第122話 戦争ではなく、民間人への虐殺を始めた竜族に対処しよう!
「…………どうして? ドウシテソウイウコトスルノ」
映像を見終わった
隣を見るとアスギも困った顔をしている。
――ああ、アスギさんでも分かるよな。これは……。
「まあ……ヌイちゃんったらまた危ないところに入り込んでいたんですね……私心配です。アヤヒと一緒にきれいな仕事に関わって欲しいんですが……親のエゴでしょうか、どう思いますソウタさん?」
――そっちか。
――いや、そっちも大事だけどさ。
ヌイにこっそりと偵察を命じていた手前、
「あっ、えっ、ええと……」
――今ちょっとそれどころじゃないかな~~~~~~! なんかまずいんだよ今さあ~~~~~~!
その腕をアスギが強く握りしめる。
「ソウタさん、大事な話をしているんですよ」
――そうだね君は子供関連が一番大事だもんねえ~~~~~~!
動揺しすぎてアスギの機嫌を損ねてしまったと今さら気づく
「私はヌイちゃんを自分の娘のように愛おしんでいるのです。最初は村への襲撃に関わったとか聞いて良い印象を持てませんでしたが、詳しく聞けばあの娘は父親からは冷たくされ、母親も早くに亡くし、まるで幼い頃の私のようで……」
――アスギさんはお父さんから結構大事にされてたと思うぞ~~~~!
――傭兵に向いてなかったから一生懸命なんとかしようとお父さんは悩んでたし、お父さんだって傭兵以外の生き方を教えられなかったんだと思うぞ~~~~!
と思っても既に言える雰囲気ではない。
「だから私はソウタさんにもあの娘のことを私と同じくらい、いえもっと大事にしてあげてほしいんです。私はソウタさんの一番大切な人になれないかもしれないけどせめてあの子には陽のあたる場所で人らしい幸せを……」
――別にヌイちゃんは暗殺者の職業に対して納得してるし自負もあるし正直必要な戦力だから、それを一方的に否定せずにアヤヒと一緒に村作りの仕事を増やしていくことで彼女の人生の選択肢を広げることのほうが重要じゃないか?
――とかいうと機嫌を損ねるからやめよう。
落ち着きを取り戻した
「そうだな」
と優しく微笑みうなずいた。
「そうでしょう?」
「ああ、まったくだ」
「良かったわ……あなたもそう思ってたなら私は文句はないんですよ」
アスギは満足げに
――さてここから暴走して各地に散った
「いぇーソータ~来ちゃった」
天井に立っているのは女神“
部屋の中の時が止まる。
例えではない、
「レン……おまえ、何を……夢で出てこいよ!」
「安心なさいな、ほれ、あなたの体感時間だけを加速させて、他の存在には知覚できないようにしているだけだから。時を止めた、と思って頂戴」
「そういうことか……いやそれにしたってこりゃ……」
一糸まとわぬ自分とアスギを交互に見てから、天井から見下ろす女神を見上げる。
ため息が漏れた。
「気まずいだろ」
「へ~気まずいんだ~ソータみたいな悪い子もそういうこと考えるんだ~」
「なんだよ怒ってるのか、悪かったって」
「別に怒ってませんけど~? 若いドラゴンたちが西の都の防衛戦を大きく迂回してこの世界中の町や村に対して散発的な襲撃を仕掛けようとしているからどうするか相談しに来ただけですけど~?」
「わ、わかってるよ……」
「まあそこの脱ぐか殴るしか能のない頭パープーの卑しい小娘エルフが邪魔かな~って思うけどそれは今の大事なお話とは関係ないから~」
「やめろ……アスギさんを悪く言うな……言わないでくれ……」
「そっ、そんな顔しないでよ私が悪いみたいじゃないのさ!」
女神はため息をついてから、床に着地した。
「で、どうするの?」
「放置しようと思う」
「なぜ?」
「放置しても勝てるからだ。若いドラゴンたちは俺の知っているドラゴンよりは弱く愚かだよな?」
「そうね、これまでソータが見てきたドラゴンはどの子も優秀。けど出来損ないはどの種族にも生まれるわ、あれらはそういうもの」
「そう、今動き出した竜って出来損ないだよな、多分そうだろうと思った」
「でもそんな奴らにあなたの大好きな人族の世界が好き勝手されていいわけ?」
「好き勝手なんてできないだろ。その程度の連中に人は負けない」
「私、好き勝手されるの嫌なんだけど」
吐息がかかるような距離で、少し困った顔で、言葉をしばらく選んでるような素振りで、しばらく黙る。
それから――
「人族の街に被害が出れば世論が傾く。この戦争に対する世間の認識は「田舎に現れた害獣駆除」じゃなくて「竜への報復戦争」に変わる。そうすれば一気に相手の本陣を叩く戦力を集められる」
「……分かった。あなたがそういう考えなら構わない」
「すまん。
「ただあなた分かってるわよね? 竜種の雑兵が暴走した原因は薬物中毒よ」
――分かってる。
――俺が悪い。俺が始めたことで、今から悪いことをしていない人が死ぬ。
それでも、それはもう。
「知ってる。だがやる」
繰り返しに過ぎない。手を汚すだけだ、また手を汚すだけだ。
「俺だよ、俺のせいでまた人が死ぬんだ」
「そうよ、あんたのせい」
女神はそう言ってから優しく微笑んだ。そして
舌と舌を絡まって縛り付けられるようだった。頬に添えられていた手はいつの間にか後頭部を強く抑えていた。ほんの少しだけ煙草の香りがした。
「半分はね。で、もう半分が私」
微笑む女神。
「もう少しでしょう? 頑張って? ね?」
「……うん。俺、やるよ。だから……」
「だから?」
「どこにも行かないでくれ」
「馬鹿ね……当たり前じゃない……ただ、私も少し動く」
「動く?」
「もう――あなた一人に戦わせたりしないから」
「隠し玉でもあったのか」
「反撃の準備だけしておいて。あなたの出番はすぐよ――ソータ」
女神が赤い霧になって空気の中に溶けて消える。
もう、女神の気配は
けれど、柔らかな唇の感触も口の中を弄った長い舌も、朝になるまで消えてくれなかった。嫌な胸騒ぎと背中合わせで。
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