第114話 世界の危機を訴えるエルフの声に耳を傾けよう! えっ、頼れる老エルフが元テロリスト?
「この待ち合わせ場所だけはなんとかならなかったのか?」
「今更、先生がどんな犯罪をおこなったところでとやかく言えるものはここにいないでしょう」
「俺にもイメージってものがさあ~!」
「先生が周囲からどう思われようとヌイだけは先生の味方ですからね」
「味方が連れ込むんじゃねえよこんなところによぉ! 大の男が子供と一緒にこんなところよぉ!」
ヌイの案内で、キンメリアの片隅にある兵士向けの小さな連れ込み宿から、
開拓地の村長宅へと一瞬で転移した
*
アヤヒはこれまでの経緯を早速
「この世界は滅びるんだよソウタ」
と、締めくくった。
「……成程、竜たちの本隊か」
「規模は知らないけど、白竜のやつが絶対勝てないって。あいつもキンメリア攻略に加わるって言ってた」
――竜の世界も政治してるな。しかしここで本格的に攻めてくるってのが妙だ。
――もっと早くから攻撃が来てもおかしくなかった筈だろ。
――少し考えなきゃ駄目だな。
ならば、と
「
「どういうこと?」
「竜は人間の巨大兵器を警戒していたが、これまでの戦いでそれがないと判断したのかもな」
「今その判断が下ったってことは……もしかして白竜のやろー、私たちに情報流すふりして探ってたんじゃないの!?」
「ずいぶん気安くないか? 白竜となんかあったか?」
しかしアヤヒは何のこともないようにしれっと答えた。
「競
「そうか……そうか?」
「いやでも分かんねえな」
「何が? めちゃくちゃヤバいんじゃないの?」
颯太はため息をつく。
それから、白竜からアヤヒを通じてもたらされた計画書を眺めて首をかしげた。
「それで、これを見てどうして世界が滅ぶと思った? キンメリアは守りきれないかも知れないが、押し込んで来ても人間が黙っている訳ないだろ」
「確かに人間は黙っていないと思う。でも同時に――
「……ほう?」
――俺の知らないものを見てきたか。
「詳しく聞かせてくれ」
ハーブティーを飲み、黙る。
「ソウタは今、この町を守って権力を拡大する……って隠れ蓑を使って、私たちの開拓地を本格的に運営できるようにしようとしてるじゃん」
「まあ俺のやりたいことなんて外から見えないほうが良いからな」
「ウンガヨさんは選ばれた
「まあエルフって馬鹿はとことん馬鹿だからな、同じエルフだからこそ相手してられんだろ。思想は分かる。それで?」
「そこに集まっている人から、結構王国内部の反人間勢力について聞くんだよね」
「……ほー」
――面白くなってきた。
そう、
人間である彼には中々つかめない話だ。
「私はね、人間のすべてを否定するつもりはないんだ。けど開拓地に集められる人の中には、正直素性が良くなかったり犯罪歴のある人も居てさ。そういう人の中には人間相手にテロを繰り返していた人もいる。その人たちがこっそり教えてくれたんだ。死ぬかもしれないとなったらみんな動くって」
「今はまだ生活が有るから耐えられる。けど、生活の保証すらも無くなったら――」
「せめて一矢報いてやるって思っている
「まあ俺たちの村はそこそこ豊かだったからな……あっ」
「なに?」
「もしかして“水晶の夜”みたいな人族ならば誰でも受け入れる傭兵団って、そういう奴らが案外多かったりするのか?」
「そう! そうなの! 水晶の夜はソウタが雇っているからまだ制御できるだろうけど、スラム、犯罪組織、貴族の中にもくすぶっている火種はある。王都の方だと“真実、正当なる預言者の王”とかいうテロリストが暴れているらしいよ」
「王都は最近手が回ってなかったな……」
「そいつらはすべての種族が集まった反政府集団で、キンメリアの崩壊は女神の怒りだって触れ回ってるらしい」
「マジで詳しいな……」
「村に引っ越してきたドワーフのおっちゃんが教えてくれた。都会から戻ってあの村で鍛冶屋やってたから、古い情報だと思うけど……結構詳しく教えてくれた」
「なんでそこまでべらべらと……」
「お祖父様が元構成員」
そこで
「なんだって? マジかそれ」
「だからてっきり私も同じ思想の持ち主かもって思ったらしい……まあ私としてもソウタやヌイちゃん以外の人間はホントどうでもいいから咎めるつもりはないんだけど……」
「そいつらが竜の進撃に呼応して暴れだすかも知れないのか」
「私の見立てだと権力者や官憲に対して一斉に牙を剥くと思う。わざわざ人間を殺して回るかで意見が別れていて、そこの意見が一致しないせいで足並みが乱れ続けているらしいから」
「それは――」
「お祖父様が言ってた。ソウタには秘密だって。あ、でもお祖父様はハト派だぞ。お祖母様が人間に殺されかけてたところを買い取って村に帰って静かに暮らしたぐらいだしな」
「――そうか」
――よくまあ俺殺されてなかったよなあ。
次の瞬間、テーブルに身を乗り出して、アヤヒが
「ソウタは――その人たちのことをどう思う? というか、私はどうすべきだと思う? どう付き合っていけばいいだろう。皆良い人なんだ、私にとっては」
妙な迫力があった。
なにか、彼女自身も気づいていない何か大きな力を、既に手にしているのではないかと
それは
――けど、まだだ。
「お前の好きにしろ」
そう言って
アヤヒは小さく悲鳴を上げ、額を抑えながら椅子に座った。
「けど。もしそいつらが女子供や何も関係ない連中を狙い始めたら……そいつらが今の人間のクソみたいな貴族と同じ立場になったら……俺はそいつらを叩き潰す。お前が見て良い人だとおもう間は、好きにしろ」
「分かった。まあそういう訳で、玉突き事故みたいにあちこちで勝手に反人間のテロリストが動き出して、竜の進軍と合わさったら国は割れると思う。国が割れたら、今度こそ竜に対抗はできない……筈」
アヤヒは黙り込む。
「地図を書き換えることになるだろうな」
「そしたら、人がいっぱい死んで、何時までも戦いが続く。そんなことになったら収集がつかない」
「そこまで面倒を見る義理は無い。むしろその方が良い」
「駄目でしょ!?」
「そうなった時、やっと、人間も、それ以外も、同じ立場で生きていけ――」
「ソウタ!」
アヤヒは思わず掴みかかってから、怯えて手を離す。
――良いな、思ったよりも、完成が早い。
「……悪かった。今のは俺の言い過ぎだ。そうだ。そうだな。そちらの対策も考えておく」
――二択だ。
――この国を壊して俺の理想を実現するか。
――この国の秩序を
選択肢が、見えてしまった。
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