第三章 進撃巨竜荒地キンメリア~人、神、機~
第97話 進撃巨竜荒地キンメリア~起動せよ、サンジェルマンの十三兵器~
春、雪解けからすぐのこと。翼のある四足の竜が隊列を為して歩いていた。
場所は王都からはるか東に位置するキンメリア。
ミュンヒハウゼン男爵領は小さいながらも学研の都として大いに栄えていたのだが、今はもはや見る面影もない。
石造りの町並みは落としたクッキーのように砕け散り、焦げ臭い匂いや臓物を撒き散らして転がる人の下半身で街路だった場所は満たされていた。
空も駄目だ。
それまで共に戦っていた騎手たちを不意打ちで食い殺し、その血に染まった翼でかつて守った王都の上空を旋回するばかりだ。
悲鳴は無い。みな死んだからだ。
怒声も無い。みな死んだからだ。
ただ歓喜の咆哮だけが天地を揺らしていた。
「……ひどい有様だな」
血と汚物と肉が焦げる匂いで吐きそうになっていた。
「先生、様子は分かったことですし、帰るべきです。竜とまともに戦うなど、命がいくつあっても足りません」
隣に控えるヌイはそんな
彼らは聖女からの依頼を受けて王国軍の派兵を前に敵兵力の偵察をおこなっていた。竜の居る土地に乗り込んで、必要に応じてすぐに逃げ帰ってこられる人材が
密貿易を安全に進める為にも恩を売っておくべきと考えた
「確かに、ここで少し戦ったところで仇討ちにもならないし、もう少し状況を見てから
「――いえ、いえ、いえ。ヌイさん、それに颯太くん。ただ逃げるだけなら簡単ですよ。人間は自分にできることを最大限やるべきです」
そんな二人のやり取りを聞いて、カラカラと笑う男がいた。
小さなくるみ割り人形の身体に魂を落とし込まれたとしても、その余裕たっぷりの声と物言いは変わらない。
「なにかあるのか、サンジェルマン」
サンジェルマン伯爵だ。
「ええ、ありますとも。このミュンヒハウゼン男爵領には我が十三兵器の一つ“
「十三兵器? また我々を騙すつもりですか?」
ヌイはサンジェルマンの入ったくるみ割り人形を睨みつけた。
くるみ割り人形はカタカタと震えながら、表情は笑顔のままだった。
「十三兵器ってのはなんだ。詳しく聞かせてくれ」
「先生、コイツの話を聞くのですか? 私はやはり……」
「信頼はできないが、信用はできる。まともに竜との戦争を経験している貴重な人材なんだ。確かに敵だったが、今は対立する理由も無い。使えるものは全部使わないとな」
「やれやれ、嫌われてしまいましたねえ。僕、女の子には嫌われやすいみたいです」
「ああ、十三兵器というのは僕が女神様に勝てる兵器を発明する過程で生まれた十三の兵器です。第八号“
「随分と便利なものがあるじゃないか。なんでミュンヒハウゼン男爵はそれを使えずにみすみす戦死したんだ」
「うーん、仮説①『侵攻が早すぎた』。仮説②『メンテも起動もできなかった』。あるいはこの両方か」
「折角の兵器をみすみす腐らせたのですか……? ヌイには理解できません」
「僕だって理解できませんよ。凡俗共はいつだって天才の発想の遥か斜め下を突っ走っていくものですからね」
サンジェルマンは呆れた様子で肩をすくめると巨大な四本爪の竜が我が物顔で占拠する男爵領の城を指差した。
「あの城の地下には、まだ
「占領した町の中心に突如大量破壊兵器が発生するのか」
「非常に効果的な奇襲になりえます……が」
「俺の顔を立てると思って、今回は手伝ってくれ」
「先生の命令とあらばなんだっていたします。そこの男が先生を裏切るのではないかと不安なだけで」
「勘違いしないでくれ! 僕は莨谷先生のことがだぁい好きなんですよ! 戦いを経て深まった男同士の友情……そして同じ錬金術師としてのシンパシー……小娘が我々の深く複雑な愛憎を理解できるわけがな――」
「愛はねえよ」
「はい」
サンジェルマンは深くため息を吐いた後、スンと真面目な表情に戻った。
「ま、ともかく、ですよ。莨谷颯太は、このような破壊と蹂躙を見過ごさぬ男でしょう」
「おう」
「だったら、僕に命令なさい。破壊せよ、と。あなたが打倒し調伏した相手に、勝者として堂々命じなさい。あなたは人を動かすというただ一点において、天才に勝った男なのですから」
「……おう」
その言葉を聞く
「竜の軍勢による侵攻の遅滞、そして壊滅したキンメリアの人々の意趣返しを目的として、
「ヌイにおまかせを」
「命令されるのも偶には良いですねえ」
滅びを迎えた死の都。
希望無き町のその片隅で。
三人の人間が立ち上がった。
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