第15話

 ほっと一息ついた頃、私は気が付けば考えていた。他の何でもない、ただ、サトシのこと。




 今、何してるかな

 今、どこにいるかな

 今、誰といるかな

 今、何考えてるかな

 私のこと、どう思ってるかな


 会いたい

 会いたいよ

 そばにいたい

 そばにいたいよ


 本当は、一緒にいたい

 一緒にいたいよ、サトシ


 もうだめかな

 どうしてもだめかな


 一緒にいられるなら、何だってする


 だから一緒にいさせて

 ねえ、サトシ




 ねえ、神様。時間を戻して。サトシを、私達を返して。お願い。


 私はこれからどうすればいいの?全て失った私は、どう生きていけばいいの?


 ねえ、神様。何か答えてよ。お願い。お願いだから。


 私はどうしてあの時、サトシの言葉をあんなにあっさり飲み込んでしまったのだろう。


 後悔しかない、真っ黒な未練の念に覆われる。ドロドロした渦の中に、吸い込まれてゆく。苦しさは、行き場のない想いで胸がいっぱいだから。抵抗をしないのは、現実を受け入れられていない証拠。


 全部全部、今更。なのに苦しい。胸に手を当て、服を強く握る。苦しい。苦しくてたまらない。


 勢い良く渦に吸い込まれる。目が回る。頭が揺れる。体の力が抜けてゆく。


 開けていられない目を閉じた世界は恐ろしいものだった。


 暗闇。何も見えない、何もない。でも、想いを想い出し、記憶がめぐる。サトシが浮かぶ。


 優しい笑顔と鋭い眼差し、頬の感触、胸の鼓動、そして指。サトシの全てが渦巻く。


 いやだ、いやだ。


 忘れなきゃ、忘れなきゃ。


 私は頭を抱える。


「いや…もういや…。」


 サトシのいない世界なんて、そんなの世界じゃない。何の意味も意義もない。サトシと一緒にいられない世界なんて、そんな世界、存在しない。


「…サトシ…。」




 そこまでは、覚えていた。

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