擬似心中
「そうか、貴方はそういうヒトだったね」
昨日の電話できいた君の言葉がぐるぐるとアタマを回り、いてもたってもいられなくなって家を飛び出し、山道を車でめちゃくちゃに走った。時間は既に獣の領分、電灯どころか星灯ですら樹々で隠れた道の先は暗闇に呑み込まれている。ヘッドライトは意味を為さずかろうじて道が続いているのがわかる程度でしかない。ハンドルを持つ手は知らずの間に強張り、本能が此処から先には進むなと告げている。獣が飛び出してくるのが先か、ガードレールに突っ込むのが先か、いずれにせよいつ死んでもおかしくはないだろう。そう思ったとき、は、と乾いた笑みが口から溢れた。そう、そうだ、僕はきっと僕を殺すためにここに来た。棄てずに腐った荷物を抱いて奈落の底へ飛び込むためにここに来た。再びこの道を通ることがあっても、そこには今の僕はいないだろう。だから、ああ、どうか。眼前の暗闇を睨みつけアクセルペダルを一際強く踏みながら呟く。
「新たに生まれる僕は綺麗に生きられますよう。」
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