自己問答
どうしたんだい、こんなに慌ててさ。そんなにもあの子に負けたくないのかい?
「私は、あの子に、負けたくない」
「あの子に、私を見下したあの子に、それは過ちで、あなたこそが私に見下される対象だったのだと、証明したい」
「私は、あの子を許さない」
あの子を許さない、だって?
あの子は、君に何をしたんだ?
「わからない。もう、わからない」
「もう、記憶などない、何度も何度も反復して擦り切れた」
「正確な情報が消え去った後、許さない、という感情だけが残った」
そう。それで、君は、あの子にどうしてもらいたい?
「どう?どうだって?」
「あの子に、あの子に私が受けたものと同程度の苦しみを!!」
「あの子に、私以上に不幸せになってほしい」
「私の前で幸せに暮らすことなど、許さない」
本当に?君はそれで満足するんだね?
「満足、はしないでしょうね」
「だって、私の、私の本当の望みは」
「このどうしようもない憎しみを、苦しみを、記憶を、感情を綺麗さっぱりなかったことにすること」
「でも、でもそれは、できない」
「もうどうしようもない」
「だから、あの子にしてほしいことなどない」
「強いていうならば、私の視界とは言わず、記憶の全てから、消え去ってほしい」
……それは、難しいだろう。
「っ、ひとつだけ、ひとつだけあるんだ、方法が」
「それは、私が」
「私が消えること」
「もう、もう、それしか、方法が、」
そう、か。
そうだね、君はもう、十分頑張った。
それは、僕が一番知っているから。
大丈夫、消えていい。君がいない間、僕が代わりになってあげる。
「だから、今は、ゆっくりおやすみ」
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