第20話 あとがき
このお話は、初投稿である「渡る世間は勿怪ばかり」の序盤を書いている時、クライマックスで、主人公チームのピンチに乱入、登場した鰍が、「協会」について説明する際の内容として書いたメモ書きが元になってます。
そのメモ書きは後述しますが、当初はぼんやりと、廃工場か廃坑跡を想定し、トンネル状の通廊を歩きながら説明するシーンを想定してました。実際にはそのシーンは「渡る世間」の第七章後半に相当しますが、貨物船の船倉に場面設定が変わったためもあり、主人公チームが「協会」について既に知っていた事もあり、説明自体が割愛されました。
このお話、本当に書きたかったのは11.章以降の部分でして、書き終えてみると、そこら辺を中心に、「なずな目線」でもっとこってりとリリカルな妖怪の恋愛モノとしてリライトしてみたいな、とか思ってしまってます。
いい年こいたオッサンの七面鳥ですが、そういう「甘酸っぺー」話が好きという、自分でも業が深いなと。
以下に、最初の「鰍のつぶやき」のメモを転記します。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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協会がいつの頃からあったのか、今の形になったのは戦後しばらくしてのことらしいけど、原型になる組織は室町の頃にはもうあったらしいわ。
元々は修験者とか山伏とか、拝み屋祓い屋のローカルな横の繋がり、情報のやりとりから始まって、宗派や縄張りで人同士が争ってては埒ががあかない、って思った誰かが言い出して、賛同した複数の人たちから始まったらしいわ。
勿論、最初は反発もあったというか、反発しか無かったみたいだけど、百年たらずでなんとか連絡網だけは全国で繋がるようになったって。
その当時の事だから、草とか素破、乱波なんてのとも繋がりがあったし、戦国大名が情報網に目を付けた事も一度や二度では無かったって。それでも、曲がりなりにも情報が流れ出して、誰かが記録を付け始めると、繰り返し騒動を起こす荒神様がどこにいるとか、あそこに行ったら帰った者がいないとか、このタイプにはあれが効くとか、そういうデータが貯まって効率良く動けるようになって。ある時期を境に急激に浸透していったんだって。
で、人の側が組織化されると、元々横の繋がりの薄いあやかしの事、あやかしの側の危機感ってのも出てきて。あやかしったってほとんどは害のない存在、人里のそば、場合によっては里の中に居ついてて、うまくやっている事のほうが多かったんですって。で、そのうち情報を悪用する人間も出てきて、「俺たちはあれから言う事を聞いて温和しくしているのに、人間がちょいちょい来てはいじめて金や米を盗っていく。いい加減にしろ!」なんて苦情が来るようになって。笑っちゃうでしょ、人間を襲って、人間に懲らしめられたあやかしが、人間の組織に文句言いに来るのよ。そんだけあやかし側も切羽詰まって、決死の覚悟で来てたんでしょうけどね。
で、そこからは意外に短い時間で、あやかしの側にも組織の情報ネットワークが浸透して、互いに度を越したりするのが出たら互いに納得ずくで懲らしめるようになって、それが江戸初期の終りくらい。御伽草子や芝居浄瑠璃なんか、お互いの啓蒙と戒めの為にやってたこともあったって。今でもやってるわよ?一部のホラーやサスペンス映画とか、見るものが見れば隠された意味や場所が分かるようになってるのよ?テレビから出てくるアレの井戸とか。
今の協会は、戦後に海外の似たような組織と繋がったこともあって凄く組織化されてるけど、基本的には「仲裁」をする為の組織よ。ていうか、協会自体はそんなに大きい組織じゃなくて、必要に応じて地域や能力から最適な団体や個人を選んで仲裁を依頼する、そんな感じ。
例えば、こんな事あったわよ、化け物がおばあちゃんに入れ替わったみたいだ、助けてくれって、孫からの依頼。ある時、故郷の実家のジジババの家に泊まりに行って、夜、ふとトイレに起きたら、ジジババの寝室から婆さんの声がする。口惜しや、悔しや、恨めしや、悲しや……田舎の夜の暗闇に目が慣れてよく見ると、行灯……じゃなくて豆電球だけど、その明かりで障子に映る影は人ではなくどうやら魚のそれ、怖いもの見たさで隙間から覗くと、でも、そこにいるのはお婆ちゃん。初めは夢でも見たんだと思ったけど、泊まりに行くと二、三回に一回は同じ事が起きるって。
調べてみたら、終戦頃の食糧事情の悪かった頃、そこの村で、村はずれの沼の主の大ナマズを網にかけて食べちゃってたのね。で、主の娘が復讐するつもりで人に化けて村の庄屋に入り込んだんだけど、隙をうかがうウチに事情も分かってくる、情も移る、果てには庄屋の息子といい仲になって、今ではその庄屋の息子はすっかり足腰弱くなって、頭ははっきりしてるけど伏せりがちの爺さんに、主の娘もすっかり婆さんになって、でも、もう老い先短いし、敵を討つなら今、でも討てない、好いて子まで成した伴侶を討てない、悲しや、口惜しや……って。
でね、協会としては婆さんに、夢のお告げのフリして爺さんに話振っておくから、正直に全部打ち明けなさいって言って、そういう能力持ってるハンター連れてきて、それ実はアタシなんだけど、その通りにやって、そしたら爺さんが、そんな事情は知らなかった、自分は婆さんと一緒で幸せだった、婆さんに討たれるなら本望だ、ひと思いに、さあって。
結局、爺さんの胸に包丁当てる振りだけしてお終い。爺さんはそれから程なくして他界して、婆さんは沼の跡地、その親族の持ち物のマンションが建ってるんだけど、そこに祠を建てて、自分はその後比丘尼になって、自分が死んだらそこに爺さんと入るって、まだ近くの寺で爺さんと主の供養してたんじゃなかったっけかな?いい話でしょ?協会の仕事って九割九分そんな感じよ?ああ、言い忘れたけど、爺さん婆さんの息子も孫も、自分がそんな血筋だって全く知らなかったから、こっちも「夢のお告げ」で前振りしといて、問題なさそうだったから事実を全部伝えたわ。
自覚とか全然なくても、昔から、あやかしの血が混じってる人は結構居るのよ。でも、それを受け入れられるかはその人次第だし、別に知ってなけりゃいけないって事でもないし、だから、そういうときは前振りして確かめてから伝えるのが一応の手順ね。結構便利よ、夢のお告げって。たいがい上手いこと説得できるから。アタシ含めてこの手の技が使えるハンターは結構いるし、重宝されてるわよ。勿論、悪用するヤツはキッチリ懲らしめるけどね。
だからこんな、ここまでの荒事になるのは年に十回あるかないかよ。小競り合いはまあ、そこそこあるけどね。つか、アタシと婆ちゃんが一緒に出るなんて滅多に無いわよ。でも、その滅多に無いののインパクトが強いから、変な噂が絶えないのよねぇ。困るわぁ。
うん、そう、協会は実は事務員が大半で、直属のハンターとネゴシエイターはあんまり多くないわね。そうよ、交渉事が基本だけど、小競り合いになる事は良くあるから、殆どがネゴシエイター兼ハンター、って感じかしら。直属っても、普段は別な仕事してて、呼び出されてスケジュールが合えば依頼を受けるって感じ。アタシなんか本部の近くに住んでるから、しょっちゅう呼び出されて困ってるんだから。
「協会」事件簿 その1 「親の仇は旦那様」 二式大型七面鳥 @s-turkey
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