第10話 終わりなき平和な世界

 エシスが気がつくと、自身のベットの上にいた。


「あれ?なんでここに?」


「お目覚めですか?エシス様」


 声のする方を向くとラビリンス国の騎士王、アーサーが座っている。


「騎士王さん、なんでここに?」


「あんたが刺されたって聞いて慌てて来てみれば傷はし、眠ったまま起きないし心配して損したぞ」


 騎士王である彼はエシスに敬語は使わない。エシスがそうするように言ったからだ。しかし今の言葉に違和感がある。


「傷?もう治っているのか?」


「そうだよ。自分で確かめろ」


 エシスは自分の腹部を触る。そして傷が無いことを確認する。外を見ると日が昇っている。


「本当だ」


「だろ?さてとそろそろ俺も戻るぜ」


 アーサーはエシスの頬に触れようと顔をも近づける。すると、殺気を感知しアーサーは避ける。エシスの前を銀色に輝く剣が目に入る。


「あんた起きてたのかよ。ま、いい。じゃぁな」


 アーサーは部屋を出る。そして自分の頬に触れると、血が滲んでいた上に髪も少し切られていた。


「やっぱり居るじゃないかよ」


 アーサーは昔に自分を切った者がいる。彼は自分には息子は居ないと言っていた。だが、今ここに居たのだ。


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 二人だけになった部屋は妙に静かだった。


「油断も隙もない男だな」


「お前もな」


「そうか?」


「それより、いつから居たんだよ?!」


「お前が眠ってる間に」


 ニコッと笑うファリル。そして剣を床に突刺す。


「もう少し寝てよ。疲れちゃったよ」


「何して疲れたんだよって!うわっ!」


 ファリルに押し倒されたエシス。倒れた拍子にファリルと目が合う。少しドキッとしたが、ファリルは目を瞑ってしまい、眠りに入る。少しだけならいいかなっと思い、エシスも眠りにつく。

 そして最終的に起きたのは日が沈み始めた頃だった。そこでエシスは大事な事を思い出す。


「やばい!故人の式やるの忘れてた!」


 故人の式。これはラビリンス国にある砂漠の処刑場と呼ばれる場所で殺された人たちを弔う儀式の事。川に灯篭流しをして海に持っていく事。それを行うのは昨日であった。


「それなら今日やるってお前の召使いが言っていたぞ」


「そうなのか?」


 エシスはほっとしたように胸を撫で下ろす。


「エシス、お前いつも海まで行って流しているそうだな」


「そうだよ。前にエリサナ国の連中が川を遮って灯篭を流せなかった時があってな。それが嫌だから海まで行って流してるんさ」


「ふーん。なら俺も作ろうかな?」


 ファリルはベットから降りる。


「その方がいいよ!作るの俺が教えてあげるからさ」


 エシスは小さな子供のようにはしゃぐ。


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 そして二人は一緒に灯篭を作る。ファリルは一生懸命作り、やっとの思いで出来上がる。


「よし!出来た!」


「早速海に流しに行こう!馬用意してくる」


 エシスは立ち上がって部屋を出ようとする。


「エシスはもう出来てるの?」


 ファリルに引き止められて、エシスは振り向いて答える。


「出来てるよ?それが何?」


「なら行くよ。馬なんていらない」


「要らないって?うわっ!」


 エシスは自分の灯篭を持つと、ファリルに腕を掴まれる。そしてファリルはエシスを連れて窓を飛び降りる。エシスは怪我することを予測し、体を強ばらせる。エシスは痛みが無く、目を開けてみるとファリルと共に宙に浮いている。


「大丈夫だよ。落ちたりしないから」


 エシスはその時に思い出す。王の器を持つ者たちは何かしらの力を持っている。ファリルの場合、空を飛ぶ力を持っている。しかしその力が働くのは月が出ている夜のみ。新月の時は空は飛べない。エシスにも何かしらの力を持っていてもおかしくないがどのような力を持っていたのか良く思い出せない。


「ほら、行くよ」


 ファリルとエシスは夜の街を飛んで行く。川を見ると灯篭が川の流れに沿って静かに流れて行く。


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 海に着いたエシス達は自分の灯篭に火をつける。静かに燃える炎を見ながら海に流す。


「ちゃんと流れていくかな?」


「大丈夫だよ。心配するなって」


「そういえば、お前いつも灯篭流しの時、小さな小瓶を投げてるみたいだな」


「うん、昔に母様から聞いたんだ。灯篭流しの時に願いを書いた紙と砂漠の砂を小瓶に入れて海に流すと願いが叶うって」


「ふーん。どんな願いを書いたんだ?」


「それを言ったらダメだよ」


 エシスはえへへっと笑う。その願いはもう叶ってる。初恋相手と結婚できますようにって書いていたのだから。

 二人は海を眺める。幸せになった二人を祝福するかのように空は快晴で、灯篭の炎が輝いている。

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