第76話 エルフの村で学校を始めよう!~エルフの村の炭焼き教室~②

「木炭は、炭焼き窯と呼ばれる窯の中で作られる。お家にパン焼き窯がある子はいるかな?」

「はーい!」


 十人のエルフの子供たちのうち、三人が手を挙げる。

 貧しいエルフの村の中にも貧富の差があり、パン焼き窯が無い家もあった。だからフライパンで焼いたり揚げたりして作れるパン、チャパティを颯太そうたが布教したほどだ。


「そう、あのパン焼窯のおっきい奴だ。土の精霊魔法で作ってもらった。今はそれをドワーフの皆さんに使ってもらって、炭を作っている」

「でも村長、なんでドワーフにやらせるんですか~」

「そうだそうだ! ここはエルフの村だぞ!」

「はい、差別発言だぞ。良くないな」


 子エルフたちは何故怒られたのか分からない。

 無知な子エルフたちにとって差別的発言エルフスピーチは幼いうちからあたりまえのこととして定着してしまっているのだ! なんと恐ろしいことか!


「良いですか皆さん。エルフだけでは炭を焼けません。ドワーフだけでは森を育てられません。他の種族もそうです。この星に存在する人族は助け合わなくてはいけないのです。人間ヒューマンの先生が来てから村が豊かになったでしょう?」

「……役に立つのか?」

「そう、そういうことです。強いもの、価値のあるものに敬意を払うのがエルフですね? 人間ヒューマンの先生が村長をやっているのも、あなたたちのお父さんお母さんが認めてくれたからですね?」


 子エルフたちは程度の差こそあれ、概ね同意して首を縦に振る。

 颯太そうたはニッコリと笑う。


「だったらドワーフのことも認めましょう。ドワーフは森の木から、窯を使って炭を作っているのですから。木炭、すごい力だったでしょう?」

「ドワーフってすごいのか」

「あいつら足短いぞ」

「走るのも遅い」

「でも村長がああ言っているってことはすごいんだろうなきっと」

「そうです。すごいんです。はい、みんな黒板を見てくれ」


 颯太そうたは簡単な図式を黒板に描いていた。


「炭は、木材を窯に入れて四日くらい燃やし続けるとできる。単純に燃やすだけならば灰になるんだが、窯の中で燃やすと、木の中の水が無くなってカラカラに乾燥し、長い間高温で燃やし続けることができるんだな。みんなも火を消す時に水をかけたりするだろ?」


 子供たちがうなずいたのを見てから颯太そうたは続ける。


「普段みんなが燃やす薪の中にも水が入っている。だから薪を燃やすと火は弱くなるし、一度点いた火も簡単に消える。だが炭火は強い。この炭火を使わないと、みんなの家の農具の手入れもできないし、炭火を使えば普段みんなが使っている弓矢も更に強力にできる。金属の矢が使えるようになるからな」

「強くなるの!?」


 エルフ男子は強い武器が大好きだ。エルフ女子に受けが悪いのに気づいた颯太そうたはすかさず付け加える。


「鏡を作るのだって金属だからな。オシャレにも大事なんだよ、炭火。村で金属加工がもっと簡単にできるようになれば、皆が鏡を自由に使えるかもしれないぞ。小王都では皆が小さな鏡を持っていたしな」


 はっきりと声には出さないが、エルフ女子たちも興味有りげな顔になった。


「さて、木炭を作る為に木を燃やしている話はしたな。木炭を作る時は、最後に火を消さなきゃいけない。燃え尽きちゃうからな。この作業にエルフの力が役に立つ。エルフにも炭作りはできるんだ」


 エルフの子供たちは首をかしげる。


「ヒントは……エルフの得意な精霊魔法だ」


 それを聞いた子供たちは口々に自分の考えを並べ始める。


「水でも出すの?」

「違うな。せっかく乾かした炭が台無しになる」

「土の中に埋めるの?」

「悪くない意見だな。実際に、そうやって炭を作ることもある。だがそうやって作った炭だと火力が足りなくなることもある」

「あ、分かった! 風だ! 風がないと火がつかないってばあちゃんが言ってた!」

「正解! 窯の中に入る風を塞いで勝手に火が消えるのを待ちます! 偉い!」

「やったぁ!」


 無邪気に喜ぶ幼エルフを見ていると、颯太そうたまで嬉しくなってくる。


「さて、この後は皆で昼飯を食って、炭焼の見学に行くぞ。フィルがカツサンドをこっちに持ってきてくれるはずだ」

「カツサンド食べられるの!?」

「俺たち先生に負けたんじゃないの!?」

「俺はって言ったんだ。なのに魔法を使わずに勝負していたんだから、ルール違反だろ。俺の反則負けだ。お前たちの勝ちだからお腹いっぱいカツサンドを食べると良い」


 エルフの子供たちは顔を見合わせた。

 それから教室いっぱいに響き渡る甲高い声で勝利とごちそうを喜んだのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る