第113話 鉄砲玉をけしかけた癖にしらばっくれる悪徳騎士の脳髄におクスリ注入しよう!
「なんですって! ソウタ様の邸宅に矢を射掛ける不届き者が!? それは許せませんなあ~~~~~~~~~! この土地を古くから守護する騎士“アーデン一族”の者として見過ごせません!」
早くも捕まった下手人が、これまた早くも口を割り、そしてまたまた早くも雇い主がハッキリした為に、
「見過ごせねえよなあ。下手人はとっ捕まえたし、雇い主についても吐かせた。証拠も出てきたぜ」
「やや、なんと! 一体何処のどいつが!」
「あんただよ!」
「いやね。この土地を古くから守っていた一族、そいつは結構。俺が気に食わない。それも結構。だがやり方が気に食わねえ。こっちはてめえらが竜を追い返せなかったから来てるんだわ! だのに仕事の邪魔とは随分じゃあねえのか?」
「濡れ衣を着せた上にその態度……今すぐお帰りいただけないならばこちらも考えがありますが? いかがかな市長どの」
「シラ切ってんじゃあねえよ!」
と、言いながら
蓄音機だ。
『あの男も少しつつけば怯えて逃げ出すだろう』
『所詮火事場泥棒しか能のない聖女の取り巻きだ』
『お前がやつを仕留めたならば病気の母親の治療費は払ってやるとも。鹿を射つのと何も変わらん。ほれほれ』
蓄音機はロナルドの声だった。
「ああ、ちなみに犯人のお袋さんの治療費は建て替えといてやったぞ。俺に払ってくれても良いぜ?」
「な、な、なんだそれはくだらん
「蓄音機だ。蝋管に空気の振動を記録することで収集した音を何時でもどこでも再生可能になる錬金術の産物だよ。大逆人のサンジェルマン伯爵って知ってるだろ? あいつは俺の兄弟子だったんだが、昔作ってくれてな。王都でも今流行りだぜ? 犯罪捜査の証拠としても使われている? 知らないのか? マジ? これだから田舎者は……」
「ともかく知らん! 知らんもんは知らん! そんなものが証拠になったとしてもそれは王都の法! キンメリアにはキンメリアの法が――」
「あっ、そう?」
《メッセージ:『放毒』が発動しました》
次の瞬間、部屋に居たアーデンの護衛たちが次々と泡を吹いて倒れ始めた。
「えっ!? ええっ!?」
アーデンが周囲を見回して悲鳴を上げたのを見てから
そして、毒を仕込まれてもうとっくに動けないアーデンの顔面に靴を乗せて、ニヤニヤと笑った。
「エルフの村の自白剤なあ。あれ、俺も食らわされたんだけどよお。めっちゃ良く効くんだよなあ。あれこそこの国の法律じゃ証拠扱いはされねえんだが、まあ仕方ないよなあ」
《メッセージ:『放毒』が発動しました》
「あ、が、あ……!?」
「殺さねえよ。俺は人殺しはしない主義なんだ。ただ――どの薬で壊れたいかは決めときな」
と、そこまで言った瞬間、バタンと勢い良くドアが開く。
ドアの向こうに立っていたのはまだ十を越えたか否かくらいの小さな人間の少女だった。ともすればこの場には似つかわしくないが、少女の浅黒い肌と紫色の瞳が血で濁ることはない。
そもそもこういう場こそが、彼女の生きる場所だからだ。
「先生、お久しぶりです」
「よう、ヌイか。外の見張りはどうした」
「この部屋には忍び込みました。お姉ちゃんに知られたらどうするんですか? ほどほどになさってください」
――アヤヒか……開拓地で何か有ったな?
苛立っていた
「良いぜ。こいつは臨時の裁判所で証言させるつもりだったしな。やりすぎはよくない」
「あの、先生……」
ヌイは
――あれ?
ヌイの変化に気づいた
――まだ怖いのか。俺にやられた時のことでも思い出しているのか?
「大丈夫だ。お前には二度と使わないよ」
「……いえ、その」
「そもそもただの薬だ。少量なら訓練しているお前には効かないだろうし……」
「いえ、いえ、違うのです」
「じゃあなんだ?」
「同じ薬でも、
「どう違う。どう怖い」
「先生は人の心を壊すために使います。徹底的に壊されるその男と、こうして重用されている私と……何が違ったのかふと不安になりました」
「お前は特別だよ。部下は増えたが、結局、一番信頼できるのはお前だ」
「聖女様や、他の皆さんよりもですか」
「勿論だ。お前にしかできない話がいくつもある。だから、傍に居てくれ。一人ぼっちは寂しいんだ」
「……はい」
「……さて、外の見張りを呼んでこい。こいつを連れて行ってもらわなきゃならねえからな」
「内側からいきなり私が出てきたら驚きませんか?」
「ソレくらいでいいんだよ。
「怖い人の振りを続けてると、そのうち本当に怖い人になってしまいますよ」
「そうなっても、お前だけは傍に居てくれるよな?」
「……ええ」
ヌイは少しだけ自慢気に微笑んで、それからすぐに部屋の中から消えた。
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