間章 エルフの村に冬が来た! 麻薬王のワクワクスノーライフ!

第75話 エルフの村で学校を始めよう!~エルフの村の炭焼き教室~①

 冬、野生のエルフたちは狩りの季節です。

 巣ごもりの為に栄養を蓄えた他の動物や幻獣の住処を襲撃し、殺し、奪い、火をつけ、歌い、踊り、酒を飲みます。

 雪見酒も乙なので、成人エルフたちは狩った獲物をその場で宴に供して村に何も持ち帰らないことがあるほどです。その間、子供エルフは雪合戦で無駄にお腹を空かせて凶暴化します。怖い。

 あと大人エルフは宴会の勢いで屋外で酔って寝て凍死します。強靭なエルフといえど自然には敵わないわけですが、エルフの多くはそれを知りません。

~「エルフ村日記」 著:莨谷颯太 より一部抜粋~


 エルフの村に冬が来た。

 サンジェルマンを無事に撃破し、新たなる領主からの協力をとりつけた今、颯太そうたにとっての最重要課題は村の文明レベル上昇とスムーズな越冬。そしてもう一つ。


「今日は皆さんに木炭の作り方について説明したいと思います。返事は?」


 だ。

 部屋の中に集まった十名ほどの子どもたちが勢いよく手を上げて返事する。


「はーい!」


 アッサムから押し付けられた村長宅の一角を使って、颯太そうたは子供たち向けの科学教室を開いていた。カラス運送との提携で流通ルートを確立したことで紙とペンとインクが安く手に入った。給食の為の食料も手に入った。そして颯太そうた自身が村長としての信頼を積み上げ、一声かければ人々を集めることのできる地位を手に入れた。

 麻薬事業ドラッグビジネスで築き上げたことを除けば、原始的だが理想的な学校である。


「いい返事だ。この中に木炭について知っている子は居るかな?」

「村長、モクタンってなに?」

「パンみたいなやつ?」

「美味しかったよなあ、あのパン」

「腹減ったな。チャパティ食べたいな……」

「そんちょー給食まだ?????」


 子どもたちが口々に勝手なことを話して、その内容は勢いよく授業の内容から脱線していく。

 ――元気が有って非常によろしい。

 だが、颯太そうたからすればこの程度は混沌の内に入らない。

 颯太そうたはニッコリ微笑むと、いつもどおりに教師としての手練手管の披露を始めることにした。


「じゃあ今日の昼は俺が作ったパンを一緒に食べよう。トンカツも作っておいたから、カツサンドにするのもいいかもな。知ってるかカツサンド? 美味しいぞ?」

「カツサンド?」

「アヤヒお姉ちゃん食ってたぞ。ちょっと食べさせてもらった」

「そう、それだ。みんな気になるだろ? そのカツサンドを、フィルにたっぷり作ってもらっている。食べきれないくらいな」


 まずは率先して脱線した話の流れに乗って、集団の話題をリード。

 人間ヒューマン文化圏のグルメは、幼エルフたちにとっては魅力的だ。

 特に冬場は大人が家に帰ってきたり帰ってこなかったりするので、彼等もお腹が減っている。


「だが、カツサンドを食べたければ俺と魔法勝負をしてもらおう!」


 そう言って颯太そうたは木炭を取り出す。


「ルールは単純、俺よりも長い時間、精霊魔法で火を点け続けることができれば勝ちだ」


 幼いと言ってもエルフである。戦いを仕掛けられれば本能的に受けて立ってしまう。ましてや食事を賭けた戦いともなれば、彼等は自然と夢中になる。


「俺が使うのはさっき話した木炭だ。俺は使が、この木炭と錬金術の力があればお前たちに負けないくらい火を出すことができる」

「嘘だーっ!」

「ヒューマンの出す炎にエルフが負ける訳がないぞ!」

「でも村長が言っているなら何か考えがあるんじゃないか?」

「どうした臆したか子供たち。カツサンドが欲しくないのか。一人では勝てないと思うのなら皆でかかってこい。お前たちは子供なのだから寄ってたかって俺に襲いかかっても卑怯にはならないぞ? エルフよ、怯えているのか、それで父祖に顔向けできるのか。誉れを見せろ、エルフの子らよ。俺にではない。胸を張って村長と戦ってきたぞと言いたくないか」


 十人ほどの子エルフたちはピュアだった。村で飲んだくれている大人たちとは異なり、エルフの誉れや勝利の喜びに貪欲だった。

 その結果、見事に全員がチキチキ着火耐久レースにし、全員が馬鹿正直に木炭との燃焼時間勝負を行い、全員が体力切れで教室の床に転がった。


「つ、つえー……これが木炭」

「精霊魔法の火よりもずっと長続きする……!」

「しかも村長は汗一つかいてない! あれだけ長時間火をつけてるのに!」

「あのモクタンってとんでもないマジックアイテムなんじゃないか……?」


 子供だましである。


「まったく、お前たちだらしがないぞ。言っておくが俺にはまだ……」


 颯太そうたは涼しい顔で懐の袋から木炭を大量に出す。

 エルフの子供たちは驚愕に目を見開いた。


「これだけの木炭がある。この木炭、欲しくないか?」


 子供たちは嬉しそうにうなずく。

 ――子供って、ピュアでいいなあ。

 颯太そうたも嬉しそうにうなずく。


「よし、今日は皆さんに木炭の作り方について説明したいと思います。返事は?」


 エルフの子供たちはその日一番の元気な返事をした。


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