第105話 ええっ!? 俺がいきなり市長様!?
「おう村長。今日も忙しそうじゃねえか」
アッサムは村のデスクの前でぐったりしていた
「忙しいですよ。春は種まき、虫取り、雑草とり、そして
「そういうのは他のやつに任せりゃ良いだろ。今はどう割り振ってるんだ?」
「農作業一般は村の人に任せてますが、調製した農薬の使用はアヤヒを通じて皆に指導しています。今月中には俺の手を借りずに煙草や木酢を利用した簡単な農薬が使えるようになることでしょう。
「粉挽き小屋はフィルや村の女どもが熱心だったな」
「ええ、その辺りはもう丸投げしてます」
「カジノに関してはニルギリ、それに水晶の夜や、在来の犯罪組織にできた伝手を利用して手堅く儲けるような動きを目指しています。最近の問題は人間以外の種族を排除したカジノで一儲けしようとしているやつが居たことなのですが……ま、解決しました」
「物騒だねえ」
アッサムはゲラゲラと笑った。
「殺してはいませんよ。ただ、北の小王都で治安を維持している“水晶の夜”は麻薬の金で動いてくれる。今の何かと治安の悪い小王都で
「要するに人種間トラブルをタネにして、差別主義で差別化を図った店では、カジノが割に合わない商売になるように仕向けた訳か」
「直接手は下してませんが……まあ起きると分かってたので利用しました」
「犯罪統計のデータがあるってのは役に立つな」
「犯罪以外でも、データは大事ですよ。見てください」
「銀山か?」
「そうです。魔の山に居る
「いつの間にそんな仕事まで」
「この銀山の周辺で、極秘の都市建設計画を開始したいんですね」
アッサムは顎のひげをいじりながら難しい顔をする。
「手が足りねえだろ」
「はい。足りません。銀山の監督、未踏地での生存、集団の指揮、こういったことができる人材が居ません」
「単純に頭数も足りねえってことさ」
「あっ……はい。そうなんですよ、正直言って足りません。元から都市運営に慣れた官僚集団みたいなのが居れば……」
「ウンガヨの兄貴なら持ってるだろ。自治区では
「……あー」
「最初に竜族がほしがってたのは大麻で、未踏地では大麻も売れるんだろ? ならウンガヨさんに声かけていくのが筋なんじゃねえかなあ」
――それは、それは、正論だ。
とはいえ、懸念が無いわけでもない。
「それは良いアイディアなのですが、それをやるとエルフの勢力だけがその新しい都市で拡大してしまう恐れがあります」
「それは悪いことか?」
「俺は良くないと判断します。銀山の採掘が主な業務なので、主役は
「まあ
「誰か、間に入れる人材が居れば嬉しいのですが……」
「そんな都合良くは――」
と、その時だ。
コンコンと村長室の扉がノックされた。
入ってきたのは手紙を持ったアヤヒだ。
「ソウタ、小王都からお手紙だよ。なんかすごい豪華」
「どれどれ見せてみろ」
封蝋の紋章、封筒の装飾、いずれも華美なその手紙は、他ならぬ聖女からのものである。
「……マジ?」
「どうした村長」
「何書いてあるのソウタ?」
そう聞かれると
「莨谷先生へ。王国は東の小王都キンメリアを奪還・防衛する為の連合軍を組織することになりました。貴族同士の対立や軋轢、利権の奪い合いやエルフ自治区からウンガヨさんの力を借りねばならない事情などから、責任者の地位を押し付け合った結果、エルフと人間の混成軍が誕生しました。厳密には水晶の夜にも業務を外注するので、更に状態は混沌としています。こんな部隊まともにコミュニケーションとれるような指揮官が先生以外に思いつかないので助けてください。軍人としての業務というよりは、都市の復興の指揮を執るのが主な仕事になるかと思われます。市長様です。付け加えますがこれは命令です❤逃げないでね❤ あなたの君主❤聖女カレン❤より」
アッサムは深くため息をついたし、アヤヒはドン引きだった。
「間に入れる人材がほしいのはどうも何処も一緒みてえだな」
「ですね……」
「これだけやらないとソウタは逃げるのか……」
何かに気づいたようにアヤヒは頷いた。
「アヤヒ、なにか言ったか」
「ナンデモナイヨー」
「……さて、ただでさえやりたいことが多いのに厄介な仕事まで頼まれちまった」
「むしろシンプルだと思うぜ村長。要は竜との戦争だ。東の小王都に侵攻する竜を押し止めることができれば、あとは丸投げで進むだろうさ」
「簡単に言ってくれますね……」
――とはいえ、これ上手くすれば麻薬組織の拠点が一つ増えるな?
頭を抱えながら、
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