Third person-三人目‐
別れがあれば、出会いもあって・・・
神之超光璃お嬢様。
更上神深弥お嬢様。
お仕えしていた二人のお嬢様……。
光璃お嬢様の異常な行動で監禁された俺は、もう終わりだと諦めていた所を奥様に助けられた。
そして、その場に居るはずのなかった深弥お嬢様の姿がそこにあった。
俺はそこで……二人に別れを告げた。
どちらにも仕える事は、もうできないと。
金輪際、もう会う事は無いと……。
突き放すような言い方で、心がかなり締め付けられたが……こうでもしないと仕方がなかった。
二人は泣いていた。
いつもは俺を罵倒する光璃お嬢様も……やたら甘えてくる深弥お嬢様も……、声を上げて泣いていた。
二人が泣き止むまで、俺は奥様や両家のメイドさん達とただ立ち尽くしているだけだった……。
最後の最後まで仕えていたお嬢様二人に涙を流させるなんて……俺は自分でも思っている以上に、最低な元執事だ……。
――――――そして、俺は自由になった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
昼下がりの公園には家族連れが多く、子供達が元気に走り回ったり、砂場でお城を作ったりして遊んでいる。
その様子を微笑ましそうに眺めていたり、一緒になって遊んだりしている親御さん達。
幸せな光景だ。
ふと、上を見上げれば雲一つない青空が広がっている。
まるで今の俺の心境と一致している様に思えた。
「まぁ、ここまで真っ青じゃないけど……」
公園の隅にあるベンチに腰を掛けて、独り言を呟く。
大の大人が平日の昼下がりに公園のベンチで独り言を呟く……傍から見たら、不審に見えていないか心配になってきた。
これでもさっきまでは、しっかりと職に就いていたんだ……さっきまでは……。
「これで何度目だよ……」
執事でなくなった俺は、あれから住む家を見つけ、生活に必要な物を買い揃え、バイトだが職に就く事もできた。
けれど、順調だったのはそこまでだった。
何故か俺の就いた職場が、当然の如く閉店や立退き続きで消えていった。
不幸にも程があるだろうと涙を流した夜は数えきれない……。
そうやって心に穴が開く度に、この公園に来ては気を安らげていた。
「はぁ……また探さないとなぁ。でも、なぁ……」
働く気はある。
けれど、また俺が就いたら無くなるんじゃ……なんて考えてしまうと、どうも乗り気になれない。
執事をしていた時に頂いたお給料は、目が飛び出すほどに高額だったから、まだ余裕はある。
娘があんな事をしでかした事へのお詫びも込めて……と、奥様が上乗せしてくれていたのもある。
だからと言って、このままの無職な生活をいつまでも続けているのは良くない。
いずれ貯金が底を尽きる時が来るだろうし、誰とも接さずに家に一人で居るというのも寂しいものだったりする。
「もっと安定していて、それでいてかなり大きな企業とかなら大丈夫かな?」
スマホで一通りの求人サイトに目を通していく。
これをするのも、何度目か分からない……。
気が付けば辺りは暗くなってきて、また明日も同じ事を繰り返すのがお決まりになってきた。
そうならない為にも、早く次の職を探さなくては……。
「あ~……んっ?」
スマホを操作しながら公園に来る前にコンビニで買っておいたパンを食べようとした時、真正面に人影が見えた気がした。
顔を上げて見ると……女の子が一人、俺をジッと見ながら立っていた。
「……」
「えっと……」
微動だにせず、ブラウンの綺麗な目が俺を見ている。
小学校の高学年生ぐらいだろうか、目と同じ色のブラウンのショートヘアーが、外側にはねている。
そして顔立ちからして、日本人ではないのが見て分かる。
「あの、もしかして日本語じゃダメか? えっと、なんて言えば良いんだ……」
言葉に詰まる。
英語は得意な方では無いし、連れの親御さんにこんな所を見られたら間違いなく通報されてしまう。
頭を捻っている俺に、黙っていた女の子が話しかけてきた。
「日本語で分かります」
「えっ? あぁ、そうだったのか……ははは」
日本語で話せる事に、肩の荷が下りた。
安堵したところで、尋ねてみる。
「えっと、俺に何か用かな?」
「隣、良いですか?」
「え~っと……どうぞ」
俺の返答に反応して、何の迷いも無く隣に座って来る女の子。
最近の子は怖い。
普通見ず知らずの人間の隣に何の危機感も無く座るだろうか?
もしかして今はこれくらいが普通なのか?
困惑していると、女の子が俺に言ってきた。
「お兄さん、最近ずっとここに来てますよね?」
「えっ!? あっあぁそのまぁ……うん」
「私この公園の前をよく通るんですけど、その度にお兄さんがいるのが目に入って……何してるんだろうって気になっちゃって」
「あの、それで……声を?」
「はい」
いやいや怖いよ。
気になっても知らない人に声を掛けちゃ危ない。
取り合えず、やんわりとだけ伝えておこうと思った。
「えっと~、あのね? あんまり知らない人に声を掛けたら危ないよ? もし何かあったら大変だからさ」
「……確かにそうですね、軽率でしたすみません」
「いやそんな別に、頭を下げなくても……」
軽率なんて難しい言葉良く知っているな。
さっきから思っていたが、立ち居振る舞いや話し方から上品さが伝わって来る。
この感じ……似ている。
あの二人に……。
一瞬、頭に過ったあの二人の事。
それは、目の前の女の子の言葉ですぐに片隅へと消えて行った。
「ディアナです」
「へっ?」
「私の名前です。ディアナ・オース・ゲイン。生まれはロシアで、10年前に両親の仕事で日本に来ました。日本語が喋れるのはそのおかげです。今は小学校に通っていて、歳は12才です。後は」
「ちょちょちょっと待って!!? 急に何、どうしたの!?」
いきなり自分のプロフィールを俺に話始めた女の子……ディアナと名乗った女の子の話を中断させる。
「ダメだよ、さっき言ったでしょ? 知らない人にそんな事言ったら危ないよ」
「はい、それは聞きました。だから私の事を知ってもらえれば知らない人じゃなくなります」
「……」
言葉が出なかった。
これは海外じゃ普通なのだろうかと考えたが、そんなわけが無いと言い聞かせる。
単に、このディアナという子の考えが凄いという事だけは分かった。
「名前」
「……え、何が?」
「お兄さんの名前です。私はちゃんと名乗りました」
「それはそっちが自分で……」
「……」
下から俺の顔を覗き込んでくるディアナ。
有無を言わせないといった感じが伝わって来る。
この空気が嫌で俺は……、
「……無逃、繋です」
名乗るしか道が無かった……。
俺の名前を聞いたディアナは、小さく微笑んで見せた。
そして、何度か俺の名前を復唱した後に、俺を見て言った。
「それでは、繋様って呼んでいいですか?」
「いや、様はちょっと……」
「繋様」
「……はい」
この子から放たれている威圧に逆らせずに頷いてしまう。
執事として仕えるという事に慣れてしまったから、まだその時の感覚が抜けていない……だから、押しに弱くなってしまっているのだろうか。
ベンチから立ち上がったディアナは、振り向いて俺を見た。
「それでは繋様、今日はこれで失礼します」
「えっとあの……うん」
それだけ言うと、ディアナは公園を出て行ってしまった。
状況が整理しきれていない俺は流される様に返答を返した後に気付いた。
……今日は?
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