第99話 世界を終わらせる十三の兵器について先輩転生者から話を聞こう!
先程まで燃え盛る廃墟と化していたキンメリアの町は、今や静かな更地と化していた。人も竜も差別無く平等に屍となって町の中に埋もれ、学術都市として秘めていた無数の研究成果も全て灰となった。
この戦いに勝者は居らず、そして救助された幸運な若干名と先に女神の力で逃されたヌイを除けば生存者は二人だけ。
「いい眺めだなあ……? なんでこんな兵器隠してたんだサンジェルマン。使えばよかったじゃないか」
「隠してはいませんし使ってましたよ。万が一の為の国防最終兵器として、辺境の領主たちに無償で供与して恩を売ったり、出来が良いのは抑止力として自前でコレクションしていただけで」
「ああ、女神やら聖女やらが言ってたな、サンジェルマンの十三兵器」
「フフン、天才たる僕の本当の力。魔術と現代科学と女神に由来する異星科学を組み合わせた全く新しい発明、錬金術の結晶たちですよ」
ホログラム映像のちっちゃいサンジェルマンが髪をかきあげて渾身のドヤ顔を決めた。気に入らなかったので叩こうとしたが、ホログラムなのですり抜けた。
「お前その力があるならさぁ! もっとさぁ! できることあったんじゃあねえのかなあ!? なんで俺を見てから真面目に現状を改善しようと思い立って襲いかかってきたんだよ頭おかしいんじゃねえの!?」
「いえ、十三兵器は女神を倒す為の秘密兵器でもあったので、これの開発にかかりきりですよ。そう、女装美少年を愛でている時以外はね……いえむしろ……開発の息抜きに女装美少年を開発していた。そう言っても過言では――」
「もういい黙って!」
「おっとそうは行きません。幸いにも竜と戦っている間は女神も無理に近寄って来ない筈。王国の援軍の第一陣がたどり着くまでは、ここで占領を続けます。更地になったとしても、ここはかつてミュンヒハウゼン男爵領の首都だったのですから。侵略者どもに汚させる訳にはいきません」
「お前案外真面目な事考えてるんだな。誘ったのだけは正解だったよ」
「それに、この町は二百年ほど前に僕の弟子が建設した町でもある。乙女座の私が、そんな場所に差す夕暮れに少しばかりセンチメンタルを感じてしまうのも無理からぬ事だと思いませんか」
「ちょっといい話っぽくしてるけどお前のやったことは忘れねえからな」
「何でも覚えていると老けてしまいますよ?」
「しおらしい顔とかできないのかなあ……?」
――まあしおらしい顔とか、似合わねえからな。
「どうした急に」
「莨谷先生、一つお耳に入れておきたいことがあります。我が十三兵器についてです」
「聖女様が破壊しようとしているんだったっけか? 政争の道具や内紛の種になるからって」
「はい。今ご覧になったとおり、竜族の侵攻が本格化した場合、女神の復活無しでそれを退ける為には十三兵器の存在が不可欠です」
――そういえば、白竜も明らかに女神の力を警戒していた。
――人間をあれだけ舐め腐ってた連中が唯一女神については警戒して人間の領域に踏み入ってこなかった。
「彼らが何故今になって侵略を開始したかは分かりません。女神を恐れて人里に寄らなかった彼らが、動き出す理由なんてあれこれ考えても正解は無いでしょう。けど、女神の
「……まあ暇だ。聞いてやる」
*
「現在、私が所在を把握している十三兵器は七つです」
操縦席の画面に七つの画像が表示される。
「あなたの破壊した私の身体、第一号“
全裸のサンジェルマンが投げキッスをしていた。見なかったことにした。
「王室に伝えられる国宝、第二号“
今度はどことなくカレンに似た雰囲気のある若い男が竜の
「女神様のメインユニットに格納された第三号“
下半身がホバークラフトになった漆黒の機体が格納庫に佇んでいた。
「私がこっそりドワーフたちの住む魔の山の奥深くに隠した第七号“
水銀の池の中心で茜色の剣が輝いていた。
「第八号“
「お前操縦してたんじゃないの?」
「いいえ?」
先程までの戦いを撮影した画像が表示されていた。
「第十一号“
虹色の光を両手から竜に向けて放つ格好いいサンジェルマンの画像が表示された。
「第十三号“
フィルが表示された。
そこで
「あいつはそんなすごいものなのか?」
「十三号だけはちょっと特殊なんですよ。他の十三兵器は竜と戦い女神と戦う為の兵器なのですが、フィルシリーズは特別な
「竜による滅びを想定しているのか?」
「女神による滅びすら見据えています」
サンジェルマンは両腕を広げ、楽しそうに叫んだ。
「愚かな人々しかいないなら! 人類に知恵なぞ与えられぬなら! 作れば良いんですよ、知恵ある人を!」
「おまえ……!?」
流石に
サンジェルマンはニヤリと笑った。
「差別、貧困、環境破壊、竜、そしてなにより女神。この星には多くの愚行と滅びが満ちている。人族がそれらに打ち勝てなくとも、それらに打ち勝てる人族を作ることはできた。天才であるこの僕が! 人間であるこの僕が! 僕が人という種族の居た意味を作ってやったんですよ! どうですか? すごいでしょう!」
「そんなもん、どこに……」
「あなたに仕える零号以外の個体は、世界中に散らばるように逃しました。僕の死に伴ってね」
「繁殖でもさせるのか?」
「ええ、ただし、人族が滅びてからです。彼らはあくまでポストヒューマン。今、
「万が一の保険か」
「いいえ、勝負ですよ。僕と先生のね」
「は?」
サンジェルマンは
「この星の人間に未来を与えられたら先生の勝ち、この星の人間が滅びて僕の
サンジェルマンは少年のように無邪気な笑みを浮かべていた。
「……ま、良いけど。俺が生きている間は俺の指示に従ってもらうぞ」
「勿論、今の僕はあなたの下についています。そこはフェアにやらなきゃ勿体ない」
「もし俺が死んだら……」
「その時も、まあフェアにやりますよ。不老の無聊を慰める貴重な遊び相手ですからね。あなたは」
――ま、気に入られているなら良いか。
発想が壮大過ぎて、しばらくは敵対せずに済みそうなことに、少しだけ安心感を覚える
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