第7話 居候先の娘さんを科学の力で助けよう!
翌朝、日が昇って牢屋から開放された
少し埃っぽいが、案外スペースの余裕はあり、余った毛布のお陰で寝泊まりするには不自由がなさそうだ。窓が無いのは気になるが、そこはあくまで道具小屋なので仕方ない。
「とりあえず今日一日はこちらの片付けなどしてもらって、明日からはまあ仕事を手伝って貰えればと思います」
「何から何までありがとうございます」
「いえ、むしろその……こんな小さな道具小屋しかなくて……」
「大丈夫ですよ。学生時代……ああいえ、俺が見習いの頃に住んでいた部屋の倍くらいはありますから」
「えっ……人間の家ってうさぎ小屋か何かですか?」
これにはアスギも真顔である。
「実はそうなんですよ」
「御冗談を」
アスギはカラカラと笑う。
「夜なんですけど灯りとかってどうしたら良いです?」
「ああ、娘のアヤヒが光の
「娘さん……アヤヒさんが?」
「あの子、精霊魔法は教えた私よりも器用なんですよね。風の震動を操って声だけ遠くに届けたり、お風呂を上手に沸かしたり。私、あんなに器用じゃないし、風の精霊魔法しか使えない落ちこぼれです」
昨日の呼吸を保持している間もアスギは殆ど黙っていた。
――それだけ大変な仕事なのだろう。
「精霊魔法ってエルフは得意なんですか?」
「
――エルフ、思ったよりも文化的な生活をしてるんだな。良かった。
そこそこ現代的で文化的な生活ができそうなことに、
「それはアヤヒさんにも頭が上がらなさそうだなあ俺」
「まあ、先生なんだからしっかりしてくださらないと困りますよ」
二人が笑っていると、表で叫び声が上がった。
「大変だアスギさん! アヤヒちゃんがカモスの木が生えている森に入っちまった!」
耳慣れない言葉に
――カモスの木? 危ないものなのか? 毒でも放つのか? いきなり殴りかかってくるファンタジー樹木は困るが、毒なら俺には効かないし……。
――よし、ついていこう。アスギさんからなにか言われる前についていくと言おう。
――世話だけじゃなく監視もされているんだ。イメージは良くしておきたい。
「まあ……今行きます!
「俺もついていきます。植物の扱いでしたらある程度心得があります」
「ですが、カモスの木は人間なら近づくだけでも……」
「生徒は放っておけません。お連れください」
「ソウタさん……分かりました。少し走ります。ついてきてください」
「分かりました。この辺りの草木について知識が無いので道すがら教えてください」
*
《メッセージ:『耐毒』が発動しました。大気中のエタノールによる粘膜への刺激を無効化します》
《メッセージ:『耐毒』の発動により、『耐毒』スキルが成長します。ランクDからランクD+に上昇しました》
状況は道すがらアスギに聞いた通りだった。非常に強い酒の入った果実をつけるカモスの樹。その群生地がこの村の近くにはある。立っているだけで『耐毒』のスキルが発動していることから、たしかに危険であることは
「話に聞いた通り……酒くさいですね。こんなところに子供が迷い込んで大丈夫なんですか?」
「
「え? ああ……仕事で酒を扱うことが多かったので慣れています」
職場で宴会が多かったので嘘ではない。ただし、慣れているから耐えられるというものではない。まあここには人間が一人しか居ないので、慣れていると言えば耐えられると思われるし、それを指摘できる人間も居ない。
「アスギさん。本当にこんな男が役に立つんですか? 身元不明の人間ですよ?」
「分かりません。どうですか
「めちゃくちゃ役に立ちます。俺、すごい酒に強いので。見てください。平然としているでしょう?」
「だそうです」
「確かに……そうだな……」
「エルフの人」
「うるせえぞ人間の人、ニルギリだ」
「ニルギリさん、他の人たちは?」
「こんな朝っぱらから人間みたいに真面目に家畜の世話をするのはアヤヒちゃんぐらいだよ。そんな真面目に労働してられるか」
「えぇ……そ、そうなんですね……」
――そんなことをしているから人間に追いやられただろ?
――精霊魔法とやらのお陰で便利だから真面目に働く習慣が無いな。
と、言いたかったのだが曖昧に頷くことしかできない
「あら? そう言えばニルギリさんはなんで早朝から? 昨日は大変だったでしょう? 届けたら奥さん心配なさってましたよ?」
「うちの家畜の放牧も一緒に見てもらってたんですよ。それでトラブルが有ったってアヤヒちゃんの精霊魔法で連絡が来たんですよ、あの、声だけ届けるやつ。『家畜がカモスの森に群れで突っ込んでいったから追いかけてくる』って」
「ああ、あの子動物に懐かれるものね。困ったわどうしましょう」
「正直俺も何も考えてなくて……」
――やはりエルフどもはだめだな。村長くらいしか頭の回るやつが居ねえ。
アスギとニルギリが会話している間に、
《メッセージ:『耐毒』が発動しました。エタノールの脳神経に対する効果を無効化します》
《メッセージ:『耐毒』の発動により、『耐毒』スキルが成長します。ランクD+からランクC+に上昇しました》
《メッセージ:『耐毒』のランクがC+になったことにより、新規スキル『放毒』を習得します》
頭の中に流れたメッセージにほくそ笑む。ピンと来た。それが流れ込んできた瞬間に、颯太は理解ができた。
――気化したエタノールの気体は重いから、少し高い場所を意識して歩くか。
――もしもアヤヒちゃんと羊たちが無事なら、彼らは比較的エタノールの害を受けないルートを進んでいる筈だ。
「俺、まずは様子見に行ってきます。すぐ戻ってきますから」
「危ないですよ? 野生の獣とかが居るかも……」
「アスギさん、大丈夫です。ニルギリさんはもしものために応援呼んでおいてください。流石に人間一人じゃ心もとないでしょう?」
「悪いアイディアじゃないな。アヤヒちゃんも誰か近づいてくれば救援を呼ぶために声を飛ばすくらいはできるかもしれない。そうなったらソウタ、お前戻ってきて様子を伝えに来い。弱っちい人間なんだから無茶するなよ」
――こいつ、俺にあっさり制圧されたくせに何を言っているんだ?
思わず首を傾げそうになるが我慢した。
「ああ、言うとおりにするよ」
綺麗な笑みを浮かべる
――こいつの鼻を明かしたいのもあるが、まあ何より俺の大事な生徒になる子供だ。さくっと助けて来るさ。
この男、特に言うとおりにするつもりはない。
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