第21話

「そうだなぁ…。まず、お前のギター。」

「ギター?私の?」

「まずお前のギターに、俺は惚れた。」

「ほ…惚れ…。」

「切ないメロディーや音なら沢山聞いてきた。でもお前が出す音は色気があって、どこか儚い。ロックバンドなのに、バラードの曲なんてギターが泣いてるみたいだった。」


 私はただ、表現したい音を出していただけ。


「そんなお前の音と、他のメンバーの音。バランスが良かったんだな。上手くまとまって、完成度の高い、いいバンドだった。」


 本当にいいバンドなら、それこそ今、私ここにいないよ。


「ライヴ観る度、お前の音ばかり拾って聴くようになった。」


 届いてた、ちゃんと…。届く人には、ちゃんと届いてたんだ。


「そのうち、音だけじゃない…お前のことを目で追うようになって、気付けば惚れてた。ギターだけじゃない、お前丸ごと。全部な。」


 また…『惚れ』…。


「譲二が言ってたよ。『真琴はしんが強い。心のしんも強い。決してぶれることがない。だから男にも、強い太い音にも負けない。』ってな。」

「ジョーさんが…。」

「譲二の言う通りだった。お前のそんなところにも、俺は惹かれたんだろう。」


 届く人には届いて、伝わる人には伝わってたのかな。


 そう思えば、少し救われる。バンドを、音楽を、やっていてよかった。無駄じゃなかったと。


 人が浸ってるっていうのに。司はまた勝手なことを言い始めた。


「俺はお前のことを知ってる、少しはな。でもお前は俺を知らない。徐々に知っていけばいい、お互い。そうしよう。」


 司はにこっとした。純粋な少年みたいに。


「そうしようって…。何でも勝手に決めないでよ…。」

「でもまだ決まった訳じゃない。お前がケリをつけたらの話だ。それに。」

「まだ何か…?」

「必要なもの。一生離さなかったら、お前は俺んとこには来ない。」


 そういえば…。考えようとしてたこと。


「…それでも司は待つの?ずっと待つの?」

「一生離さないって決めたなら、それはすげーことだ。それに越したことはない。」


 広い心に、心をたれる。


 優しくて、マメで、不思議で。だけど刺激的な発言を急にしたり、突然すっと告白をしたり…。出会ったばかりなのに、ころころ色んな顔を自然に見せる。こんな人、初めて会った。


 そういえば、司に気まずさを全く感じていない、初めから。話していて、楽しさを感じる。安らぎさえ…。なんか、ふわふわする。やっぱり、不思議…。


「そろそろ夕食だ。」


 司は立ち上がる。


「また来る、真琴。」


 私の頭をぽんぽんとした。大きな手。


「うん…。」


 微笑みながら、司は病室を出ていった。私は司の影を目で追う。影が見えなくなると、少し寂しくなった。

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