第2話 僕の愛人になりませんか?
ガチャ
「おっまたっせー!」
「…チッごきげんだな」
「いやいや最近忙しいわけよ。ハハ。。。でさ今日お越しいただいたのには結構重要な話があってさ」
ドキン
いやな予感。
「てゆうか優香ちゃん太ったよね?太ったつーかたるんだ?筋トレとかしてないでしょ?」
「いやいや、体重変わってないし!つーかお前重要な話って何?」
林は持っていたシークワサージュースをこくこくと飲んでじっとこちらを見た。
「体重変わってなくてもたるむんだよ。年取ると。優香ちゃんさー、上からちょっと話出てるんだけどそろそろうちと契約切れるわけ。んで更新するって言っても今のままじゃちょっと厳しいわけー。……まぁこれはあくまで案なんだけど移籍して心機一転って感じでやってもいいんじゃないかなーって」
予感的中。体が鉛のように重くなってきた。
「移籍して脱げって事でしょ?できないなら解雇でしょ。要するに」
「……まぁそうなるね」
再びおでこをテーブルにつけた。
冷たい。そして体が重い。
そういう世界だ。わかっている。
友達のアキちゃんは去年そう言われて脱いだ。今じゃそこそこ売れてるAV女優だ。
「もー慣れた」
買ったばかりのベンツのハンドルを握りながら、アキちゃんは私の目を見ずにそう言った。
「まぁ考えてみてよ。優香ちゃんみたいに可愛げもない結構歳もいっちゃってる子にこんな話があるだけありがたいと思った方がいいよ」
イラー
林がそう言って席を立ちツカツカ歩き出したので足をかけた。
コケた。シークワサージュースもこぼれた。
「いってーな!!」
「ふん!痛いのはこっちじゃ!!」
涙を堪えてそう言った。
どんより
脱ぐ?脱いであんなことこんなことを?
ぐあー!無理!!
辞めて実家に戻る?あんな田舎やだー!
お嫁さんに?。。誰のだよ!
帰り道、1人悶々としていると電話が鳴った。
ちゃりらら
社長じゃん。。移籍を後押しってか?
「はいはい」
「ハハ。おう。元気か?」
「元気じゃない。全然元気じゃない。何?なんか用?」
「ハハハ。相変わらず威勢がいいな。今夜暇か?」
「……暇ですが。」
「たまにはメシでもどうだ?」
社長とご飯。あーこれ確定だわ。クビだわ。
オワタ。終了。
さようなら私の東京砂漠。
父母ごめんなさい。東京で一発当てられなかった。家の一軒でも建ててあげたかったけどそれももう夢のまた夢。
私、脱げません。
私はクビ宣告をされに社長の元へ向かった。
19時、指定された恵比寿の店に入ると個室に案内された。
既に社長は到着していて本を片手にビールを飲んでいた。
「おう」
私に気づくと本を閉じて背広のポケットにしまった。
「何の本読んでたの?」
「戦前の日本の話」
「面白い?」
「ハハハ。お前の方が面白い」
40過ぎくらいか。メガネの奥の瞳は鋭くてじっと見られるとギクッとする。身長は180あるかないか。時折感じる修羅場くぐってます感が怖いのよね。
「マネージャーから話あっただろ?」
「…うん。あったよ」
「売ってやれなくてごめんな。うーん、売れる気がしたんだよなー。あの日東京駅でお前が東京バナナ買ってるの見た時」
「だはは。いや社長のせいじゃないよ。実力不足。愛想もないし。スポンサーにも態度デカイって怒られたし。いい夢を見せてもらいました」
「ハハ。確かに態度デカいな。俺の前でもかしこまらないのなんてお前くらいだわ。……あー、で、決めたのか?」
「……辞めるわ。脱がない。ごめんね。お世話になったのに」
「だよな。そう思ってた。水着もブーブー言ってたらしいもんな。でどうするんだ?実家帰るのか?」
「んーー。しばらくこっちにいる。仕事探して。とりあえずはね」
2杯目のビールを飲み終えて赤ワインを頼んだ社長が突然黙り込んだ。
こちらをじっと見る。
え、何?怖いんですけど。
「何?」
眉間にシワを寄せる私に突然言った。
「愛人でもやる?俺の」
へ?倒置法?
「僕の愛人になりませんか?」
仕立ての良いスーツを着て笑顔で私にそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます