第3話 ほんとに何もしない

ボクノアイジンニナリマセンカ


へ?


社長はニコニコしながら赤ワインを飲んでいる。


「どどどどういうこと?愛人て何?何なの!」


気付いたら社長の胸ぐらを掴んでいた。


「ワハハハ!やっぱり優香は面白いな。俺が会いたい時に会ってくれればいいよ。マンションも用意する。生活費も渡す。以上。どう?」

「……そりゃいいねーって。。会って何されちゃうのよ私は!」


社長は胸ぐらを私の掴む手を解いてギュッと握って


「何もしない。体の関係はなしでいい。会って喋ってくれればいいよ。一緒にご飯食べたり。俺が会いたいと思った時に」

「ななななんで?」

「お前の事好きだから」


好きって。。?こんなにあっさり言えるもんなの?

握られた手が汗かいてきたのでパッと振り払った。


「ほんとに何もしない?」


処女みたいなセリフを呟いた私に社長はニコニコしながら頷いた。


それからの事はよく覚えていなくて、この間見たNHKのドキュメンタリーの話をしたようなしないような。気がついたらタクシーで家に帰っていた。


翌日の目覚めはスッキリしたもので、あーやっぱり高いワインは悪酔しないのかもね。なんて考えていた。


軽くストレッチをしていると林からLINE


「契約の手続きがあるから15:00事務所まできてください。判子持参」


こわっ、この間転ばせた事、まだ根に持ってるな。ていうか、もう話が通ってるのねー。はやーい。

事務所へ行くと林とどこかの部署のおじさんに甲と乙がたくさん書かれている書類を読まされサインをして印鑑を押した。


あー終わっちゃった。

さようなら。女優の夢よ。


少しセンチメンタルになっていた私に林が


「一応、送別会でもやりましょうかね」

と言った。

「一応はいらんけどね。やりましょう」

私も林と同じテンションで言った。


どうせ暇でしょと前置きされ(暇だがな)その日のうちに私の送別会が開かれた。


いつもスタッフと飲んでいた居酒屋に入ると仲の良かったスタイリストや元マネージャー、俳優仲間(売れてない)が10人以上集まってくれていた。林やるやん。


「優香ーいなくならないでー」

「田舎に帰れー」

「オレは優香の態度のデカさが好きだった」

「あのドラマのお前の演技の下手さは伝説になると思う」

「優香ー結婚してくれー」

「これからどうするの?」

「朝ドラ一緒に出たかったー」

「優香は脱がないと思ってた。いやむしろ脱いで欲しかったけどー」


などなど思い思いに騒ぎながら暴言吐かれながら、花束なんてもらってヘラヘラしていた。

4次会のカラオケに入った時、それまでムスっとしていた林が急に話しかけていた。


「お前相当酔ってるな。目がすわってて怖いんだけど」

そう言う私の肩を掴んで林は叫ぶ。

「おおお前に転ばされた時にひっ、ひっかけたシークワサージュースで俺の革靴シミになっちゃったんだよぉぉ!」

「わわわわ、ごめんなさい。こいつこわいこわい」


「林くん酔ってるね。大丈夫?」

スタッフのサナちゃんが小さく言う。


「スカートの丈が短いだとかいちいちお高くとまってんじゃねーよ!売れねーなら売れねーなりにペコペコしとけよ!なんなんだよ!お前は!なんなんだよ!」

林は大騒ぎしている。


「お前いい加減にしろよ」

スタイリストの男の子が林の腕を強く掴む。

スタイリストの手をぐわんと振り解いて林は叫ぶ。


「なんで俺は!なんで俺は!こんなやつ好きなんだよ!!俺は俺は!こいつを売ってやりたんだーぁぁぁ。。なのにあれやだこれやだって!!お前は何様なんだよぉぉぉ!なんで俺は!こんなやつ好きなんだよーぉぉ…」


しーーん


林は泣いていた。


こいつ私の事好きって言った?言った。

え、まさか。

あんな仕打ちを日々されながらも。。とんだドMだな。


ぐすんぐすん泣いてカラオケの床に寝転んでいる林を見下ろしながらそんな事を考えていた。そして社長の事を思い出していた。






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