第117話 開拓村の状況を踏まえて女神様と巨竜の侵攻を迎撃する作戦を考えよう!
「……ふぁあ」
――この世界に来たばっかりの時は、よく村で朝まで宴会してたっけなあ。
起き上がって固くなった体を動かし、骨の鳴る音を聞いた。
ため息をつく。
――遠いところまで来ちまった。
夜明けの日差しを見て、
「ソウタ!」
背後から声をかけられて振り返ると、アヤヒが居た。
「おはよう。良い朝だな。どうした?」
アヤヒは何かを言おうとして、固まり、少し怒ったような顔をする。
「……いや、前にさ。ソウタが潰れてた時に私が迎えに来た事があったなと思ったんだ。お前は本当に……って、腹を立てたなと。それだけだ」
「そっか……ところでアヤヒ」
「なにさ」
「良い村だな」
「だろ? 今はまだ自給自足もできないけど、例のハーバーボッシュ法ってのができるようになったらグッと楽になると思う。三年だな、三年もあれば良い村になるはずだ」
「心強い限りだ」
「だからさ、ソウタ」
アヤヒは優しい顔で微笑んだ。
――こうしてみると、アスギさんに似てるな。
ソウタにはそれが嬉しかった。
「どうした?」
「何もかも嫌になったら、こっちに来なよ」
「お前こそ、辛くなったら何時でも逃げ帰ってこいよ」
「ばーか、見れば分かるだろ。こっちはもうバリバリ最高良い村作ろうエルフヴィレッジって感じだよ」
「……だな」
――お前なら、俺よりずっと良い村にできるだろうよ。
「じゃ、帰るわ」
「いってらっしゃい」
「……いってくる」
――レン、迎え頼む。
それから、空に向けて手をのばす。
すると、彼の手を透明な何かが掴んだ。
「あんたにしては、随分おセンチな顔だこと」
「俺をなんだと思ってやがる」
その透明な何かに向けて悪態を言った次の瞬間、
*
「――さて、どうなのよ。せっかくあんたが気に食わない連中を法廷に引きずり出せたって時に急に村に向かって、何か良いことあった?」」
執務室で机の上に腰掛けて、女神は椅子に座った
「治安維持は聖女様のお仕事だ。俺が必要以上にでしゃばることもないだろう。どのみち俺が狙われたと知れば彼女も黙っちゃいない」
「そうやって貴族同士がピリピリするわけね」
「あいつらが仕掛けてきたんだよ」
「それはそうね。まあ人間が殺し合う分には良いのよ。女神様的に人間はちょっと減らしておきたかったから」
「減らしておきたかった、と言えばだ」
女神の白い太ももの上に手を乗せて、
「竜の軍勢の本隊が動くらしい。
「それってこの国が滅ぶレベルかしら?」
「滅ぶかもしれない。反人間勢力も動き始めているし、恐怖に囚われた人間がどんな馬鹿なことをやらかすかについては歴史が証明している」
「でも倒せるでしょ、竜族」
「そうだな。あえて侵攻を許した上でサンジェルマンの十三兵器でも何でも持ち出して、包囲攻撃でもすれば逆に相手の主力を殲滅できるかもしれない」
「そうよ。そもそも本当に王都が不味くなったら、
「じゃあ折角産業振興に励んだ土地は一度切り捨てて、あえて竜族は引き込んでから皆殺しにしろと? 反人間勢力やただでさえ政治がガタガタで不満を抱えた王国が崩壊するリスクを看過しろと?」
「だって、そしたら竜族の領地が余るでしょう? 人類の生存圏を広げるチャンスじゃない。あんたの言う開拓地も新しい国もできるわ。こんな国なんて滅びればいいの。私を崇めないんだから」
「確かにお前を信じない奴らが死ぬのは良いかも知れない。けどなんかよ、そういう何かを犠牲にして何かを手にしたりさ。強い奴の……っていうか白竜の思い通りに動くのって嫌いなんだよな」
「それはあたしだって嫌よ。けどあんた何したいの。平等な社会とやら作りたいんでしょ? じゃあ人間の国なんてとっととぶっ壊した方が良いじゃないの」
「――それは、あながち、そうでもないんじゃないかと思う」
「どういうことよ」
「この世界における人間の強みって社会性なんだけど、その社会性の強みを引き出してくれる国という共同体が破壊されると、今度は人間がこの世界における最弱種族に転落する可能性があるんだよな。しかも人間は既に恨みを買いすぎている。行政管理だって
女神はしばらく沈黙した後、困ったような顔をした。
「あ、あんたが、それいう?」
「誰よりもこの国を食い物にしているからな」
「……それも、そうね。じゃあどーするの?」
「サンジェルマンの力を借りる」
「借りて……どうするの」
「
女神は真顔になった。
女神にも「本気か、こいつ」と言わないだけの配慮はあった。そして情を交わした弱みもあって、頭ごなしに馬鹿呼ばわりできない優しさもあった。意外だ。
「男の子ってそういうの好きなの?」
結果、これしか言えなくなった。
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