第17話

「バンド…メンバー…。」


 そうだったんだ。だからあんなにCDがあって、雨に濡れたギターを持って帰った。


「よく行ってたんだよ、昔から。酒も飲めるし、ライヴも観られる。…いい所だよな、ライヴハウスって。」


 どこかで見たことがあるような、ないような。花柄のシャツは確かに存在し、それは司だった。


「情報は自然と入ってきた。ライヴで新曲を聞くみたいに、自然とな。お前らのバンドに限ったことじゃない。」


 さっきの司の発言と、昨日からの私の行動。


 司は全部知ってたんだ。私は丸裸。だから司は人として、医師として、私を心配してくれた。


「行くとこないなら俺んち住め。」

「は?!」

「俺は大歓迎だぞ。」

「何…言ってるの…。」

「そうすれば逃げられる。」

「だから逃げちゃだめなの!」

「だったらちゃんとケリをつけるんだ。」


 息が詰まる。言葉が出なかった。


 ケリ?つける?どうやって?何するの?何をすればいいの?


「まとめようとしてる荷物は必要か?」

「当たり前でしょ?じゃなきゃ…。」

「それは今のお前に、これからのお前に、本当に必要なものか?」


 胸にくる言葉。そう、司の言葉は胸にくる。的を得てるっていうか。私は冷静を取り戻した。


「本当に…必要な…。」


 私が考え始める前に司は言った。


「本当に必要だと思ったら手離すな、一生。必要じゃないと思ったら捨てちまえ、全部。」


 司の言葉は、私の心を貫いた。

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