第25話

 翌日。私は朝食を済ませ着替えて身支度をする。大きな現実の入ったバッグを持って、病室から出た。


 ずっと気になっていた。昨日あれだけ現れた司の姿がない。お礼を言おうと思っていたナースステーションにて。


「お世話になりました。ありがとうございました。」


 私は反省と頭を下げた。


「まだまだ暑いから、お気を付けて。お大事になさってくださいね。」

「はい…。」


 奥深くなっているナースステーション。少し見渡してみても、司の姿はなかった。思い切って聞いてみる。


「あの、新井先生は…。先生にも、ちゃんとお礼が言いたいんです。」

「新井先生なら外科に戻られましたよ。早朝に緊急のオペが入ったそうです。」

「…?…オペ…?」

「あら?ご存知なくて?」

「はい…。どういうことですか?」

「新井ドクターは、内科のドクターに頼んであなたの担当をしてくださったんですよ。なのでてっきり、あなたと新井ドクターはお知り合いかと…。」


 昨日も、昨日までも。ぺらぺら仲良し、おしゃべりしといて。司の内情を何も知らなかった。


「何かご伝言、おありでしたらお伝えいたしましょうか?」

「…ありがとうございましたと、伝えてください…。」


 ナースステーションを後にし、会計を済ませた私は上を見る。天井なんか見えない。高い、広い、大きな病院。天井の見えないこの建物に、司はいる。外科医として、オペをしている。


 昨日寝る前。自分でもわからなかった思ったこと。私はこの時気付く。


  “一緒に居たい”


 欲を言えば、司の笑顔も見たかった。でも見られなくてよかった。上から聞こえた気がした。


  “いつまででも”


 司に私は甘えてしまう。流れに乗るんじゃない。自らが甘えてしまう。それははっきりわかった。

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