第55話 浮気疑惑でむくれる女神のご機嫌をとりつつ秘密のお願いをしよう!
「……そうか。分かったよ」
――俺が悪い。そういうことにしよう。いや、実際俺も少しは悪かったかもしれない。ならやるべきことは一つだ。
「……ソータはさぁ」
頭上から声が響く。
「未成年二人に挟まれて喜んじゃう人……?」
「むしろ針の
土下座をしている颯太の背中に体重がかかる。
女神の気配だ。
――そして今、尻に敷かれている人です。ふふ、ちょっと興奮してきたな。
「も~、そうやって女の子に気を持たせるからあんたはダメなのよ?」
女神は楽しそうな声を出している。
――今回は比較的セーフだな。機嫌が良さそうだ。
「あいつらは……まあ大人になったら良い人見つけるって、うん。大丈夫大丈夫。俺を拾う女神も居た訳だしさ」
「まったく、甘えん坊だこと。結局、私が居ないとダメね」
「ああ……そうなんだ。お前はどうだ? 俺が居ないとダメじゃないのか?」
――尻に敷かれながら言う台詞ではないな、確かに。
「そうね、ダメよ。だからあなたにそんなションボリされると困るわ……ほら、顔を上げなさい。子供二人から懐かれただけでどうしてそこまでバツが悪そうなの?」
「バツが悪い……か。そうだな。状況的に特に言い訳をすることもできないレベルで俺が悪いからだが……」
――特にヌイちゃんに関しては『あと10年したらなあ』って後ろめたい気持ちがあったからだが……。
とはいえ、ここで顔をあげないと女神はキレる。
それを理解している颯太は恐る恐るといった雰囲気を演出しながらゆっくりと顔をあげた。
百点満点の顔の上げ方に女神もご満悦である。
「ま、良いわ。何が起きても最終的にあなたは私のものですもの。ちょっとくらい他の女に分けてもいいわ。それで進行状況はどうなのよ。ドワーフの村は無事に掌握したみたいね?」
「ドワーフの闇鉱山は鉱毒の被害で悩んでいるみたいだからな。多分エルフとの仲を取り持ったり解毒を少ししてやれば、この調子で
虚空から椅子が現れた。
――まあ顔をあげた土下座スタイルのまま喋っても面倒だしな。
女神はもう一つ椅子を出して座り、二人は向かい合った。
「ドワーフの村を掌握して、何をするの?」
「彼らは金属工作の技術に優れている。エルフの村の農業改革とカジノ設備の加工をやりたい」
「カジノの土地は決まってるわけ?」
「まだだ。サンジェルマンを誘い込んで始末する際に、邪魔が少ない場所が良いとは思っているんだが」
「暗殺は場所づくりからって訳ね」
とはいえ、予算も時間も上限がある。
戦いの余波でカジノが破壊されては意味がない。
「仕込みにはまだ少し時間がかかると思う」
「あらそう、こっちはもう終わったわよ。あとは何時でも仕掛けられるわ」
「初手は俺が行く。詰めの一手を任せた。俺のやり方だと追い詰めることはできても、トドメは刺しづらい。あいつが弱ってさえいれば……」
「そうね。不老の男でも、強いだけで不死ではないから。やれるわ」
「良し。となると、もう一度くらいサンジェルマンと会見をしたいところだな。カジノへの融資交渉とか」
「じゃあ小王都まで一度来てもらったら? 先輩後輩の差はあっても、別に会食に誘うくらいは失礼にあたらないわよ。あんたも一度お呼ばれしてる訳だし、お礼ってことで」
「……その手があったか」
――いっそ、そのタイミングで仕掛けた方が早いのでは?
――いや、でも金を借りてから殺して踏み倒すのが理想だな。
女神は考え込んでいる
「でもさぁ、本当に殺す必要あるわけ? 利用価値はめちゃくちゃあるわよ?」
そう言って煙を吐き出した。
「確かに利用価値はある。というより、エルフやドワーフやハーフリングの人権獲得を目指すなら、サンジェルマンは居た方が良いんだよ」
「じゃあ殺さない方が良いじゃないのよ。具体的にはどんなメリットがあるの?」
「医療用モルヒネの需要を創出し、その生産拠点としてエルフの存在を法律の中で認める。あとドワーフの村を苦しめる鉱毒除去技術だってあいつなら持ってる筈だ」
「なにそれ絶対殺さないほうが良いじゃない」
「そもそも俺は人殺しなんかしたくないんだよ! 同じ人間だぞ……!」
「ねえ、ソータ。あなた、殺さない為に偉くなったんじゃないの?」
「……それは、そうだ」
「あなたなら、できるんじゃないの?」
「自分より遙かに強い相手だぜ?」
「自分より強いからこそ、殺し合わないのが一番じゃないの」
黙って煙を口の中に溜め込む。味がやっと分かるようになってきた。
「……手はある」
「あら、何か思いついた?」
「サンジェルマンもお前も、互いの契約は破れないんだよな?」
「ええ、そうよ。相互に直接攻撃は無効化される。完全に無効化はされないけど、傷はつけられないわね」
「だったらそれを利用して、あいつの動きを抑え込む。お前との契約に新しい条項を追加してみよう。サンジェルマンとの会見を用意してくれ。相談の名目は融資だが、その契約についての交渉をする」
女神はそれを聞いて嬉しそうに笑う。
「やっと、ソータらしくなってきたじゃないの」
「まずはギリギリまで奴と俺の落とし所を探ろう。貴族の流儀と
「そうそう、それくらいでいいのよ。その方が応援してて楽しいわ」
「勿論、暗殺計画そのものは中止するなよ? あいつの出方がどうなるか分からないんだ。俺が殺されそうだったら助けてくれ」
「そういえば、私に独自の準備をさせたから、交渉の場でも
「あくまで『かもしれない』だ。大事な仕事だ。頼むぞ」
「ええ、任されたわ」
二人は拳を合わせ、コツンと鳴らした。
「後もう一つ」
「なに?」
「サンジェルマンを殺さずに済まそうと思っているのは、今の所俺とお前しか居ない」
「そうね」
「これも秘密だ。人間の指導者が人間の貴族を見逃そうなんて言ったら、エルフもドワーフもハーフリングも、
「対外的な姿勢は強気を崩さない、と」
「そんなもんだろ。大義や建前は服みたいなもんだ。着なきゃ逮捕だが、着なくても死なない。そして何よりTPOに応じて着替えられる」
「サンジェルマンと違ってちゃんと服着て歩いてくれるから、ソウタは好きよ」
――そこで比べないで。
「……おう」
伯爵が、心底苦手な相手だと改めて確認する
「ところで、会見の場所と時間は?」
「一週間後、小王都の一番良いレストランを予約しておこう。席は四人分、メニューは……まあレストラン側に任せよう。前払いでパーッとやってもらってくれ」
「あら、サンジェルマンはご飯じゃ釣られないわよ?」
「いいの。少しでも地元経済に貢献したいんだよ……」
小王都の混乱の責任は
そういう
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