第106話 竜に滅ぼされた貴族領の復興で中心的役割を果たそう!

 北の小王都アヴェロワーニュの色街。サンジェルマンが経営する娼館に颯太そうたは上がりこんでいた。


「どうですか? こちら王都で行われた会議の内容です」

「お前、王宮の会議室に盗聴器仕込んでたの?」

「貴族の嗜みですよ。間諜スパイを育てるよりも余程コスパが良い」

「なるほどねえ……」


 そして娼館の一室で、颯太そうたとくるみ割り人形の姿のサンジェルマンは、顔を突き合わせて盗聴器の音声データに耳を傾けていた。


「聖女様が割とノリノリでこのクソ案件を拾った理由は『莨谷先生に丸投げできるから』と見るべきでしょう」

「過労死するが」

「そしてウンガヨも森人エルフの発言権を求めて活発に動いている」

「まあそれは構わないんだがな」

「だが、宰相殿はそのウンガヨさんの動きこそ気に入らない」


 ――またそれか。

 颯太そうたは呆れてため息を吐いた。


「まあ、人間の存在感が薄れていくからな」

「できればウンガヨさんの投入する若い森人エルフは戦闘で使い潰したいと思っているんですよ。なまじ行政側で功績を立てられるとそこからズイズイ入り込んできますから」

森人エルフが偉くなるとそんなに嫌か?」

「単純な能力では人間より遥かに優れている長命種です。一度権力を握らせたら何処までも厄介になります。エルフが偉かった時代などは、今より世の中は乱れていたのですよ」


 ――そういう背景もやっぱりある訳か。

 颯太そうたはもう一度ため息を吐いた。


「やっぱ世が乱れた時にそれを正す何かが必要だな」

「麒麟か何かですか」

「そうだな……少なくとも女神ではない」

「それはそうですね」


 女神被害者の会の男たちは仄暗い笑みを浮かべた。


「エルフが圧制をするならエルフを、人が圧制するなら人を、そうやってぶっ飛ばす存在が必要なんだよなあ」

「あなたがなるのではないですか?」

「俺は不老不死でもないし、俺の思想が無限に繋がっていくとも思えないんだよ。俺の教え子が俺より良い答えを出すことはあってもさ」

「なるほどねえ。ま、それは今後のお楽しみだ。それよりも今どうすべきか、ですよ」


 サンジェルマン人形はニヤニヤ笑う。

 仕事量が限界なのは颯太そうたも分かっている。

 ――開拓地の作業を遅らせるのが安牌だが、そうすると密貿易で十分な利益を得られなくなる。

 ――かといって、キンメリアへの従軍を拒否する訳にもいかない。


「アヤヒが連絡役になって、ヌイを護衛につける。そしてウンガヨと交渉してあいつの育てた官僚集団を一部借り受ける。密貿易の対価に得られる鉱山周辺の土地で、ウンガヨの育てた官僚集団から、行政運営について二人に学ばせる。エルフとドワーフの間に立てるのはあいつらだろ」

「子供二人だけ手放すのは不安では?」

「それはそうだ。俺も一人でキンメリアってのは困る。そこで提案なんだが、サンジェルマン、キンメリアでの領地運営の補佐してくれない? フィルはマイタ村に残しておきたいし」


 サンジェルマン人形はポンと手を打った。


「悪くないアイディアだ。ウンガヨも部下に都市運営の経験を積ませたい。そしてキンメリアの復興に市長として関わるなら、ウンガヨとそういう交渉もできる」

「良いだろ?」

「けど、未踏地の鉱山開発が不安なのは変わりませんよ」

「白竜って奴が居る。そいつが俺の取引相手なんだがな」

「は? 白竜?」

「おう。その白竜の土地を借りるんだから、白竜から送り込まれる監督官も迎えるべきだろ。後からイチャモンつけられると困るし。白竜に適任の竜が居ないか聞いてみようじゃないか」


 サンジェルマンはポカーンとした表情でその話を聞いてから、思わず吹き出した。


「良いですねえ。よりにもよってあいつと知り合いでしたか!」

「お前も知ってるのかよ」

「僕が殺し損ねた相手ですよ。腕も勘も良い。戦って楽しかった」

「名目上は、あいつに新設される鉱山都市の長となってもらう」

「ホワイトドラゴンシティですか」

「それ良いな。ブルーマウンテンホワイトドラゴンシティ。自分の名前が冠された都市とか喜ぶだろあいつ」

「そこら辺ちょろいんですよね。分かってるじゃないですか」


 颯太そうたとサンジェルマンはケラケラ笑う。


「じゃあ、後は、村のこと、そして政治周りのことだな」

「村の農業には化学肥料、政治周りは僕が集めた貴族や官僚のスキャンダル情報を、それぞれ提供するとしましょう」


 こうして、二人は各方面への交渉を開始することにした。

 ウンガヨとの人材交流の依頼、白竜への鉱山都市への監督官派遣の打診。

 麻薬の現金化は“水晶の夜”に任せているが、栽培についてもサンジェルマンの知識を元に少し改良を試みることとなった。

 こうして麻薬村の一年も、廃墟キンメリアの市長としての一年も、颯太そうたはスムーズに始めたのであった。

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