりはるかに艦形が大きくなることが問題視される。代案として、空母に改装する予定の『剣崎』に潜水母艦機能も残し、減少した艦載機搭載数を艦上偵察機『紫雲』6機と零式艦上戦闘機6機で満たす事となった。
潜水艦隊の根拠地であるマーシャル諸島のクエゼリン環礁で潜水艦に給油を行った『剣崎』。今度は航空母艦として米国艦隊発見を狙う。
二十二日早朝。その飛行甲板から偵察機『紫雲』が発艦した。三十分毎にさらに三機。念を入れて二重の索敵を行う。
〇七四五、三号機から入電があった。
「敵艦隊見ユ。戦艦二、空母五、小型艦多数」
その後に続く座標。『大淀』は後方にこれを打電。『剣崎』はその座標に更に偵察機を送り出す。潜水艦たちは敵前方に広く展開すべく艦隊を離れた。
偵察機の帰還を容易たらしめるため、水上艦隊は前進を続ける。
『大淀』の打電で、敵もこちらの位置を概ね特定し索敵機を送り出しているはず。発見されれば、圧倒的な攻撃隊が上空に現れるのも遠くはない。偵察機を次々と送り出しつつ、僅かな戦闘機がどれだけ艦隊を守りえるものか。しかし選択の余地はなかった。
触接を続けていた三号機は「ワレ敵機ノ追従ヲ受ク」の打電を最後に、連絡を絶った。
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このアイディアの元ネタは、実際に検討されたという大淀の航空巡洋艦化+紫雲の艦上機化プランです。
当初は主砲も搭載しない偵察巡洋艦という構想だったようですが、最終的な形に落ち着くまでは、そう言う案もあったようで。
とはいえ、ほぼ装甲の施されない飛行甲板を背負って駆逐艦と砲戦など無謀の極み。さりとて旗艦としての軽巡洋艦の他に空母を新造する余裕が日本にある筈もなく。
なら潜水母艦から航空母艦に改造された「剣崎=祥鳳」を、航空母艦化しながら潜水母艦としての機能を残しては(当然その分空母としての搭載機数などは減少しますが)どうかと思ったのがきっかけです。
最初、「潜水空母」ってSFアニメみたいな用語が思い浮かびましたが、これじゃ伊四〇〇かブルーノアだw
まあ実際には艦隊決戦も起きないし、日本に貴重な改造軽空母をこんな風に割く余裕だって無いでしょうけどね。
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