第104話 東の小王都で起きている人竜戦争について、竜側の権力者と認識をすり合わせよう!
「壮絶な戦いだったな」
「ま、悪くない勝負だったわ」
「……さて、真面目な話をしようか」
「真面目な話ねえ。竜が話をする気、あるのかしら?」
「無ければもうとっくに帰っている。遊ぶ間もなくハック&スラッシュあるのみよ」
「頼むからやめてくれ。それで白竜、お前の話ってのはなんだ?」
「キンメリアへの竜族の侵攻だ。アレについて、俺も情報がほしい。どうせなにか嗅ぎ回っていたのだろう? 話してみろよ、麻薬王」
「奇遇だな。こちら側も竜族の視点からの情報を聞きたいと思っていたところだ」
どこから切り出すか。三人は一度沈黙した、が。
「白竜、借金チャラにするからお前から情報を寄越せ」
「ふん、まあそういうのも悪くないな。俺から話そう」
白竜は紅茶を口にしてから、ため息をつく。
「貴様ら、サンジェルマン伯爵を殺したそうじゃないか。こちらでも噂になっていたぞ。やつが居ないならば、あるいは人類の所領を切り取るくらいなら可能なのではないかと思ったとしても不思議はあるまいよ」
「あ゛っ」
「う゛っ」
「まさか、お前らが関わっているのか?」
「関わってるな……」
「ちょっとソウタ! 素直にゲロってんじゃないわよぉっ!」
スパァン、と女神が背後から
白竜はそんな様子を呆れた顔で眺めていた。
「ふむ、随分と素直だな。その隙に付け入って俺がなにかするとは考えなかったのか」
「考えたとも。考えたが、お前は金の卵を生む鶏を絞め殺すほどバカじゃない。お互い素直に手を組んで金の卵で儲けようぜ」
「お前、女に後ろからスパーンされながら言っても凄みとかないからな。いや、俺は嫌いじゃないがそういうの」
「女じゃなくて女神! 偉いの!」
女神がキーキー叫ぶ声を無視して
「少なくともサンジェルマンの遺した兵器はまだ稼働している」
「
「稼働させられる人間が居るということだ」
「それは俺たちだ」
「だろうな。うむ、良い話を聞いた。他の竜はサンジェルマン生存の可能性ばかりに怯える中、俺だけはどこにサンジェルマン並の脅威があるのか把握できている訳だ」
「そっちはあれか? 竜と竜の戦が煮詰まってきて、外に活路を求めたい連中が増えてきた感じか?」
白竜は両腕を頭の後ろに回してニッと笑う。
「分かっているじゃないか。まさにそれだよ。そして、女神の脅威を知らない世代が竜の中でも増えている。そうなれば必然として狙われるのは……というわけだ」
「お前が竜との戦いで快進撃を続ければ……」
「そうだな、他の国が今回のように襲われる可能性が出るぞ」
「えっ、ちょっと、
「いや、それは都合が良い」
「はぁ!? ふざけてんの!?」
「人は土地があれば生きていける。人は信念があれば死ねる。どちらも無くすと、何にでも縋るようになる」
「そうなった連中は喜んで未踏地の開拓に参加するって言いたい訳!?」
「アッハッハッハ! 悪魔か麻薬王!」
「全てを壊すというのはそういうことだ。俺はこの国の圧制が嫌いで、差別が嫌いで、無知が嫌いで、要するに何もかも嫌いだ。村の連中は好きだがエルフだって嫌いだ。レンは大好きだが、神ってのは嫌いだ。白竜、あんたは嫌いじゃないが、竜は嫌いだ」
女神も、白竜も、ニヤニヤと笑っていた。
「俺は理に適うものが好きだ。今、人間の王国は非合理的な仕組みで動いている。差別に使う労力やエネルギーを、腹いっぱい飯を食う為に使えと言っている。この理屈が分かる連中の国を作る」
「わからないなら死ね、か」
「まあソウタってそーゆーとこあるから」
「死ねとまでは言わないが、邪魔するなら容赦はしない。そう決めた。今更ビビるには、人を殺しすぎたし、麻薬をばら撒きすぎた」
「竜にでも生まれればよかったのにな、お前」
「この世界の環境を再調整するには丁度良いタイプだったのよ。竜じゃできないでしょ、そういう創造的な方向の思考」
「うむうむ、まあそれはそうだ」
女神と白竜の会話を聞いて気恥ずかしくなり、
「今後、竜はどう動く?」
「前回の戦いで死んだ者の遺族が報復の為に再びキンメリアに攻め込む。旨味はもうないのだが、人間にやられたのが納得いかないそうだ」
「良いことを聞いた」
「麻薬王、否、麻王。お前はどうする」
「静観だな。人類側もあの
「成程なあ。分かった。ではその間に、俺は東に向けて進軍を続けよう。銀山の採掘の為の人員、集めておけよ」
白竜はスッと立ち上がって
「あら、もう帰るの?」
「当たり前だ。侵略戦争の機会だぞ? これ以上引き止めるなら今からここで戦争を始めたくなってしまうが……」
「あらそう。お帰りはあちらでーす」
「次の競
「いーだ。今度こそあんたの有り金全部ひんむいてやるから」
「またのお越しを」
「おう、破産せん程度に遊んでやる」
白竜は勢いよく扉を開けると、いかにも楽しそうな足取りで部屋の外へと出ていった。外にはいつの間にか、暗い雲が立ち込めていた。
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