事情を知って、お邪魔して・・・
今日は……そう言い残して去って行ったディアナと名乗った女の子。
その言葉の意味を、俺はすぐに知る事になった。
次の日も、その次の日も、俺よりも先に公園のベンチにディアナがいた。
こっちに気が付くと、手を振って微笑んでくる。
数日前に会ったばかりの見ず知らずだった間柄とは思えない距離間で接してくるディアナ。
こうやって顔を会わせる度に、こう言う事はいけないと言おうと思っていても、ディアナの話に遮られるかタイミングを見失って結局言えず終いで終わってしまう。
だからこうやって会う頻度が増えてしまった。
「繋様、お待ちしていました!」
会う頻度が増えたという事は、自分の事をある程度打ち明け、その分お互いの事をある程度知り得たという事でもある。
ディアナの両親は会社を一から立ち上げ、今ではかなり大きな企業にまでなったらしい。
その事について少し調べてみた所、当時は日本で2番目に位置する企業だったらしい。
つまり、神之超の次に大きな企業だったという事、それが更上神の参入によって変化したという事。
とは言っても、大企業に変わりはない。
詰まる所、ディアナもご令嬢という事になる。
「繋様、今日はどうでしょうか? 来てくれませんか?」
「えっと、ごめんね。今日もちょっと」
「……そうですか」
最近、事あるごとにディアナは俺を自分の家に招待したがる。
それだけはダメだと強く言えない俺は、こうやって予定があるからと嘘を吐いて回避していた。
忘れてはいけない。
俺とディアナは互いの事を少し知ったとは言っても他人だ。
それも、まだ高学年の女の子と無職の成人男性……この組み合わせはマズすぎる。
何故そこまでして俺を家に招きたいのかは謎だ。
もしかしたら仕事で忙しい両親に甘えられない反動なのかとも思ったが、その相手は俺でなくても良いはずだ。
なんにせよ、俺がディアナの招待を受け入れる事は無い。
「……やっぱり私、迷惑でしょうか」
「何が?」
「思えば急に声を掛けたのも、自分勝手に喋ったのも、今もこうやってしつこく誘っている事も……迷惑なんじゃ、ないかって」
「いや、別にそんな事思ってないよ!」
顔を伏せて肩を震わせているディアナを見て、慌てて慰めようとする俺。
公園には他にも人がいる。
女の子を泣かせているなんて思われたらシャレにならない。
「良いんです。ごめんなさい繋様、私……寂しかったんです」
「えっ? 寂しい?」
「はい。両親は仕事が忙しくて中々会える機会も無いです。それは私も良く分かっています。だから幼い頃からあまり甘える様な事も我慢してきました。家にいる家政婦さんにも、弱音を吐く様な事はした事がありません」
顔を上げたディアナの目の端にはうっすらと涙が溜まっている。
遠くを見つめる様な目で、話を続けるディアナ。
「学校ではお友達もいますし、勉強も楽しいです。けれど、それも学校にいる間だけです。家へ帰れば家政婦さんが仕事をしているだけで、私の相手をしてくれるわけではありません」
「……」
そうか、ディアナはずっと一人で寂しかったから……。
事情を聞いて、今までの自分の行動が酷い仕打ちになっていないかと嫌悪してきた。
相手の家庭事情までは知らなかったとはいえ、もう少し考えてあげる事ができていたかもしれない。
やっぱり俺は、ダメな奴だ……。
「って、ごめんなさい。またご迷惑をお掛けしましたね。……今日はもう帰りますね」
それだけ言い残して、ディアナは立ち上がって公園の出入り口へ歩いて行った。
俺は立ち上がる。
「……待って!」
そのディアナを俺は呼び止めた。
今の話を聞いて、じゃあまたねと簡単には言えない。
少しだけなら……本当に少しなら。
俺の呼び止めに振り返ったディアナに言った。
「その、少しだけなら……いや、迷惑じゃ無ければ……ディアナの家に遊びに行っても良い、かな?」
「っ!? 繋様!! ……はい、是非!!」
落胆していたディアナは、一瞬にして笑顔を取り戻した。
そのまま俺の方へ走って来たかと思えば、手を掴んで引いて行く。
急かす様にグイグイと。
「あの、ディアナ? そんあに急がなくても」
「いいえ! 1秒も無駄にはできません! 行きましょう繋様!」
俺はディアナに引っ張られて、公園を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
公園を出てから30分程で到着したディアナの家は、想像していたよりは普通の一軒家だった。
普通と言ってもかなり多き方の家だと言えるくらいには立派な家だ。
傍から見ても、この家だけ特別浮いているのが分かる。
「さぁ繋様、入ってください」
「う、うん。お邪魔します」
ディアナに家の中へ案内される。
家政婦さんがいると聞いていただけあって、家の中は綺麗に片付いており、埃一つ無かった。
元執事の癖が抜けきれていないのか、無意識に汚れている所が無いかを探してしまっていた。
「家政婦さんはもう帰ってしまったみたいですね」
「そう、なんだ」
俺が言い出さなかったら、帰って来た時にはこの広い家に一人だったのか……。
そう考えると、来てよかったのかも知れないと思えた。
寂しいのは誰だって嫌な事だから、それもまだ子供のディアナからすれば、泣いてしまってもおかしくない事でもあるから。
「繋様、私の部屋で待っててもらえますか? 私は飲み物をお持ちしますから」
「えっ、ディアナの部屋?」
「はい。階段を上がって奥から2番目の部屋です。それでは」
「あっちょっ、ディアナ!?」
俺が声を掛ける前に。ディアナはそそくさと奥へと消えて行った。
てっきりリビングにでも通されると思っていたのに、まさかディアナの部屋とは……。
「流石にそれは……なぁ」
家にお邪魔しするとは言ったけど、いきなり部屋に上げるのは……。
かと言ってここで立ち往生しているのもどうかと思うし……。
「仕方ない」
言われた通り、階段を上がってディアナの部屋へと向かった。
ドアにはディアナと書かれたプレートが掛けられていて、他のドアと色も違っていた。
覚悟を決めてドアを開けて、中へ入る。
部屋全体は、カラフルな壁紙で覆われていて、可愛らしい小物類が多く飾られていた。
机の上には伏せられた写真立てが置いてあった。
きっと両親の写真なんだろう。
そう思って、好奇心からか、伏せられていた写真立てを手に取った。
「――――――は?」
そこにあったのは、ディアナの両親の写真でも、ディアナ自身の写真でもなく……俺の写真だった。
「これ、えっ? なんだ、これ……」
俺はディアナに写真を撮られた覚えなんて無い。
会って話をして別れる、ただそれだけだった。
なのにこの写真は、何だ。
この写真は……いつ撮ったものだ。
いやそれ以前に、これは盗撮じゃ……。
「……!? 何だ、これ」
自分の写真を手にしながら、どういう事だと頭を抱えていると、一枚の紙がどこからともなく机の上に落ちてきた。
裏返しになっているが、それも写真の様に見えた。
ゆっくりと、それに手を伸ばして手に取り……裏を見た。
「嘘……だろ」
自宅でご飯を食べている……俺の姿が映った写真だった。
「これ……これは」
ディアナが、撮ったのか……?
俺を盗撮、していたのか……?
いつから俺の事を……。
「違う、そんなわけない。ディアナがそんな事するわけ……」
そう言えばこの写真、何処から落ちてきた。
落ちて、きた?
顔を上げて、天井を見た。
「っっ!!?」
写真。
写真。
写真。
天井を覆いつくしていた……俺の写真。
円を描くように、天井に張り付けられていた。
一部分だけ、ポッカリと空きができていた。
この手にしている写真が、そこにあったのだろう。
「はっ!? はっ!? ぐっ!??」
息が荒くなる。
この感覚を、俺は知っている。
あの二人と、同じ……。
また、俺は……。
ここにいてはダメだと、脳が悲鳴を上げている。
手にしていた写真を机に置いて、部屋を出て行こうとする。
ドアノブに手を伸ばした……。
「お待たせしました、繋様❤」
向こうから、ディアナの声がした。
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