第116話 開拓村で官吏を勤める若いエルフたちと親交を深めよう!

「おおーっ! 本当にヒューマンだ! 本当に村長やってるんですか!?」

「あっ、昼間から宴会してるぞ!」

「キーマンお前飲んだのか?」

「飲んでない!」


 アヤヒの号令で三人ほどの若い森人エルフが連れられてきた。

 肉の匂いと颯太そうたが遊びに来ているという噂につられて更に村人も集まっていた。

 小さな開拓村だ。一面満開の赤白桃と色とりどりの花の下には、あっという間に人があつまって大宴会となっていた。


森人エルフのところの人間村長来たの!? うわーっ、マジで人間だーっ!」

「ソウタさんを人間呼ばわりするんじゃないぞズングリ丘人ドワーフッ!」

「やるか~!?」

「やるか~!!」

「やめなさいよあんたたち!」

「う、うるさい……」

「あ、鼻持ちならない都会森人モダンエルフだ! あいつからやるか!」

「本当にやめなさいよあんたたち!?」


 ――平和だなおい。

 人間の傭兵が森人エルフ丘人ドワーフの喧嘩を仲裁したり、大鴉ネヴァンに飲酒曲芸飛行させて頭から落ちた遊人ハーフリングをキーマンが精霊魔法で治療したり、とにかくやかましいが平和である。

 ――そうだよ、過酷だけど人と人が助け合い、日々を必死に生きていく。

 ――これが俺の見たかったものなんだよな。

 そしてこの麻薬王、何やら満足げだ。


「ところでソウタさん」

「どうしたキーマン」

「ぶっちゃけどうなんですかキンメリア。政治の都合で俺たちは送ってもらえなかったんで気になってるんですよ」

「人間同士での謀略合戦だよ。竜が攻めてくるってのにな」

「やはり……そうですか。竜に一度滅ぼされた町ですよね。どうやって復興策を考えておいででしたか?」

「今、錬金術で作物の肥料を作ろうと思っててな。アヤヒの協力で実験そのものは成功しているんだけど、肥料の量産の為にキンメリアで採掘される磁鉄鉱が必要なんだ」

「錬金術ですか。最近アツいですね、錬金術。俺も勉強したいなあ」


 キーマンはお茶を飲みながらため息をつく。

 ――確かに教えるのはありだよな。

 ――キーマンたちがどこまで俺の味方になってくれるかは分からないが、今彼らが優秀になってくれて困ることはないしな。


「今、世界中に錬金術を用いた肥料作成の技術を広めようとしているところだ。まあすぐには無理かもしれないが……それが広まったらキンメリアの磁鉄鉱が高値で売れるようになる」

「技術革新による市場の変化を織り込んだ業種転換ですね。長期計画になりそうですが、予算やら何やらは良いんですか」

「まずは麻薬と歓楽街で稼ぐ」

「麻薬……人間や遊人にはかなりヤバい毒じゃないですか? 良いんですか?」

「何一つ良くねえよ最悪だよ。麻薬汚染だってどうしようもないしな。けど……」

「けど?」

「手が無かったんだ。最初はな。貧乏なエルフの村が現金を手にする方法、エルフや他の民族に犠牲を強いる人間の社会を突き崩す方法、要するに今の世界を否定するには麻薬しか無かったし、麻薬が手っ取り早かった」


 キーマンはそれを聞いて黙り込む。


「けど、俺のやり方では何時まで経ってもこんな平和な村を実現できないんだ。君たちみたいな若者が、大人たちと折り合いをつけながら、少しずつ前に進まないとさ」

「分かってるんならやめたら良いじゃないですか。正直言えば……俺は、ソウタさんのやり方は過激すぎると思ってます。人間社会を壊しても森人エルフの世界は訪れない訳ですし……」


 颯太そうたはケラケラと笑う。


「エルフの為に働いているんじゃないからな。俺は」

「そ、それはそうでした。失礼しました」

「俺が見たいのは、君たちみたいな若者が自由に羽ばたく世の中なんだよ。その結果何が訪れたとしても、俺のやり方を永遠に続けるよりはずっと良いものになる」


 そう言って、颯太そうたは安いカモス酒をまた一杯飲み干した。


「できるんでしょうか。俺たち、アヤヒさんも含めて、誰も大貴族に睨まれたエルフの農村を守って権力を奪い返すなんて出来ないと思います」


 そう言ってキーマンは他の村人とそこそこ仲良さそうにしている官吏の森人エルフたちを眺める。


「良いんだよ、そんなことしなくて。お前らにできることを思いっきりやればいい。村のみんなと打ち解ける事も含めてな」

「それが今は難しい気がします」

「ははっ、まあ学べよ。ウンガヨさんもそれをさせたくてお前らを派遣したんだろ」

「……じゃあ、まずは少し学んでみましょうかね」


 キーマンはお茶を入れていた杯に、自らカモス酒を注ごうとした。

 しかし颯太そうたはそれを制して、自ら酌をした。


「強いけど甘ったるくてあんま美味しくないぞ」

「俺まで酒好きになったら困るでしょ? こんな困った酔っぱらいだらけの村なのに」

「違いない」


 キーマンは杯の中身を一気に飲み干して、うへぇと顔をしかめた。


「変な味ですね」

「分かる」


 それから二人はクスリと笑った。


「そういや、銀山と大麻畑の調子ってどんな感じ?」

「ああ、銀山は調査も順調ですが大麻畑がやはり土地も気候も違って……」


 他のウンガヨの弟子たちや村人を巻き込み、夜が更けても二人の会話は続いた。

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