第18話

 私は心の目が覚める。


「それが…ケリ…。」

「そうだ。」


 司への疑問まで、時間はかからなかった。


「司はケリ、つけたことあるの?司は逃げなかったの?」


 聞いたことに後悔した。


「やってたバンドと、何か関係あるの?」


 いつもにこにこしてるイメージが付いてしまった司に、悲しい顔なんて似合わないと思った。


「俺はケリをつけるしかなかった。俺にはなかったんだよ、逃げ道が。」


 聞いちゃいけないこと聞いちゃった。


「ごめん…。」

「真琴。」

「…何?」


 司は私のことを見つめる。


「俺はずっと見てきた、お前を。」


 ドキッとした。そんな真っ直ぐな目で、真っ直ぐなこと言わないで。


「今までずっと突っ走ってきたんだろ?少し休め。先のことは休んでから考えればいい。お前には時間がある。」

「…司には、時間がなかったの?だからそんなふうに言うの?」


 私はまた聞いちゃいけないことを。司は切なく笑って、何も答えなかった。


「ごめん…司…。」

「謝るな。謝ることじゃねーよ。」


 司は語り出した。今となっては昔話。


「お前らのライヴは、いつ何度観ても飽きなかったなぁ。減り張りがあって、客を飽きさせないステージだった。曲順セトリも良かったよな、センスがあった。俺、CD持ってるぞ。」

「え??そうなの?買ってくれた人の顔は忘れないようにしてたのに…。」

「譲二に頼んだんだ。金かけただろ、CD作るのに。音がすげー綺麗だ。」

「うん…。」


 伝わってた。少なくとも、ひとりには。

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