第9話 遅れてきた暴走駄女神を止めろ!
「大したもんだよなあ人間。人間にも良いやつが居たもんだ」
「人間にしてはあまりに酒が強い。酒の人と呼ぼう」
会ったばかりのエルフも、昨日襲ってきたエルフも、やけに馴れ馴れしい。もう
「なんだよ酒の人って」
毒気を抜かれて、
「ソウタ! お前、あの森に入って酔っ払わねえなんてな! うちの家畜もありがとな!」
ニルギリも調子の良いことを言ってバシバシと
「ありがとうニルギリ。まあ色々あったが、これからは仲間ってことでよろしく頼むよ」
「こっちこそだよ! カモスの収穫は今日からお前の仕事だ! 飲め! おら飲め!」
――ふん、分かれば良いんだ。優しい俺は許してやろう……!
「俺にどんだけ飲ませるんだよ……ほら、ニルギリも飲めよ!」
「あったりめえだ! お前さんがとってきたカモスの実がまだまだあるからなあ!」
――実力さえ示せば比較的よそ者に優しいのは、人間の迫害とやらで生活が厳しいからか。
――使えるならなんでもいい。わかりやすくて良い。こいつらは。
そんなことを思いながらカモスの実を絞って水で薄めたものを一気に飲み干す。
果物の甘い香りが鼻の中を通り抜けて、胃袋と喉をアルコールが刺激していく。この感覚がたまらない。
《メッセージ:『耐毒』が発動しました。アルコールの効果を無効化します》
男たちが歌い、肩を組む。そして何時の間に噂に尾ひれがついたのか、
一晩中飲んだ、とも言う。
*
そして、
「グッモーニン人の子~!」
声に気づいて起き上がった
女は純白の薄布と黄金のネックレス、ブレスレット、イヤリングを身に着けていた。キリッとした赤く大きな瞳、血色の良い白い頬、赤熱した金属のような輝く髪。爪まで赤く塗っている。よく見ると指に煙草を挟んでおり、白い煙が薄くたなびいていた。
「だ、誰だ?」
「む? 私が美しすぎてビビってるわね? でも心配しないで。私とあんたはもう会ったことがあるのよ。村で怪しまれないように、すこしだけ記憶を飛ばしたけどね」
「記憶……病院から村までのか。いよいよ誰?」
「私は
――女神、こいつ女神って。マジか。いやまあ俺としても、俺をこんなところにつれてきた奴の話は聞きたかったが。
少し考え込んだあと、
「レン……なぜ俺を治した?」
「
「仕事? 俺に何をさせるつもりだ……?」
「人間を滅ぼす」
「景気の良い話だ」
――こいつが俺の病気を治して、妙な力を渡して、この世界に連れてきた。
――人間を滅ぼす為に。あんな人間なら、まあ神も滅ぼしたくなるな。俺も気に食わない。
「確かに悪くないな。けど、俺は人殺しなんてごめんだね。それに別にあんな人間ばかりじゃないだろう」
「あはは、分かっているじゃない。そういうところ好きよ」
――まあ確かに、気は合いそうだ。初対面なのにな。
女神が楽しそうに笑っているだけで、
「という訳で人間を滅ぼすなら勝手にやってくれ。それ以外のことなら手伝う。村にもやっと馴染めそうなんだ」
「だめ?」
女神は
――あ、美人。
「嫌いなんだよ。誰かに命令されるのも、するのも」
「学校でもずっとそうだったものね。腹が立たなかった?」
「腹は立ってたよ。けど、何ができる」
「今ならできる。私があなたに力を与えたわ。ここならできる。その為に私が呼んだのだから」
――毒を操るあれか。
――生き返らせて、そのついでに能力も与えたってことか。
女神は目を細くして、煙草を咥えてニィと笑う。
「できるのか? 俺に?」
「ええ、できるわよ。それで、私と、世界を救って欲しいの」
「世界を救う?」
女神は煙草を指に挟んで煙を吐き出す。
「間違っているって思ってるんでしょ? 変えたいと思ってるんでしょ? それは私のような
「俺が……世界を?」
「あっ、もしできないなら、人間は殺す」
「は?」
理不尽だった。
「だって愚かな人類は抹殺するに限るもの!」
女神は満面の笑みを浮かべた。
この世界で一番巨大な理不尽だった。
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