第100話 領主様に偵察の成果を報告しつつ、密貿易の算段を立てよう!
「ミュンヒハウゼン男爵の領地は既に壊滅状態。こちらはサンジェルマンの十三兵器の一つの起動に成功し、竜の軍勢の侵攻を遅滞させました。そしてこちら、救出してきたミュンヒハウゼン男爵のご息女です」
聖女は少女を受け取ると、呼びつけた他の家臣に彼女を預け、満足げに頷く。
「よくやってくださいました。先んじて男爵家の生き残りを確保できたことで、戦後処理の際に我々は他の貴族勢力に一歩先んじることが出来ます。彼女が目を覚まして回復次第、すぐに話を聞きましょう。危険な任務をよくぞ成し遂げてくれました。今後も王国にしっかりと仕えてくださいね」
「いえ、そもそも領主様に救っていただいた身。何時命を捨てても惜しくはありません」
聖女は他の家臣たちの前で
竜に攫われて聖女の手を煩わせた学者上がりと
「命を捨ててはなりませんよ。キンメリアにおける竜の襲撃の報告が届いたのが昨日のこと。先鋒となる軍勢は既に救援に向かわせたものの、状況が分かりません。少なくとも現時点で生き残りはほぼ居ないと分かっただけでも、動き方が決められます。あなたは大事な仕事を為したのです。生きて、働き続けてください」
「ははっ、ありがたきお言葉。領主様のお役に立てることはこの私めにとって無上の喜びでございます」
「これからも頼りにしております。偵察結果は後で書面でも報告をください。村や遊技場の仕事も溜まっているでしょうから、ここでの報告はここまでとしましょう。よくやってくださいました。それでは皆も解散です。元の業務に戻りなさい。凶暴な竜の襲撃が有っても対策できるよう、準備を怠ってはなりません。良いですね」
聖女の号令と共に、謁見の間に集められた臣下たちはぞろぞろと解散した。
そして、
*
「……先生、お仕事お疲れさまです」
カジノの中に作らせた自分の部屋に戻った
それを一息に飲み干してから
「ありがとう。もうひと頑張りだな。公的な報告書と、裏側の事情まで言及した報告書、二枚必要だから……写しも作りたいしコピー機があればいいんだけどなあ」
「コピー? 写しのことですか?」
「そうそう、機械が勝手に書類を作ってくれるんだよ」
「器用な機械ですねえ……作れないのですか」
「フィルと相談したらいけるかもしれないが……今すぐってものでもないよなあ。サンジェルマンのやつに作らせれば……」
「それ、他の理事の前でポロッと言ったりしないでくださいよ」
「分かってるよ」
「フィルくんが開発したことにしちゃうのが良いと思います」
「ヌイは気が利くな」
「えへん」
胸を張るヌイの頭を撫でる。
――いつまでこうやって子供扱いできるんだろうなあ。
もうできないのだがその事実からは頑なに目を背ける
「ヌイ、写しを作ってくれるか」
「ええ」
ヌイと共に
「それで、この後ミュンヒハウゼン男爵領はどのような扱いになるのでしょう」
「男爵の血縁を次の領主に立てて、周辺諸侯や生き残りの家臣団がそれを支える構図になるだろうな」
「だから、あの子の確保が重要だったのですね」
「そういうこと。男爵の娘が居るならば、領地の継承権では間違いなく上位、そして彼女の救出に成功した聖女様とその配下の評判は一層高まるという訳だ」
「聖女様、中央に居た頃は政治的に身動きを封じられていたんですよね?」
「らしいな。その頃から動乱に乗じて動き出す準備を整えていたんだろう。十年、二十年、過去の記憶を封印した上で、自分が正しいと信じたことのために」
「やはり尊敬に値するお方ですね。そしてそんなお方の師だった先生の徳の高さがますます明らかになってしまいました」
「本当に徳が高かったら麻薬王なんてやってないな」
ヌイの手が止まる。
「……けど、私はあなたを崇拝しています」
「大した男に見えるかね」
「美しい、と思います」
「美しい、か」
「聖女様のお話によれば、先生は女神の力を与えられて、この星の維持の為に動いている。けど、あなたはそんな境遇さえものともしない。自らを正しいとは言わないし、誰の正義も肯定しない。ただ、理不尽と圧制を見た瞬間討つだけの生き方です。それは美しい」
「何故そう思う」
「暗殺者として、ヌイは人を殺します。人を殺した先に何が有るのか、その生き方には意味があるのか、それは為すべきことなのか、考えながら続けています。きっとこれからも」
「まさか、実は嫌になったりしているのか?」
「いいえ、こういう家業です。だからそれは良いのです。けど、私はまだその善悪を考え抜くことができるほど賢くもないし大人でもない。だから、破壊して奪ってそれでも誰かを生かして自分も生かす先生の姿に、感じ入るところがあるのです」
「……そうだなあ。それはそうか」
それからしばらく言葉を選んで、ポツポツと。
「そう生まれたんだから、そう生きる。それだけのことだよ。何も偉いことじゃないけど、許せないことを許す必要は無いと思ったから。そういう生き方ができる今この場所を、俺は愛している」
――そして、それを与えてくれたあの女も。
それだけだよ、と珍しく穏やかな声で呟いた。
「先生が、自分の為すべきことを続ける限り、ヌイの力は必要になりますね」
「そうだな」
「それは、幸せです」
「俺もだよ」
二人がニコリと微笑みあったとき、ドタドタという足音が廊下から響いてくる。
「大変だ!」
カジノを普段差配している
「賭場荒らしが出たぞーっ! しかも顔が良いーっ!」
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