第23話

 どれだけ時間が経っただろう。泣き腫らした顔のまま、ただ灯だけを眺めていた。


 戻ろ。


 やり場のない想いを引きずって、私は病室に戻る。誰にも見つからなくてよかった。


 下を向いて歩く私は気付かなかった。部屋のドアの前、司が立っていることに。


「こら。どこ行ってたんだ。」


 眼の色と零を落した無様な姿。見られたくなかった私は司を無視し、ドアを開けた。


 私はベッド、司は椅子。


「もう、大丈夫だから…。大丈夫…だから…。」

「それのどこが大丈夫なんだ。」


 私は弱々しく司を見る。司は心配してる顔をしていた。それも心底。


 司の言う通り。全然大丈夫じゃない。でもサトシのこと、これからの自分を考えなくちゃいけない私は、大丈夫と自分に言い聞かせるしかなかった。


「ケリ…つけるから…。」


 司は少し驚いて、その後いつもの笑顔。


「そうだな。そうじゃなきゃ俺んとこ来ないしな。」

「ちょっ…と…、まだ決まった訳じゃないし、いつもそう勝手に決めないでって…。」

「冗談だよ。お前はほんと、真っ直ぐなやつだな。」


 ずっと笑う司は私を励ましてる。すぐにわかった。どうして胸が痛むんだろう。この優しさに、どうして寂しくなるんだろう。


「ケリつけるって言えたな。じゃあ大丈夫だ。」

「ん?どういうこと?」

「何かを『しなくちゃ』って時は『無理しなくちゃ』ってことなんだよ。でもお前は言わなかった。無理じゃない、自発的にできるってことだ。」

「…そう…なんだ…。」


 なるほど…。確かに、言われてみればそうかもしれない…。司って、もしかして賢い?


 バカな私、司は医者。賢くて当然。でも…それもあるかもしれないけど…。


 司は、色んな事を経験した。医師としてだけじゃない、色んな事。だから、人の心を突くような言葉を発する。なんとなく、そう感じた。

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