第6話 エシスの思い

 ハーマントに連れられてヘリサナはエシスの部屋に行く。


「くれぐれをお気をつけください。隣国の騎士団団長に怪我をされては困りますので」


「十分承知しよう」


 ハーマントは扉をノックする。


「陛下、隣国の騎士団団長のヘリサナ様がいらっしゃいました。忘れ物を届けに来てくれたようでして」


 中は静かであったが、少ししたら「入れ」と言う声が聞こえ、中に入る。


「失礼致します」


 ハーマントが先に入り、後からヘリサナが入る。


「失礼致します。陛下、先日は我が国王ファリルが失礼をいたしたことを、直々に謝罪しに来ました」


「謝罪はいい。俺の忘れ物って?」


 エシスは走らせるペンを止めて、ヘリサナに顔を向ける。その眼は腫らし、国王らしくない顔つきになっている。


「こんな顔ですまない。昨晩は良く眠れなくてな」


「いえ、そうだ忘れ物」


 ヘリサナは綺麗な包袋からファリルから貰ったペンダントを渡す。


「それは?!」


 エシスは椅子から立ち上がる。


「こちらは陛下のベットの上に落ちていたそうで、エシス様の物で間違いありませんか?」


「ああ、それは俺のだ」


「良かったです。それではお返しします」


 ヘリサナはエシスにペンダントをお返しする。


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 あれからヘリサナとエシスはお茶を飲みながら話す。


「陛下も、随分変われたようですね」


 エシスはくすくす笑う。


「昔のようにファリルでもよろしいですよ」


「いえ、そのような事はできませんよ。今の俺とは違いすぎるので…」


 静かにエシスはお茶を飲む。何かを考え込んでいるように。


「エシス様、今貴方様はこの国の国王です。貴方を縛る者は誰一人としていないのです。私が言いたいのはそれだけです。それでは私たちは帰ります。お茶ご馳走様でした」


 彼女は一礼をして部屋を出て行く。エシスはカップに入ったお茶を見る。


「縛る者は誰も居ない…か」


 エシスの中で何かが吹っ切れた様な気がする。前までは父親の言う通りに好きでも無い女と結婚しなければならないと思っていた。だが、今はもう違う。自分自身が国王なのだ。自分の好きなようにやっていいのだ。エシスはロケットペンダントを見る。すると、無理矢理こじ開けたあとが出来ている。


「まさか?!」


 エシスは慌てて開ける。中にはまだ新しいファリルの写真が入っている。こんな世の中だが、写真だけは上手く出来る。


「あの野郎」


 エシスは頭を抱えるが、内心嬉しく思う。そこに映るファリルの顔はじっとエシスを見ているような気がする。


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 国に帰ったヘリサナは真っ先にファリルの部屋に向かう。抜け出していないかを確認するためだ。


「陛下!!お仕事は進んでいらっしゃいますか?」


 扉を勢いよく開けて中に入る。部屋ではファリルが書類を片付けている。


「お前のせいでかなり進んだよ」


 嫌味たらしくファリルはヘリサナを見る。


「それは何よりです。おや、写真はどうしましたか?無くなっていますが」


「俺が切り取った」


「はい?」


「だがら俺が切ったんだ」


 なにか文句ある?という顔をしてヘリサナを見る。ヘリサナは怒ろうかどうかで迷う。だが、どうにも怒れず、ため息をつく。


「なぜ切りとったのか知りませんが、勝手にそんなことをするのはやめてくださいよ。写真屋に言いに行かないといけませんので」


「それはもう言った。もう少ししたら来る予定だ」


「左様ですか」


 ヘリサナと話していると、外から配達鳩がやって来る。手紙を咥えているようだ。


「おや、手紙か?」


 ファリルはそれを受け取る。


「誰からですか?」


 宛名を見てファリルは嬉しそうな顔を作る。この顔をする時はエシスのみ。彼から手紙が届いたようだ。

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